※残酷な描写があるため、お気を付け下さい!
あの事件が起きたその日、梅子が手術を無事に終え、退院してから1週間経った時だった。梅子の快復を心から喜び、健介は栄養がある物をと朝から港へ行き、新鮮な魚や野菜を仕入れていた。買い出しする健介の顔は幸せいっぱいの笑顔だった。たまに悲しそうな表情になる時もあるが、それでもすぐに笑顔で次の店へと歩き回っていった。
そして、梅子が『快復したから、久しぶりの手料理を披露する』と言って台所へ立ち、それを健介は『俺が作るから、休むように』と止める。そんな押し問答が繰り返され、最終的に二人で笑い合いながら仲良く料理して美味しく食べた。
二人は今まで存分に話せなかった事を出し切るように話が弾んで賑やかな夕食を食べていた。その食卓の上には3人分の食事が並んでおり、1人分には全く箸を付けずに置かれていた。その1人分の食事にたまに健介と梅子は話しかけ、盛り上がっていた。
「コウ(君)、美味しいだろ(でしょ)?」と…。
そんな3人(実際は2人だけどそっとしておいて下さい)の空間を作って食べたその日の深夜に事件が起きた。
幸せそうに微笑みながらいい夢見を見ているだろう、寝床で寝静まる梅子の頭を起こさないように優しくなでてから、健介は暗い夜の中、日にちが跨いで人が寝静まった中を家を出て、港町中を歩きまわった。
健介は釈放されてから毎日のようにこうして深夜に外出し、ぶらぶら歩いたり、行きつけの酒屋(深夜営業)で飲んだりしていた。理由の一つとしては気分を落ち着かせたかったからもある。今でも隣で公昭が一緒に酒を飲んでいる幻想が過る。ついこの間までいた親友がいないっていうのは気持ちに整理を付けてもやはり寂しい物なのだ。
それでもこうして、深夜をうろついている理由はまだある。公昭の死に関わったあいつらの正体を突き止める事だ。それが今公昭への供養だと健介は思って、夜な夜な彼らの情報を掻き集めていた。昼よりもこうした時間帯の方が情報が集まりやすいからだ。
それに、もしあいつらが健介を狙ってくるなら、家の中よりも外の方が犠牲を減らせるからだった。
こういう理由から酒場で飲んでいる時、彼らの裏情報が舞い込んできた。それを土産に今まで貯めた情報も持って、この港町で唯一信頼できるあいつに渡そうと健介は隠してある書類を取りに家に向かう。あいつ…、公昭の思いを汲み取って教えてくれた誠斗に託すため…。
しかし、家に帰った健介に待ち受けていたのは、変わり果てた梅子の死体とそれを取り囲む黒ずくめの連中だった。
「な…! お前達、梅子に何をしやがった!! 梅子から離れろっ!!」
戸口に置いてある木刀で黒ずくめ達に突進し、木刀で彼らを薙ぎ払う。警察官になるために剣術は身に着けていた健介は黒ずぐめ達の無数の小刀の投刀術も木刀で軌道を変え、彼らの急所に一撃ずつ喰らわす。そうして、梅子を抱き起し、脈を診る。しかし脈はなく、目を開けた状態で健介を見ている眼にはもう既に生気はなく、健介を見てはいなかった。その眼からは涙が流れていた。梅子の身体には拷問を受けたような斬り傷が多数あり、何十回も刀で身体を貫かれた跡があり、最期の一撃として手術で治した心臓を一突きされていた。死に絶えた後も、何度も切り刻まれ、何とか原形を留めているという状態だった。
「梅子…!俺を見てくれ…! 頼む…! 返事してくれ…!!」
健介は涙を流しながら梅子に必死に声かけるが、梅子は首や手をだらりと床にたらすだけで、返事はしなかった。
健介はこの現実に耐えられず、大声で泣き喚いた。大切なものをまた守れなかったと嘆いた。絶望した。自分を呪いたくなった。
