災難去ってまた災難…。にならなければいいけど。
「はぁ~。」
反乱因子の武士達が藤井邸に侵入し、一悶着あったお茶会が終わり、日も暮れはじめ、今夜の舞踏会の準備を世話役のメイドと私は舞踏会用のドレスに着替えていた。
何着か持ってきていたドレスの内、やはり淡い桃色のフリルが付いたストレートのドレスを選び、鏡の前に座って、世話役に髪を結いでもらっていた私はため息を漏らす。
「?どうしたしました、椿お嬢様?先程から浮かない顔をされておりますが。もしやこの髪形がお気に召しませんでしたか?」
「いえ、そんな事はありませんよ。とてもドレスに似合う髪形ですわ。」
世話役メイドから指摘を受け、慌てて作り笑いをする。しかし、世話役にはお身通しのようで、苦笑させてしまった。
「椿お嬢様。そのような笑いでは私のような者でもすぐに分かりますよ。椿お嬢様の気持ちもわからなくはないですが。」
「……そんなに私の顔は酷かったですか?」
「初対面の方なら何とか誤魔化せると思いますが、この華やかな世界を生きている身分の方や知り合い等の方にはすぐに気づかれますよ。」
「そうですか…。私、まだまだ淑女にはなれていませんわね。」
世話役は私の言葉を聞いて、髪を結う手を止める。そして鏡に映る私に向かって優しく声を掛ける。
「椿お嬢様が仰る”淑女”というのがどんな方なのかはわかりませんが、私は人間味の欠けた方は嫌ですわ。椿お嬢様はその事を一番よくご存知の方です。
私は椿お嬢様らしくいていいと思いますわ。
ですが、お嬢様が生きていく世界はそんな方達だけではありません。ですから、その際のお付き合いでは考え方を変えていかなければ生き残る事は出来ません。椿お嬢様には不服だと思いますが、”自分を偽る”という事も必要になるかと。」
世話役の助言を聞いて、これから向かう舞踏会の事を考えてどうするべきかは理解する。
「”自分を偽る”か…。良心が痛むわね。でも…、あなたのいう事も分かるわ。」
「申し訳ありません。出過ぎた事を申しました。」
「いいのよ。あなたの助言を聞いて決心持てたわ。うん!私は負けませんわ!」
両頬をきつく叩いて気合を入れた私は鏡の前で笑顔の練習をする。そんな私を眉を若干下げて、苦笑する世話役は再び私の髪を結いあげていく。
★★★
とはやりつつも、自分を偽るという事は日頃からしてきてない私には、全然想像がつかなくて、難しくて。
馬車で舞踏会が開かれる華族行きつけの洋館に近づくにつれ、気分が沈み、落ち込むのは止められなかった。
楽しみだったお茶会があんなことになり、そんな事があっても、舞踏会が開かれる事になって、招待を受けている私は憂鬱な舞踏会に行かないといけなくて。
馬車の中にはお父様と誠斗がいて、誠斗は私の隣に無言で座っていた。
あの戦闘を終えた後に警察がやってきて、反乱武士達を連行していく中、誠斗は苦虫を噛み潰したような表情で彼らを見届けていた。私は誠斗が心配になって、駆け寄って、誠斗に声を掛けたけど、『大丈夫ですよ。』って言ったきり、口を開かなかった。
それから警察の方達にいろいろ聞かれ、そのままお茶会はお開きになった。
その時からまだ数時間しか経っていないけど、誠斗とは話していない。誠斗自身が話しかけるなと空気を発しているのを感じたからだ。そんな誠斗と嫌な舞踏会に行く事も気分が沈む気持ちに拍車をかけていた。
お父様も事件の事を聞きつけ、別宅に帰りついた私を迎えると、私を力強く抱きしめて泣いた。お父様が泣く姿を見るのは私が幼い頃に一度だけだった。
真向かいに座るお父様はもう普段の様子に戻っているけど、時々心配そうに私を見つめる。その度に私はお父様に大丈夫だと伝えるために微笑む。お父様にもう心配させたくないから。
そんな空気の馬車内を気にせずに馬車は会場へと向かっていく。私はお父様と誠斗にきぅかれないようにそっと溜息を溢す。思わずではなく、意識的に。そうしないと、舞踏会で失態を犯しそうに感じたから。既に会場となる洋館は見えてきた。
そして洋館の門に着き、馬車が停まる。
誠斗が反対側から降り、回り込んで、馬車の扉をシャキシャキした動作で開けてお父様と私が降りてくるのを待っている。
私は深呼吸して、顔を引き締めて、憂鬱で嫌で、味気のない舞踏会へと赴くため、足を踏み出した。
今回は語り手を椿にしてみました。