お茶会と言ったら、”アリス”が頭に過るな、私は。
「キャ~~~!! ちょっと、誠斗!危ないわ!」
「大丈夫ですって、お嬢。だから腕の中で暴れるのはやめてもらえます?いくら俺でも落としますよ?」
誠斗の言葉に動くのをやめて、誠斗の首に手を回してしっかりとつかむ椿。
屋根を飛び移りながら、お茶会を主催する藤井氏の屋敷へ向かう椿と誠斗はいつもの調子で話す。
椿も初めは怯えていたが、屋根を飛び移りながら誠斗がジャンプする際に見える、街並みを見て、上から見る景色に心を奪われ、怖さは消えると同時に楽しさに見出していた。
当の本人達は屋根の道を楽しみながら向かっているが、下から誠斗達を見る町の人達は好奇と心配の面差しで見つめていた。
そんな屋根の道を行き交い、ようやく目的地の藤井氏の屋敷に着いた二人は門の手前で着地し、身嗜みを整える。
「誠斗、これで大丈夫?髪は乱れていない?」
「どこも問題ないですよ? それとも問題あった方がいいっすか?」
微笑を浮かべてからかう誠斗に椿はムッとなったが、ここはもう目的地のすぐだ。下手な事は出来ない。
「…本当に生意気なんだから。じゃあ行きましょう!」
「…お嬢、屋敷に入る前に一言助言してもいいですかね?とても重要な事です。」
「何?重要な事って?」
門に向かって歩いていた椿は振り返って誠斗を不思議そうに見る。
「はい。お茶会…、いえこの屋敷に入ってからは俺の事はただの使用人だと思って接してください。そしてお嬢様らしく接してください。」
「??いつも通りじゃだめなの?」
首を傾げてどうしてか尋ねる。しかし誠斗は理由は言わない。
「そうですよ。俺には一切話しかけないでください。もし話す時は命令口調でお願いしますよ。」
「誠斗に話しかけないなんておかしい気分だわ。」
「それでもそうしてください。でなければ、女友達を作る事は出来ませんよ。お嬢は友達欲しいですよね?」
「………分かったわ。誠斗の言うとおりにするわ。」
まだ腑に落ちない顔をする椿だが、この門を潜り抜けたら嫌というほどその理由を知ることになる。誠斗はそれを知っているからこそ、今のうちに忠告する事で椿の夢を守ろうとしているのだった。
門番に誠斗はお茶会の招待状を見せ、門番はその招待状を確認する。門番は馬車で来なかった二人に不信感を持ったが、招待状の内容と藤井氏の捺印、そして椿の容姿を見て納得した。明らかに後者の理由で納得したが。
門を潜り、藤井氏の屋敷で仕えるメイドが二人をお茶会の会場へと案内する。
椿の前には誠斗が歩き、顔は動かさず視線を動かす事で安全確認をする。
そしてメイドに案内されるがまま、連れてこられたのはこの屋敷の開放感がある庭だった。
そこには丁寧に手入れされている花壇から花々が咲き誇っていた。そして草が整えられた庭にいくつものテーブルが置かれており、ティーカップやポットが準備されていた。
その周りにはすでに多くの御曹司や御令嬢が集って会話を楽しんでいた。
椿は庭よりも人の数に圧倒して緊張してしまっていた。人が多いと言っても20人ほどだが、箱入り娘の椿にとってはかなりの試練に思える状況だった。
緊張で彼らの所まで歩けずになっている椿に誠斗は彼らに見れない角度から椿の背中を押し、「大丈夫。行って来い。」と耳元で励ます。
「それでは、椿お嬢様。行ってらっしゃいませ。」
誠斗は形式的な言葉使いに無表情で庭の入り口に立って、椿を茶会に送った。
使用人である誠斗が入れるのはここまでなのだ。
度々誠斗を振り返ってみながら彼らの所まで行き、胸に手を置いて、深呼吸する。
それから御令嬢たちが固まって会話する場所まで行き、自分から声を掛ける事にする。
(頑張るのよ、私!!)
心の中で自分に檄を投げ、勇気を出す椿。
「皆様、御機嫌よう。 私、花菱司の娘、花菱椿と申します。以後お見知りおきを。」
礼儀作法を徹底的に教わっているため、体の軸が乱れずに笑顔で挨拶する。内心では上手くできたか心配していたが、それを顔には出さず、お嬢様仕様の笑顔で乗り切る。
椿に挨拶され、椿に視線を向ける御令嬢達はその完璧な礼儀に言葉を失くす。
しばらくして、御令嬢の中から一人が椿に歩み寄り、同じく挨拶をする。
「御機嫌よう。私、藤井正造の娘、藤井琴子と申します。よろしくお願いいたしますわ。」
と椿に話しかけるのだった。
さて、こっから椿の試練の友達作ろう作戦が始まる!!