そんな感情に浸る健介の背後から忘れられない声が聞こえる。
「いいね~。その泣き面。女を痛めつけて正解だったな。」
その言葉に憎悪を露わにし振り向くと、あの時の覆面の男が戸口に背を預けながらこっちを見ていた。
健介は抱きかかえていた梅子のもう動かない死体を優しく端に寝かせ、よろよろと立ち上がる。
そして、急所を打たれ、気を失っている黒ずくめの一人の手から刀を奪い、覆面の男へ歩きはじめる。
「お前が…!梅子を…!!」
「ああ。実に楽しませてもらった。そいつ、必死に『ケンちゃん!!助けてっ!!』ってお前を呼んでいたぞ?実に傑作だった。女を斬り刻むのは本当に最高だ…。良いように泣いてくれる…。くくく…!!」
「黙れっ!! 公昭と梅子の仇だっ!! お前には死んでもらう!!」
健介は床を蹴り、鞘から素早く刀を抜き、覆面男の喉元を狙って一閃する。
それを覆面の男は顔を後ろへ傾け、避けると、足で健介の手の甲を蹴り、刀を落とす。それでも諦めずにそのまま健介が手を拳に変えて、殴りにかかる。顔面まで拳が届く間際に健介の動きが止まった。
健介の後ろから筋肉質な大柄な男が片腕だけで健介の首の前に回し、羽交い絞めにした後、そのまま健介を持ち上げた。健介は足が床に着かず、首を絞めつけられる状態となった。この腕から抜け出そうと腕に噛みついたり、引っ掻いたりしてみたがびくともしない。
息ができなくなってきた頃、その様子を見ていた覆面の男が傍に寄ってきて、微笑しながら健介に哀れを投げかける。
「お前は腕もよい、それがあれば念願だった警察官にもなれただろう。だがな…!俺様を調べるのはよろしくないぞ…?だからな…、俺様もお前の事を調べてみた…。すると、どうだ?実はお前だと思っていた奴が自殺した奴だったっていうじゃないか?
驚いたね~。俺様を騙してた訳だ。しかもその理由が親友と好きな女との約束のため?ふざけんな!?
そんな事のために俺様を嵌めようとしていただと!!?俺はそれがこの世で一番嫌いなんだよっ! 」
そういうと、怒りで込み上げてきたため、近くにあった漬物石を刀で一目散に真っ二つした。その躊躇いもない鋭い斬撃に目を奪われた健介は腕から脱出する事を忘れる。
そして、荒れ狂う欲を分散させた覆面男は再び健介と正面切って一方的に話す。
「その償いとして、あの事件の問題となった女を甚振ってやったんだよ。そして、お前もお前の大事な奴が待っている場所へ連れて行ってやるよ…。地獄へな…!」
最後の覆面の男の言葉を合図に片腕で健介を羽交い絞めにしていた男が更に腕に力を入れ、健介の頭に手を抑えると、力を加える。
ゴキッボキッ…!!
誰もしゃべらなくなった家の中で骨が砕ける音が響く。
もう言葉を発さず、男の腕を掴んでいた健介の腕が力なく下に落ちた。
「そいつの首に縄を付けて吊るしておけ…。自殺に見えるようにしろ…。」
「仰せのままに…。」
先ほどまで無言を貫いていた筋肉質な大柄な男は覆面男の命を受け入れ、部屋の奥へと健介の死体を運んでいく。その姿を見送りながら覆面男は嘲笑いながら健介に話す。
「酒場の店主にはおいそれとしゃべらない方がいいぞ…?くくくはははははは!!」
その言葉を最後に覆面男はこの家を去った。
そして、近くで見張りをしていた自警隊の一人の死体を部下に持たせ、海岸まで連れて行く。
今回の剣は心中事件にするため、健介には殆ど無傷にしなければいけなかった。斬りたくてしょうがなかった覆面男は健介の代わりに健介の警護をしていた自警隊に金を払い、協力させた後、気絶させたのち、海岸まで連れて行ったのだった。
その後、その自警隊員の姿は誰も見る事はなかった…。
自分中心の奴は狂うとこうなるのか…!?