舞踏会場から聞こえてくるラストの曲が終わり、二人の世界はゆっくりと現実に戻っていく…。
「もう………終わりましたわ…。もっとあなたと踊っていたかったのに…。」
「俺もですよ。ですが、椿と一緒に踊れただけでも十分幸せでしたよ…。俺は…。」
そう言った彼は手を解き、私を抱きしめる。
その腕は力強いけど、優しくて…、温かい…。
彼の腕に包まれて、彼の背中に手を回す。
お互いで抱きしめ合って…。
体温を感じ合って…。
名残欲しいけど、また会うときまで忘れないように、彼の匂いを…、体温を…身体を…噛み締めた。
そして私達は抱きしめていた手を解いて、見つめ合う。
彼は微笑して、私の手を握る。
「…では、戻りましょうか?椿…。」
「……はい。」
彼の手を握り返して、手を繋ぎながら、舞踏会場へと歩いていく。その間、お互い何も言葉を口にしなかった。何を話せばいいか分からないのもあるけど、話せば寂しさが込み上げてきて、涙が零れそうだから…。
歩く私達の足音だけが響く中、彼が沈黙を破る。
「……大丈夫ですよ。」
「え…?」
「椿とこうして会うのに随分掛かってしまったけど、俺はあの時の約束通り、いつも椿を見守っているから。寂しくないですよ。」
「それってどういう意味?」
「今は、それでいいです…。」
そう言いながら、彼は私の頬を愛おしそうに触れる。
私の手を取り、手の甲にキスを落とす。
「……またすぐに逢えると思うから…。」
「それは本当!?待っててもいい!?」
「…………」
嬉しくて、思わず聞いてしまった私を彼は言葉に詰まった後、微笑んだ。そして、私の頭を優しく撫でた彼は指を指し示す。
指し示す先には彼と再会したベランダが見える。そこから華族の方々が帰路につく前に挨拶をしていた。
もう近くまで帰ってきたことを知り、あまり声を荒げてはまずいと口元を覆い、振り返る。
でも、彼がさっきまでいた場所にはもう彼の姿はなかった。
急いで辺りを見回すけど、彼の姿を見つける事が出来なかった。
もしかして、全てが夢だったのかしら?
そう思いかけたその時、風に靡いた髪を掬った指先に花びらが触れる。それは彼が私に似合う花だと言って飾ってくれたクレマチスの花だった。
夢じゃないと分かって、温かいものが胸にこみ上げてくる。
また…、彼に会いたい…!!
そしてこの気持ちを…、この想いを伝えたい…!!
その想いを募らせ、私は舞踏会場に戻る。
「椿ちゃん!!よかった! 姿が見えなかったから探してたんだよ?」
ベランダから姿を見せた私を見つけて、貴臣が駆け寄ってきた。
「貴臣、ごめんなさい。少し、外の空気を吸いたくて、散歩してきちゃった。」
「そういう時は、僕か、誠斗に言ってほしかったな~。心配したんだからね?」
「本当にごめんなさい。」
「別にわかってくれたらいいよ。無事でよかった…。」
本当に心配してくれてたんだろうな~…。胸を撫でおろして、緊張を解く貴臣。その貴臣と玄関で待つ馬車へと歩きながら、会話をしている時、どこかで嗅いだ匂いが香ってくる。
「確かに心配はしていたでしょうけど、貴臣様は本当はお嬢に助けてもらいたかったんでしょう?お嬢がいなくなった後、やたらとお嬢様達からダンスのお誘いを申し込むようにあの手この手に付き惑わされていましたし。」
「あっ、誠斗…。」
椿の後ろに当然のように誠斗が控えていた。
「ハハハ…。女性を追い返すなんて真似はしたくないしね…。でも、誠斗に救助要請したのに、全然来てくれなかったんだよ。」
少し拗ねながら、私にその時の事を話す貴臣を誠斗はしれっとした態度で返事する。
「行く訳ないじゃないですか…。俺は使用人ですし。舞踏会に参加する事は出来ませんよ。そういう時はさりげなく距離を置くとか自分で何とかしてくれませんかね。」
「厳しいな~、誠斗は。」
苦笑する貴臣と無表情の誠斗、少しまだ彼との熱が冷めていない私とで馬車へと向かう。そして、貴臣にレディーファーストだと言われて、私は先に帰らせてもらう事になった。
「貴臣、今日は楽しかったわ。また遊びに来てね!」
今日はいい事があったから、自然と笑顔になる私。あの時の貴臣に感じていた感情はすっかり消えていた。
貴臣は私の笑顔を見て、少し顔を赤らめる。
そして……
「ああ…、僕も楽しかったよ。椿ちゃんの可愛らしいドレス姿を見れたしね。今度は間近で椿ちゃんの美しい姿を見せてもらうから。」
そういって、貴臣は私の手の甲にキスを落とした。
その仕草が彼に重なる。
え……!?
どうして…重なるんだろう?
そういえば、さっきから匂ってくるこの香り…、彼との別れの際に嗅いだあの香り…。
「またすぐに会いに行くから…。椿ちゃん、お休み…。」
「う、うん…。おやすみなさい…。」
「椿、早く乗りなさい。次の方にご迷惑だろう。」
馬車に乗り込んでいたお父様が声を掛けてくれたおかげで、深い思考の迷路に入りそうだったのを堪える事に成功する。
ずっと馬車の扉を開けて待っていてくれた誠斗に目礼して、乗り込み、誠斗が扉を閉めて、反対側から馬車に乗り込む。
こうして、私を乗せた馬車は別宅へと走り出す。
私は手を振りながら、私達を見送る貴臣の姿をまでからずっと見続けた。
そして、見えなくなってから、先程の事を考える。
彼と同じことを言う…貴臣…。
彼と同じ仕草…。
彼と同じ香り…。
つまり………貴臣は…!!
ずっと逢いたかった私の…初恋の…人…!!
彼の正体を知った私は次に逢える日をもう楽しみにしていた。
彼に私の想いを…!!
そう決意して、この日、色々あったけど、いい夢見で眠った。
そして、この想いがまさかあんな形で叶うなんてこの時の私はまだ知らなかった。
元々、貴臣に心を奪われつつあったからね…。
椿、告白頑張って~~!!
でも、うち的には…!!ああ~~~!!