メイドを斬りつけたこの反乱分子の大将らしき者が合図し、庭の草陰から囲うように現れる。
「「「「「きゃあああ~~~~!!」」」」」
「「「ひいいぃぃぃぃぃ~~~~!!」」」
令嬢達が悲鳴を上げる中、周りを囲む武士達が徐々に前に進んでくる。手には刀を持ち、刃先を令嬢や御曹司達に向けて…。
「御機嫌麗しゅう。って挨拶すればいいのかな?華族の若人共。私達はお前たちの親がしてきた仕打ちにより、全てを奪われた武士の生き残りだ…!!
我々はその武士の誇りを奪いやがったお前たちの親に代わって、死んでもらう!!
怨むなら、親を…、いや、華族として生まれた事を怨むんだなっ!!」
大将らしき武士が令嬢や御曹司達に死への宣告を告げる。
あまりの恐ろしさに令嬢達は腰を抜かし、震えている。命乞いを必死にするが、聞く耳を持たない。
御曹司の中にも刀を向けられて、身体が強張っている。そんな中で、平然を装っているのは椿くらいだった。
椿ももちろん動揺しているが、相手のペースにはまってはいけないという事を誠斗からお忍びの時、事件に巻き込まれそうになった時に教えてもらっていたため、表面上は動揺を隠し、しっかりと立って武士達を憤りを持った瞳で見つめる。
それが、武士達の目には一風変わって見え、椿は注目されていた。
そして椿の動じない姿勢に興味を持った大将が椿に近づく。
「おい、お前! どこの華族の者だ!!」
「私ですか? …私は花菱司を父に持つ、花菱椿と申します。」
「…ほう。女にしては度胸が据わっていやがるではないか。我らを見て怖くはないのか?」
「…実をいうと、怖い…ですわ。ですが、あなた方のような心が邪心してしまっている者などに怯える訳にはいきません。ですので、私は堂々と胸を誇ってこうしているのです。」
椿の回答を聞いていたこの場の人間が息をのんだ。
まだ齢20にも満たない少女が強い意志を持って目の前の武士に立ち向かっている光景に驚きを隠せない。現に、椿が見続けている大将も目を丸くしている。
ざわざわと侵入者の武士達が互いに小声で話し合う。
そしてその中の一人の武士が前に出て、椿に刀を向ける。
「何を貴様っ!!女だからと調子に乗るなっ!」
「待てっ!!お主は引っ込んでおれっ!!皆の者もだ!!」
衝動的に刀を抜いた部下に一喝し、仲間の動きを制する。そして椿に目線を合わせ、問いかける。
「…ふん。ところで、お前は…、椿だったか?なぜ我々が邪心だと思うのか理由を言うてみてくれないか?」
「それは、あなたが先程行った卑劣な罪が示していると思いますけど?
華族が憎いと言っていたのに、華族である私達にではなく、メイドを理由もなく目の前で殺害されました。これを見て、どう邪心がないと言い切れますか?
難も罪もない、しかも華族ではない者に手を掛けるとは、それこそ邪心に満ちていると言わざる得ない証拠なのではないですか!?」
涙を必死に堪えて、訴える椿を武士達は言葉を失くし、大将はただ椿の言葉を受け入れるだけだった。
「すまないが、我々のこの怒りを伝えるためには犠牲は付き物なのだ。例え、反乱を起こし、我々の命が散ったとしても、その前に成すべき事を成せればそれでよいのだ!
それに、この女はお前達を庇ったのだ。華族を庇う輩は死を持って己の誤った選択に悔いるべきなのだ!!」
「そんなのは詭弁に過ぎません!あなた方は自分の都合のいいようにしたいだけです!
彼女を殺した理由も、あなた方が武士としていられなくなった理由も、そして、こんな反乱に動いたのも、全部自分達だけのためじゃないですか!?
これまでと違った生き方で苦しかったかもしれませんっ!!慣れなくて不幸な事があったかもしれませんっ!!ですが、あなた方は何とか抜け出そうと努力したのですか!?
やけくそにならないで人として、生きてください!武士の誇りというものは刀ではなく、心に刻まれているはずでしょ!?」
熱弁する椿は溜めていた涙を流し、大将に訴えた。
それに対し、大将も武士達も若干心が揺れる。決心した復讐の意志が揺らぎかける。
しかし、大将は戦いにおける迷いや揺らぎは敗北につながるとこれまでの経験上、身体で覚えている。だから、その動揺も精神統一で克服する。
「悪いが、俺達はもう後には戻らない。戻れないんだ。だから、せめて…、武士の生き様を示すまでだ!!
そのためにお前はここで犠牲になってもらうっ!!」
大将はそう言い捨てると、刀を大きく振り上げ、椿に目掛けて振り下ろした。
その光景を見て、誰もが最悪の光景を脳裏に思い描いた。目も逸らす事ができず、ただ、刀が椿に吸い込まれるように近づく様を見るしかできなかった。
(ごめん…。誠斗…。頑張ったけど、無理だったみたい…。貴臣、あなたに会うの、楽しみだった…。お父様、親不孝してごめんなさい…。)
目を閉じ、自分に訪れるだろう斬撃を覚悟し、心の中で大好きな人達に謝罪する。
しかし、そんな最悪の光景にはならなかった。
「……遅くなり、申し訳ないです。椿お嬢様。お怪我はありませんか…?」
知っている声が聞こえ、目を開けると、大きな背中が見える。そして顔を上げ、目の前に人物の顔を見て、安堵で思わず号泣し、大声でその人物の名を叫ぶ。
「誠斗っ!!」
「…ったく、なんて顔してるんですかね~。この天然お嬢は。そんなにぐちゃぐちゃした顔で見ないでもらえます?やる気なくすんで。」
大将の刀を刀と同じくらい長い鉄製の棒で受け止めながら、後ろの椿をぶてぶてしい顔で見つめる誠斗。
誠斗の登場によって、この瞬間から大きく流れが変わった。
天然椿もいざとなれば戦いますっ!!
…ところでさ~、さっきはうちの事、斬りつけてきたのに、椿にはしないってどういう事なのさ。もしかして顔か!?見た目で判断したのか!?
ゆるさんっ!! ギラッ