ベンチに寝そべっていた長身の少年は身体を起こし、私の方へと振り向く。
彼はスーツの上着を脱いでベンチの背に掛けていて、胸元のボタンはいくつか外していて、逞しい胸元が見え隠れする。
その着崩した服装が初対面のはずの彼にはよく似合っているように感じた。思わず見惚れてしまう。そして、彼はベンチから立ち上がって、私に近づく。
その時に私は今まで陰に隠れていた彼の素顔を月明かりではっきりとした素顔を目にして驚いた。
ううん、素顔は可笑しいかも。
彼は額から鼻先までを異国人の舞踏会でよく目にする銀色の仮面を被っていたから。
だけど、嫌な感じは受けなかった。それよりも銀仮面は彼の一部だと思えるほど似合っていて、どんどん彼に引き込まれてしまう私がいた。
そんな上の空の私に銀仮面をつけた彼が私の頬を大きな手で包み込むように触れてきて、涙を拭り、口元を上げ、微笑む。
「もしかして、忘れられてしまいましたか?椿とは随分前ですが、一度会っているのですよ?
あの時もこんな感じでベランダに逃げてきた椿と私が出会って、退屈な舞踏会が終わるまで語らい合ったのですが。覚えてくれていませんか?」
「お、覚えていますわ! 夢で逢うほどよく覚えていますわ!あ…!」
彼は顔を近づけてきて、私の瞳を覗き込んで答えを求めるみたいに見つめてくるから、引き込まれそうになって、顔が真っ赤になっていく事を止められずに心臓がドキドキするのを誤魔化すために慌てて、顔を逸らして答えたけど、思わず恥ずかしい夢見の事まで口を滑らせてしまった。
恥ずかしさで両手で顔を覆って、赤面しているのを隠す。
すると、彼が楽しそうに笑っている声が聞こえて、その声が更に魅力的に聞こえてしまって、頭が逆上せそうになるくらい熱くなる感覚を覚える。
「くくく…!! そんなに耳が真っ赤になるまで私を想ってくれていて嬉しいです。
ありがとうございます。」
彼が突然耳の近くで紡いだ言葉と声色に勝手にぴくっと体が反応してしまう私。
彼の息が耳に触れ、唇が耳にあたるんじゃないかってくらい近くにある事を感じる私は腰が抜けてしまった。
崩れ倒れる前に彼が私の腰を持って支えてくれたから新品のドレスを汚さずに済んでほっと安心したけど、すぐに自分がしている体勢に気づいて、固まる。
腰を支えてくれた後、彼はごく自然に私を御姫様抱っこしてベランダの柵を軽い身動きで飛び越えて庭を歩きはじめる。
「あ、あ、あの! 下ろしてくださいませ!自分で歩けますわ!」
恥ずかしさで顔がまだ真っ赤なまま、上目使いでお願いする。こんな姿を誰かに見られたら…!
「大丈夫ですから、私の腕の中で大人しくしていてください。
せっかくの可愛いドレスが汚れてしまいますよ?
…それに私は椿と二人きりになりたかったんです。あそこではあなたを狙う馬鹿共が近寄ってくるでしょう?」
ポンッ!!!
彼の告白で私は頭が爆発して湯気が出た…。
もう……、私さっきからどうしたんだろう!? 彼が目の前に現れてから心臓が大きく跳ね上がって身体が沸騰しそうに熱くて…。私が私じゃないみたい…。
あれ?そういえば私、彼に会う前になんで泣いていたんだろう?
目をぐるぐるさせながら自問自答の世界に陥っている私は彼が微笑を浮かべて見つめている事に気づかなかった。
お姫様抱っこされて私達が向かった先は白い大輪の花が咲き誇った情景に囲まれ、これまた白い品質の良い石で造られた四阿だった。
ドキドキが止まらないのは…! 恋をしているからだよ! 椿、頑張れ!!