知っている人の知らない一面を知るって、ドキドキするね!
朝食の後、椿と貴臣は椿の部屋で勉強をしていた。館の中で生活する椿は学校には通っていない。だから、年相応の友達といえば、貴臣と誠斗だけだ。
そんな椿のために貴臣は椿に時間が空けば、こうして訪ねて、勉強を教えているのだ。
「………こうして読めば、ほら、読めたでしょ?」
「本当ね! ほんの少しだけど、スラスラ読めたわ!」
今、二人は異国語でもある英語を勉強していた。最近は異国から商人や専門家が来日するため、来客者が異国人でも話せるように学んでいるのだった。
椿の住む場所は貿易が栄える港町の一つ、神戸港の近くにある少し離れた港町。
こちらには、観光目的の来国者が泊まる宿舎や料理店が立ち並んでいる。のんびりと過ごしたい人用の港町ってことね。
で、この港町を管轄する華族が椿の父である花菱司。
だから、その娘である椿も淑女教育を受けているのだった。
つまるところ、椿はこの港町では一番偉い一族にあたる訳だ。
今も、花菱司は港町に向かって、仕事に出かけている。彼の温厚で、人柄の良さが港町の人達を引き付けており、港町は平和に人々が活気溢れて暮らしている。
そしてその港町から少し離れた外見は和風の屋敷、内見は洋風の造りになっている花菱邸に今、椿と貴臣がいる。
「じゃ、少し、休憩にしようか、椿ちゃん。」
「うん、そうね。 お茶を淹れるわ。」
そして勉強を一旦終え、ティータイムをする二人。その際に、港町の事を聞く椿。椿はまだ一度も港町には出掛けた事がない。憧れを持って、貴臣の話を聞くその様子は、まるで子供のよう。
その姿を見て、貴臣が提案する。
「そんなに行きたいなら、椿ちゃん、港町行ってみる?」
「えっ!」
あまりの突然の誘いに驚き、戸惑いを見せる。
「だ、だめよっ! 屋敷の外に出る事は禁止されているし、私は貴臣が話す港町の話だけで十分よ!」
そう強がっている椿だが、本当は行きたいってオーラが部屋中に充満している。
(分かりやすいな~。)
貴臣はその椿の態度に可愛さを感じ、微笑んだ。
「え~。 楽しいのに。やっぱり、港町の事を聞くのと見るのとでは全然違うよ?
それに、大好きな司さんが築いた港町を見てみたくない?」
貴臣は椿を誘惑しだした。椿は「うっ…。」と欲求を垣間見せた。あともうひと押しとわかった貴臣は最後の押し文句を言う。
「後、今は誠斗が港町で仕事しているし、せっかくだから、誠斗の仕事ぶり、見てみない?」
「えっ? 誠斗は屋敷にいるのではないの?」
椿の専属使用人兼護衛の誠斗が椿から離れるとは思っていなかった椿。
「うん、あれ、もしかして、知らなかった?
誠斗は僕が椿と一緒に屋敷で勉強見ている間は、港町で司さんに頼まれた仕事をしているんだよ。色んな仕事もこなしているし、凄いよね~。」
「そうなんだ…。知らなかった。」
いつもそばにいた誠斗がそんな事していたなんて知らなかった…。
「で、どうする? 港町には行く?」
「行くわ!! 誠斗がへこたれている現場を押さえるのよ!!
いつも私をからかう誠斗の弱みを握る機会だわ!!」
と誠斗の事を知り、燃え滾った。
貴臣は作戦がうまくいき、カップの紅茶を飲み干した。
こうして屋敷という箱の中にいた椿の人生初のお忍びの港町見学が始まろうとしていた。
箱入り娘の小さな冒険の始まり、始まり~。
カン、カン。