幼馴染のいない私には羨ましい。
(幼馴染って何歳までだっけ?)
生意気な幼馴染
夜の月明かりが優しく照らすベランダで男の子が手をかざして、何かを言う。
「大丈夫。…………… から。」
そして、青白い光の中に姿を消していく。
「待って! どこに行くの?…、待って!! ……!!」
私は後を追いかけるけど、距離がどんどん離れるだけ。そして、誰もいない光の中で一人で歩く…。
「……、……さま。……じょうさま。 …椿お嬢様!」
自分の名前をどこからか呼ばれ、現実に引き戻される。
目を開けると、そこには真っ白な天井が見え、私を覗き込む女性の使用人(メイド)がいた。
「お嬢様、おはようございます。 朝食の御支度が整いましたので、お呼びに参りました。ささ、お着替えいたしましょう。」
そういうと、用意しておいた私の服を持って、迫ってくる。私は、危機を感じて、眠気を吹っ飛ばし、勢いよく起き上がる。
「だ、大丈夫です! 私一人で着れますから。
そうだ、朝食にデザートが食べたいです。その準備をしていただいても構いませんか?」
女性の使用人(メイド)は拗ねた表情をしながら、「畏まりました。」とお辞儀して、去っていった。ほっと安堵して、早速着替えに取り掛かる。私の世話役も兼ねる先程の使用人(メイド)は私の着替えを徹底的にしようとするため、身支度だけでもかなりの時間がかかる。そのための時間を確保するため、朝早くから呼びに来たりする。私は遠慮してほしいと何度も言っているけど、これだけは譲れない!と態度を改めようとしない。
「一人でも着替えられるのに…。 それにそんなに早く起こしに来なくても…。
…、でも、今日は助かったかも。」
着替えながら、今日の夢を思い出す。最近、よく見る夢。
もう顔も思い出せない男の子を追いかける夢。
いまだにあの男の子に会いたいという欲求が積もった結果かなっと椿は考えながら着替えていると、
「おはようございますっ! いや~、今日もいい天気ですね~。
早朝の空気を吸うにはぴったりですよ! そう思いません?お嬢?」
窓を勢いよく開けて、窓枠に座り込みながら、リンゴを食べる、片目に眼帯をしている青少年が悪気もなく、話しかけてきた。
「!!! 思わないから、出てって~~~!!! いつも、窓から入ってこないでって言ってるでしょ~!! 誠斗!!」
着替えている最中だったため、色白い肌は見え隠れしている上、細長い脚の脚線が際立って見える。そんな状態を見られたと、手に届くものを片っ端から青少年、誠斗に投げ込んでいく。だけど、それを軽々と躱し続ける誠斗。身の軽い動きで椿に近づいていき、椿の手首を掴み、持っていた朝の目覚まし用の紅茶のポットを取り上げると、素早い動作であっという間に椿の服を着せ終わった。
「朝から元気なのはいいですけど、そんな恰好ではいつまでも支度できなくて、朝食が食べられませんよ?」
にこっと笑う誠斗を真っ赤な頬を膨らませて睨む椿。
「うるさ~い! 誠斗が覗きに来たからでしょ!?」
「俺は呼びに来ただけですよ?」
そんな二人の言い合いが聞こえてきたのか、この屋敷の当主であり、椿の父親でもある花菱 司(はなびし つかさ)が部屋のドアから入ってきた。
「どうした?二人とも。 ずいぶんと楽しんでいるようだが、そろそろ朝食にしないか? 父さん、少々空腹でね。」
優しそうな顔をして、人を和ませる雰囲気を持った司が仲介に入る。
「だって、お父様! 誠斗ったら、また私の部屋に無断で入ってきたのよ!信じられない!」
「私だって、勝手に娘の部屋に入っているさ。それに、誠斗は椿の幼馴染であると同時に椿専属使用人兼護衛じゃないか。彼ほど優秀な人材はいないよ。」
「それなら、生意気な誠斗よりもっと可愛げのある使用人がいいっ!!」
カップを手にし、再び誠斗に投げつける椿。それをあっさりキャッチし、思い出したように告げる。
「そうそう。 早く朝食の席に行った方がいいと思いますがね。
おいでになられていますよ? 貴臣様。」
それを聞いた椿は一瞬固まり、それから鏡を見ながら髪を整え、足早に部屋を後にした。
「…相変わらず、貴臣君が来ると椿ははしゃいでおるな。」
「そうですね。屋敷から出ない箱入りお嬢にはいい話し相手ですし。」
そのような会話がされている間、椿は久しぶりに会うもう一人の幼馴染である貴臣に会うため、急ぎ足になりながらも上品な歩き方で食卓の間へ向かっていた。
普通の青少年は女子の着替えを見たら、鼻血を吹き出すか、頬を赤らめるはずなのに。