投稿する私も涙が止まらなかったりする。(号泣)
高坂公昭の事件が解決し、和やかないつもの港町に活気が戻り掛けたある日。
自殺と報じられて健介が釈放されてから1ヵ月経った時だった。
再び港町に衝撃的な事件が起きたのは…。
朝早くに司が誠斗を書斎室に呼び出し、誠斗も急いで書斎室に向かった。書斎室に入り、椅子に座って、真剣な眼差しで机の上の書面を見ている司の前に立つ誠斗の髪はまだ、寝癖が付いていた。
「おはようございます。それで、どういった御用でしょうか?」
誠斗が用件を聞こうと聞いてみるが、中々司は話そうとしない。机の上にある書面の内容の事だろうと察している誠斗だが、司が口を開こうとして悩んでいる様子を見て、それほど重い案件なのかと思い、黙って待つ事にする。
覚悟を決めたのか、司はため息を吐き、深呼吸を数回して気持ちを落ち着かせると、今まで重く閉ざしていた口を開く。誠斗も待っている間に覚悟を決めて構えていた。しかし、司の口から出た言葉は誠斗の思っていた事より遥かに凌駕するほどの信じられない内容だった。
「誠斗…。覚悟しておいてくれ…。
昨日…、いや、今日の深夜に心中事件が起きたそうだ。その心中した者達の名が…高橋健介と梅子夫妻…だそうだ。」
「なっ!!! あの二人が心中ですって!!? そんな馬鹿な!!?」
聞かされた衝撃の深さに誠斗の意識が少しの間飛んだ。しかし、司に呼ばれて、すぐに意識を取り戻し、机に勢いよく手を叩きつける。
「どうしてそんな事に! 二人は無事なんですか!?」
望みを込めて二人の安否を問う誠斗に司が首を振る。左右にだった。
「残念だが、二人とも…。この報告書によれば、どうやら健介が梅子を殺害した後、自分で首を吊って死に心中したようだ。首を吊った健介の足元には遺書があったようで、”二人で考えた結果、最愛の親友の元へ行くことにした。”と記されていたそうだ。」
自警隊からの報告書を誠斗に渡し、それを受け取った誠斗は必死に間違いを探すように食い入って報告書を読む。
「あの二人が心中などする訳がありませんっ!」
報告書を読み終え、机に叩きつけて、司に訴える誠斗に司も同意の頷きを返す。
「私もそう思っている。しかし、現場を見る限りは疑問に思うようなものはないそうだ。」
「…なら、もう一度俺に捜査を依頼してください! 何が起きたか俺が調べてきます!」
誠斗の言葉に司もしばらく考え、捜査を依頼しようとした時、書斎室の扉にノックがかかる。
そのノックをしたのはこの屋敷の使用人の中で一番の実績を誇る若葉執事だった。若葉執事は今日の新聞の朝刊と朝食前の紅茶を運んでやってきた。
準備が終わると、颯爽と部屋を後にする。若葉執事の気配が去り切ってから窓から誠斗が入ってくる。若葉執事が部屋に入る直前、窓から飛び出し、近くの木でのんびり朝の日差しを浴びて寝てます~っという雰囲気(バレた時用の演技)を出して、若葉執事が部屋を出るのを待っていたのだ。
「ふぅ~。いつになってもあの若葉さんの気配はおっかねぇ~。」
昔から尊敬する人だが、どうにも気配を掴めない相手なので、こういう時は神経を砥ぎ済まないといけないため、誠斗は若干苦手なのだ。
再び書斎室に入った誠斗は新聞を凝視する司に目が止まり、気になって司が読む新聞の一面を覗き込んだ。そして誠斗も記事を見て思わず凝視した。
そこには健介と梅子の心中事件が早くも記事になり、神戸警察が事件を収拾し、既に幕を下ろしていた。
「なっ!? こんなに早くに警察を動かすなんて…。 事件が起きたのは今日の深夜!
