「くそっ! 真実へのピースがまだ足りないっ!」
一度は言ってみたかった台詞の中の一つ!
色々と事件の情報が収穫できたその日の夜、誠斗は途中経過報告のため、司の書斎室で司と向かい合っていた。
「どうかね?あれから日はあまり経ってはいないが、誠斗の事だから、少しは何か掴んでいるのではないかね?」
「はい。この事件はまだ隠されている事があるみたいっすね。ですから、明日も買い出しも兼ねて聞き込みをしようと思うんですけど…。」
明日の予定を話す誠斗の顔が何かを思い出したのか、苦笑いしていた。その理由を知る司も同じく苦笑いする。
「明日の買い出しは今日よりも買い込まないといけないかもしれないな。でも、気にしなくてもよい。椿も分かっているはずだ。」
「まぁ、そうなんですけどね。でも一応、明日は土産を少し増やしますよ。」
彼らが苦笑いしたのは、椿の事だった。
急いで帰った誠斗だが、既に昼食の時間を過ぎており、椿は午後からの稽古に励んでいた。椿は昼食までに戻ってくる誠斗の土産を楽しみにしていたため、気分転換の楽しみをできず稽古をしていた。だから、誠斗が稽古中の椿がいる部屋に入った瞬間、とてつもない怒りのオーラが誠斗に振りそそられた。それからは謝罪してから土産を渡したり、機嫌を取ろうと必死になったが、完璧に無視された。まぁ、約束を破ったのは自分なのだから、仕方ないのかもしれないが、夕食が終わった後も、妙に避けられる事が続いていた。
だからまた明日出掛けると聞けばどうやるか容易く想像できるが故に、苦笑いしていた。
「しかし、あまり神戸の警察の方々の機嫌取りもそろそろ難しくなってきている。急がせるようで悪いが、よろしく頼む。誠斗。」
「はい。畏まりました。司様。」
書斎室を後にし、使用人の部屋がある離れに向かう。余談だが、普通の使用人の部屋は一人部屋はあり得なくて、同じ部屋で他の使用人との共同生活を共にすることが多いが、司は使用人にも心遣いを掛けているため、一人ずつに部屋を割り振っている。
そんな離れの自分の私室に戻った誠斗は事件についてわかっている限りの情報を頭で整理していた。
しかし、この事件の謎を解き明かすためのピースがまだ少なすぎる。今日だけの情報だけじゃ、被告人の高橋氏が嘘をついているとしかわからない。なぜ嘘をつくのか。それは高橋氏の自首する前の行動を知れば、分かるかもしれない。
明日の回るルートを計算し、誠斗はベッドに寝そべり、眠りについた。
★★★
翌日。
誠斗は再び買い出しも兼ねて情報をそれとなく聞き出す。そして、三人が一緒に育ったという場所まで来て、その区域では評判の甘味処で一服する事にした。
みたらし団子を注文し、口に入れるとたれの甘さと団子のもっちりさが絶妙な味になっていて、思わず一本分を食べきった。久しぶりにおいしいものを食べ、誠斗は店主に話しかける。
「なぁ、店主! このみたらし団子は絶品だぜ!! 評判以上の味だ!」
「おお! それは嬉しいね~!! いつ振りだろう、そう言ってくれたのは…。」
「?? ここは行列ができる甘味処じゃないのか?」
店主の言い回しに疑問を覚えた誠斗は店主に問う。
「ああ…。この前、あの殺人事件があっただろう。実はその被告人となったケンちゃんがここで働いていたんだよ。だから”殺人をするやつを雇った店なんて誰か行くかっ!”って事で、最近は客足が遠のいたんだよ。」
「なるほどな…。」
確かに店内を見渡しても、客はいない。誠斗は注文した団子を全部平らげると、空になった皿を店主に差し出す。
「店主。 あともう二皿くれ。 こんな美味しい団子を食べないなんてもったいないぜ! おかわり!」
笑顔でそう言うと、店主は嬉しそうに頷き、厨房の方へ走っていく。数分後、団子を山のように持ってきて、誠斗に差し出した。誠斗は礼を言いつつ、店主に一緒に食べながら、話をしようと持ちかけ、店主もそれに賛成した。誠斗の人柄を随分気に入った店主はいろいろ教えてくれた。
ケンちゃん達、三人はこの辺りでは有名だったらしく、ケンちゃんとコウ君はどっちが梅子の夫になるか日々競争していたらしい。梅子に猛アピールした結果、梅子はケンちゃんと結婚した。コウ君は最初は沈んでいたが、梅子の相手がケンちゃんだったから、二人が幸せならいいと身を引いたそうだ。それからも三人の交流は続いていて、ケンちゃんもコウ君も立場は違えど、お互いに梅子を大事にしていた。
しかし、梅子は小さい頃から重い病気を抱えており、とうとうその病気が悪化して寝たきりが続いていたそうだ。医者に診せようにも日本ではまだ完治させる事ができるほどの医療環境ではなく、ただ病気が進行するだけだった。そんな時に異国の医者を紹介してくれたそうで、治療代はかかるが、手術をすれば完治すると分かった。そこで、ケンちゃんは警備員の仕事と並行して、この甘味処で店員として働いていた。
そんな事情を聞いた誠斗はいずれ訪れるだろう自分自身の未来にも照らし合わせていた。この先必ず訪れる椿とあいつの将来…。俺はそれを受け入れなければならない時が来るだろうな…。
そう物思いに耽りながら、店主の話を聞き、また来ることを告げ、椿の土産として団子を持ち帰って店を後にした。
それからは帰りがてらに色んな食べ物の出店を食べ歩いたり、自警隊の駐屯する場所へ行ったりして情報を集め、誠斗は一つの仮説を立てる。
もし、この仮説が正しければ、被告人の高橋氏は大変な事をするかもしれない。
誠斗は買い出しを終え、屋敷に戻り、いつも通りの仕事ぶりを発揮する。ただ、心の内ではかなり焦っていて、司の帰りを待ちわびていた。
そして、司が帰宅し、夕食後に司と共に書斎室へと入る。司に誠斗の調べた情報とそれを元にした推理を話すと、司はそれまで一言も話さなかった口を開き、誠斗に全てを一任すると告げ、窓の外を眺める。誠斗は一礼して書斎室を後にする。
誠斗が出て行った後、司は椅子に腰かけ、机の引き出しからペンと用紙を取り出し、手紙を書く。それが誰に宛てた物か、どんな内容なのかは今は語られず。
そうして、誠斗は使用人の服を脱いで、黒い服に着替え、窓から外に飛び出し、港町へと足を向かわせた。
目的地はもちろん、被告人が留置されている自警隊の地下牢である。
いよいよ、真相が明らかに。