死んだのに何でというかもしれないけど、だからこそ回想シーンで行きたいと思います。
ご了承くださいね。
「コウさんは梅子さんの手術代も三人で誓った約束も守ろうとした。その証拠にあんたの事を調べている間、コウさんの事も色々と教えてもらった。ここの町の皆は気がいい奴ばかりだからな。ちゃんとあんた達を気遣っていたよ。」
前置きして、町の皆からの聞いたコウの話を健介に聞かせる。
公昭は健介から梅子の手術の事を知り、愕然とした。そして梅子のために必死に仕事を増やし、働く健介を見て、自分に何ができるか考えた。
そこで、考え付いたのが二人のサポートだった。表立って自分も手伝うと言えば、責任感の強い健介の事だ。助けは不要だと断っただろう。
だから、健介には告げず、陰からこっそりと健介を見守って、無理をする健介の歯止めを調整する事にした。健介のいない間、店主に適度に水分と休憩を取るように言うようにお願いしたり、店主に差し入れを持ってきたり、警備の時は根詰ないように健介の好きな和菓子や料理を机に置いて気分を発散させたりした。そして、梅子には健介が働いている間、介護をしていた。もちろんこれも極秘に。梅子も健介に心配かけたくないからと秘密を要求したためである。
(二人とも、性格似てるな~。 そこに惹かれあったんだろうけど。)
コウがそう思い、微笑を浮かべていたのは、誰も知らないこと。
こうして公昭がサポートを続けていたある日、病院から健介が出てくるのを目撃した公昭はげっそりとして心ここに非ずという尋常じゃない健介の姿を見て、声を掛けられず、気になって健介の後を追った。そして、健介が日が出ている内から大量の酒を飲み始めた状況から梅子の事で何か聞いたのかもしれないと公昭は感じた。悪い意味での報告だろう。終いには酔いながら、泣き出した。
少し離れた席で様子見していた公昭はあまりにも居たたまれなくなり、健介の元に行こうと腰を浮かせた時、健介に近づく男が現れた。帽子を目深に被って何やら話しかけている。内容を知ろうと耳を必死に傾ける。そうして聞こえてきたのは驚きの連続だった。
梅子があと1か月で死ぬこと、それまでに手術を受けるにはまだお金が足りない事、それを稼ぐのにいい儲け話がある事、その仕事が停まり場の警備をしない事。
このような話を聞いて、公昭は最初は絶望した。梅子の命が短い。だが、手術を受ける金額までは届いていない。自分がもし健介の断りを無視してても出したとして、それでも足りない真実を知ったから。もうどうにもならないのかと考えていたら、儲け話の内容を聞いて、小さな希望が生まれる。警備をせずに黙認すれば、金額が手に入る。そうすれば、梅子も助かり、健介も無理をして働かなくてもいい。公昭はこれに願いを掛け、心の底で健介が引き受ける事を願った。
しかし、健介はそれを断った。それを聞いた瞬間、『何を言ってるんだ!』と先びそうになる。慌てて自分を抑え込んで、話の続きを聞く。すると、自分がどれだけ愚かな事を考えていたか気がついた。
健介は『確かにその仕事をして、上手くいけば大金が入り、手術も受けられる。だけどな~、俺は約束したんだ。コウは俺の相棒であり、憧れなんだ。そんなコウと一緒に立派な男になってやるからって梅子に約束した。それなのに、俺のたった一瞬の出来心でした事がコウと梅子を傷つけるような真似だけはしたくない。それが必要だったとしても、何かで代弁できるならそっちで俺はやってやる。』と帽子の男にそういい返した。
帽子の男が不満そうに去ったのを見送って、公昭は声を押し殺して、泣きまくった。自分は儲け話にすぐに乗ってしまったのに、健介は正々堂々と生きる事を決めた。自分は後もう少しで健介が憧れてくれている自分を捨てるところだった。そして、それを自分が憧れている健介に助けられた。
こんなに大事な友なんだと深く噛み締めた。
それ以来、健介は仕事を増やし、できること全てを使って仕事に励むようになった。それを見て、自分も健介には内緒で、仕事が被らないように神戸まで足を運び、そこで多くの仕事を掛け持ちした。その甲斐あって給金も入り、二人で足せば何とか手術まで扱きつけるあと一歩まで来た。
それを報告しようと健介の元へ向かっているところ、酒場で健介にあの儲け話をしていた帽子の男が甘味処で接客している健介を路地からじっと見つめていた。
その男からは是が非でも受けさせるという意思を感じた公昭はどうにかして健介から引きはがそうと策を練った。
そして、行きついた答えが身代わりだった。
そうすれば、健介のつけ回しもなくなるだろうし、船の停まり場で何かをするつもりの男の悪事も同時に食い止められるかもしれないと考えた。
それから数日、公昭は顔に火傷をしたと言って包帯をし、健介に成りすまして男と接触した。やはり梅子が手術するまでに稼ぐのは難しいから仕事をくれというと、男はニヤッと笑い、『そういうのを待っていたよ』と当日の仕事の内容を詳しく話しだす。
聞いていく内に、男一人の悪事ではなく、組織的なものだという事が分かり、危ないものだと瞬時に理解する。聞いてしまった後のためもう引き戻す事は出来ない。しかし、公昭はこれを健介が受けなくてよかったと思った。健介はこっちに踏み込んではいけない。この男達の陰謀は俺が止めて見せると決心した。
そして実行日時が近づいたある日、久しぶりに健介から声を掛けられる。公昭は驚きつつも自分に声を掛けてくれた健介が嬉しくてつい声が弾んだ。そして用件を聞くと、梅子の誕生祝いを三人でしないかと誘ってくれた。もちろんと伝え、その日は仕事が入っているから代わってもらうようにお願いするよと伝える。
