誠斗「いけ好かねぇ~華族の奴らに見られること自体が吐き気がするぜ。
ああ、でもさ。あいつらの高くなった鼻をへし折るのも悪くはないか。」
……ブラック誠斗降臨だ~。裏表ないのは誠斗のいいところだけど、さすがにちょっと控えた方が…。(ハラハラ)
椿の使用人の誠斗を見て、この場にいる全員が驚いた。
なぜなら、椿の使用人が男だからだ。普通は年頃の年齢なら御令嬢には女性の使用人…、メイドだったりするからだ。現にここにいる御令嬢たちの使用人は全員メイドだった。その方が気軽に女性の話もしやすいし、世話されやすいからだ。
まぁ、御曹司の場合は男性の使用人も多いが、中にはメイドを付き従わせている者もいる。その理由は男性的な理由だろうが。
だからか椿に付き従う誠斗に驚いた。そしてそれが現実だと理解した御曹司達が嫉妬の視線を誠斗に突きつけてくる。誠斗はその視線には気づいていても別に痛くもないから無視する。
それに比べて御令嬢たちは誠斗を恐怖で見つめる。御令嬢達はそれほど男性との面識がないため、どうすればいいか分からないという恐怖から誠斗を遠回しにする。更に、誠斗の眼帯を見て恐怖と警戒心を増す。
ただ一人、琴子は誠斗に関心深く観察していた。
誠斗はいつもの変わりなく、白シャツに黒ベルト、黒のスーツパンツで男性使用人服をラフに着こなしていた。襟は小さく広げており、袖も捲くって八分丈の袖になっている。黒髪も軽く梳いているが、天然癖毛の所為で、髪先がくるっと巻かれていた。
誠斗の服装を見て、琴子は使用人とは言い難いこの使用人(誠斗)を叩けば椿に恥を掻かせられる。と含み笑いをする。
そんな事を思われている誠斗はもし、服装について聞かれたら「これでも頑張った方ですけどね~。」と悪げもなく答えていただろう。いつもはもっと襟も袖も広げていて、胸板が少し見えてるし、天然癖毛の髪でまとまりがつかないからとそのままにするし、いっその事だからと頭を搔いてボサボサにしている。
それをいつも傍にいて、見てきている椿も誠斗が身嗜みに頑張って気遣ってくれたことは理解していた。
しかし、それを知らないこの場の人間は誠斗を使用人とは信じていなかった。
「まぁ、椿さんの使用人は大変興味深い人なんですね~。見た事がない雰囲気の方なので、驚きましたわ。」
琴子がこの場のみんなを代表し、誠斗は普通じゃないと裏で椿に責める。
もちろん誠斗もその意味に気づいていたが、何も言わない。口に出す事はこの場では許可されていないし、する気もないから、この流れの行く先を見守る。十中八九、誠斗は琴子が自分に仕掛けてくると分かっているからだ。だから誠斗は椿を陥れようと企む琴子を逆に一泡吹かせてやろうと思った。
そしてその椿はというと琴子の言葉の意味を気にするより気づかず、寧ろ誠斗の事を褒められたと受け止めていた。
「あら、琴子さんよくお分かりになりましたね。そうなのです!!
誠斗はスバ抜けて優秀な使用人であり、私専属護衛なのですよ。」
誠斗が褒められて嬉しさいっぱいの笑顔で答えた椿に御曹司だけでなく御令嬢も頬を染める。褒められた本人の誠斗も若干照れた顔をする。
「へ…へぇ~。そうだったのですわね…。護衛もしてくれるの?」
「はい。つい最近も危ない目に遭った私を身を挺して護ってくれましたわ。誠斗は強いですから。」
それを聞いて、琴子は品定めするかのように誠斗を見る。そして微笑みながら椿に提案する。
「それなら、ぜひ私も彼の実力とやらを見てみたくなりましたわ。どうです?使用人査定をしてみませんこと?」
「使用人査定ですか?」
首を傾げて問いかける椿。
「ええ。皆さんの使用人がどれだけ優れているかを見せてもらうんですよ。そうですわね。お題は私達がその時、出しますのでそれに見合った働きを見せてもらいます。
どうでしょうか?」
「まぁ、おもしろそうですわね! もちろん大丈夫ですわ。…いいかしら?誠斗。」
思わず了承してしまったけど、あくまで誠斗がする事だ。本人の意志も聞いておこうと恐る恐る聞いてみる。話しかけるなと言われていたのを破るから。
「……椿お嬢様が仰るならそれで構いません。」
一礼して丁寧口調で答える誠斗の言葉を聞いて琴子はにんまりと笑い、自分のメイドに準備するように指示する。
誠斗は適当に付き合うかと考え、琴子のメイドが食器と洋菓子、果物を大量に持って帰ってきた。
「それでは、ここに洋菓子と飾り用の盛り皿があるわ。これらを使って主に見合った盛り付けをしてもてなしてください。」
琴子がお題を出し、合図すると主の命を受け、一斉に使用人たちが洋菓子を選び出す。ただ誠斗は一切動こうとはしなかった。
琴子は怖気着いたと思って鼻で笑う。
それに反して椿は楽しみにして誠斗の選ぶ洋菓子を待っている。
それから使用人たちは選び抜いた洋菓子を主の元へ持っていき、盛り付けしていく。
誰もいなくなった洋菓子が置かれたテーブルへ誠斗は歩き、ショートケーキとリンゴを持って椿の元へ戻る。
他の使用人が大量に豪華な洋菓子や珍しい物を持って飾りつけしているのに対し、誠斗は華族なら誰でも食べた事のあるもので飾りつけするつもりだ。
琴子は所詮下っ端だわと鼻で笑っていたが、誠斗は不敵な笑みを浮かべ、椿に一言。
「それでは、最高の物を作りますんで。」
見た目で判断するなって事だね。
さてさて、どんな盛り付けを見せてくれるのかな誠斗は。