まだ数時間しか経っていない筈なのに捜査は終了っ!!?」
納得がいかないと司に抗議する誠斗は憤りを滲ませる。
「…私が命じた事ではない。というより私もこの報告書を受け取ったのがほんの半刻前だ。それだけですべてを対処する訳がない。」
「…では、これは…!」
「恐らくそうだろう。神戸の警察が私が圧力をかける前に動き、事件を終了させた。」
「司様より先に神戸の連中が事件を把握…? ありえない…。もしかしてこれは…」
誠斗がある仮説を頭で組み立てると、それを読み取った司も誠斗に賛同する。
「ああ…。これは隠蔽だ。つまり心中事件に見せかけた殺人だ。どうやら裏に潜む奴らはかなり精通している者だろう。警察まで動かすとは…。」
「司様…!このままではこの港町は徐々に荒れていきます。彼らを捕獲しないと…!」
「しかし、彼らの正体が掴めていない。下手に動けばこちらの首を狙われかねない。」
「なら、ここで大人しくしていろというのですかっ!!」
誠斗は新聞を丸め握りつぶしながら司を通し、得体の知れない黒幕に怒りをぶつけた。
「そうとは言っていない。今回の心中事件は既に神戸の警察の手に渡り、封じられてしまった。ここから彼らを追う事はもうできない。
なら、次に彼らが動き出した所を抑え、確保するんだ。」
誠斗に今後の行動を伝達する司の目には意志を貫いた熱い眼差しが宿っていた。その眼を誠斗は懐かしく思い、まだ抑えられない感情はあるものの、司に頷き返した。
・・
「畏まりました。では、その際はあれの使用を許可してください。」
「…ああ、必要なら許可する。ただし時と場所を考えるように。」
「ありがとうございます。では、俺はこれから椿を起こしに行ってきます。朝食の席にて。」
そう言葉を残し、誠斗はドアから入ってきたが、窓から出ていき、木に飛び移りながら、椿の私室の窓まで向かう。
しばらくすると、椿の私室の方から悲鳴と怒鳴り声、誠斗の笑い声が入り混じって司の耳にまで聞こえてくる。
誠斗のいつもの椿の起こし方に司はさっきまでの緊張感と憤りを胸にしまい、苦笑を漏らす。こんな時でも、和ませようとする誠斗の心遣いには本当に助かる。
そう思いながら、食卓の間に向かい、愛しい娘との食事を楽しむ事にした司だった。
★★★
時は同じくして、船の停まり場の近くの倉庫街の一つの倉庫で待ち合わせをする男がいた。その男は顔を布で覆い、素顔を隠していた。そう、公昭の自殺した時に現れた覆面男だった。
そして覆面男が待つ灯りを付けずに真っ暗にした倉庫に人が入ってきた。倉庫内がその入ってきた人の足音が鳴り響く。
今入ってきた者は覆面男の前に立ち止まると、紙の束を覆面男に投げ渡す。それを片手であっさり受け取ると、中身を確認せずに懐にしまい、代わりに札束を今度は投げ返す。
札束を受け取ると、パラパラと確認し、懐へ忍ばせた。すると、札束を受け取った者が覆面男に話しかける。
「約束通りに始末はしておいたぞ。事件も心中事件として処理をしておいた。文句を付けようがないくらいな。」
「そうでなければ困る。そのためにお前達を雇ったんだ。仕事ができなければ斬るだけだ…。」
覆面男は自分の愛刀を撫でる。それを見せつけられている男も同じ部類か含み笑いをして腰に帯刀している刀に手を置く。
「それより、その紙は重要なものなのか? 家中探してやっと見つけたが。」
「ああ…。これには俺達の事を調べ、まとめていた書面だ。あの野郎、俺様を特に嗅ぎ回っていやがってな? 目障りだったから始末した。まぁ、元々殺す算段だったからそれが早まっただけだ。俺に刃向う奴は斬るまでだ…!」
「そうだったのか。まぁ、俺らもいい事させてもらったんで、すっきりしましたんでお互い様ですな。」
「ふん…。神戸警察の敏腕警察官が裏で悪どい取引してやがって大丈夫なのか?」
覆面男が言ったように、この男、今回の心中事件を真っ先に担当した警察官だった。
「それこそ、お前も裏では好き勝手殺っているではないか。いつも後処理してやってるんだ。少しは感謝してほしいもんだね。
それに、殺人事件の時は、あの生け簀かねぇオッサンに足止めされたまま、事件が解決されてしまって腹が立ったからな。そのお礼ができてこっちは万々歳だ。」
「ふふふ。それは何よりだったな。じゃ、用は済んだ。またの時はよろしく頼むよ。みんなの英雄、警察官殿?」
嫌味らしくいうと、唇を吊り上げ、含み笑いをしながら、倉庫を後にした。倉庫を後にしてすぐに部下らしい筋肉質で体格が大きい男が後ろに付き従う。
倉庫街を人目が付かないように歩きながら、覆面の男は深夜の時の血の感触を思い出し、内側で興奮していた。
(くくく…!あれは、最高の時間だったな~。次はどんな奴を斬ろうか…。)
自分中心のやつはねじれるとここまでなのか…!
公昭の思いをこんな形で…!