仕事のしすぎで少し痩せた健介を見て、これで気持ちも体も休んでくれればと思いながら、どんな祝いにするかその日は話が盛り上がった。
健介が帰宅するのを見送ると切なそうに健介の背中を見続ける。
「…ごめんな。 俺は誕生祝いできないや。 嘘ついてごめんな。でも…これでいいんだ。」
そう健介の背中に向かってそっと呟いた。
そして、前日の警備の時に非番になったと嘘を話し、明日の段取りを決める。仕事が終わった後、甘味処の店主に伝言を頼み、真夜中に話があるから行きつけの酒屋でなっているようにという伝言も伝えてもらった。
もし、行きつけの酒屋で待っているなら、店主が覚えてくれるし、商人になってくれると思ったからだ。
これで準備を整ったと、公昭は懐から手紙を取り出す。
その手紙は遺書だった。今回、帽子の男に関わってから身の危険が高い事を肌で感じていた。もし自分に何かあれば、これを健介に託そうと考えていた。
再び懐にしまい、警備の仕事を始めた。
奴らの正体を少しでも知れたら、自警隊に知らせないと。
そう思い、奴らが現れる時間を時計を見ながら待った。
時計を見ながら、今頃健介と梅子は誕生祝いをしているだろうと想像する。自分もそこにいれば、二人と食事して笑って団欒していただろう。そうなるために、自分はここにいる。二人を守るんだ。
そう考え込んでいた時だった。健介が仕事着をして、警備小屋に現れたのは。
いきなり声を掛けられて健介がここにいた時は心底驚いた。ここに来るはずないのに、わざわざ仕事着まで来ていた。声を裏返しながら理由を問うと、「一緒に警備するため来た。」という。俺の事を考えてきてくれたのは分かる。でも、今は来てはいけない!! 早く去ってくれっ!! あいつらはお前を!!
声を荒げて去るように怒鳴る公昭。それと同時に公昭は最後の取引の会話で男が要求した事が頭を過った。
それは”相棒である公昭を殺害すること”だった。
それを聞いたときは表面では驚いた。しかし内面では『健介じゃなくてよかった』と安堵する自分がいた。健介に成りすましている本人に要求しているとは気づいていない男は重要な事だと言ってきた。
それを健介がしたようにするわけにはいかない。無実で刑務所に入れば、梅子が一人になってしまう。それなら、非番という事で来させないようにすればいい。
そう計画していた公昭は突然の健介の登場に焦っていた。時計を見て、時間を確認し、一向に帰らず、理由を問いただす健介にどう納得させればいいのか言葉が見つからずにただ時が過ぎていく。
やがて健介と口論になり掛けたところで、窓からこちらに向かってくる覆面の男が目に入った。
計画では包帯で顔を隠し、健介に成りすまし、自分の事を聞かれたら『家で妻の誕生祝いをして、酔って寝てる』という予定だった。
しかし、目の前には本人の健介がいる。既に覆面の男は近づいてきており、外に逃げる事は出来ない。
健介を守るためにはもうこれしかないと思った。
(ここで、俺が死んだらあいつらの要求通りになる。そうすれば、要求通りに俺が死んだ現場を見れば、あの覆面の男もこの状況に納得するだろう。)
公昭はそう決心し、念のために護身用として持ってきていた包丁を取り出し、自分の胸に勢いよく突き刺した。
「ぐぬぬぅぅぅ・・・・。」
「公昭っ!! お前、何を!!」
翳む視界に健介の驚愕と嘆きの表情が目に映る。
駆け寄ろうとする健介に沈んでゆく意識を縛りだし、最期の言葉を呟く。
「し…わせに…な…よ…」
(ごめんな…。一緒にお前と立派な男になるって約束したのにな。
俺はここまでだ…。 せめて、お前と梅子が笑顔でいてくれれば…俺は嬉しい…。)
こうして、公昭はぐたりと床に倒れ、息を引き取った。
その死に顔にはただ穏やかな笑みを浮かべていた。
★★★
それからは何とか助けようと健介が包丁を向いたところに覆面の男が現れ、覆面の男と停まり場での怪しい動きをするやつらを見て、公昭の死体から自分に舞い込んできた儲け話を公昭がやっていたと勘違いし、現在に至る…。
町の人々から集めた証言によって忠実に公昭の行動や心象を物語った誠斗の推理を聞き、健介はただ涙を流す事しかできなかった。
「コウさんはあんた達を何が何でも守りたかったんだ。それだけあんた達の事が大事だったから…。」
そういって、誠斗は懐から一通の手紙を取り出した。
それは、公昭が書いた遺書だった。
「この遺書はコウさんのだ。さて、あんたに問題だ。これはどこにあったと思う?」
「え…?」
泣きじゃくって腫れた顔で誠斗の持つ手紙を見詰める。しばらく考えて、「公昭が持っていたのか?」と答えるが、誠斗は首を振る。左右にだ。
「実はこれ…、あんたたち三人で撮った写真の入った写真たての中に入っていたんだ。
咄嗟に入れて、この遺書を三人で楽しそうに映っている写真と一緒に思い出に浸りたかったんじゃないかな。」
誠斗から公昭の遺書を受け取り、大事そうに抱きしめる。
「コウ…!! コウ…。 馬鹿な奴だぜ…。」
再び涙を流す健介の表情には自責の念や後悔は薄れ、友への愛情がたくさん感じられる微笑みだった。
真実を知った健介は公昭の気持ちを受け止めて、生きていくことになるだろう。
それを心からそうなるように誠斗は目の前で泣く健介を見て、願った。
誰でも心は揺れるよ。でも、絆ってほんとにすごいと改めて思う。