Side 仮面の彼
ふぅ~。相変わらず、ここは息がつまりそうだ…。
今宵は華族達が集まる舞踏会場に来たが、俺はここに来る気は毛頭なかった。
会場にはどんだけ金を注ぎ込んだんだと言いたくなるほどの鉱石で作った首飾りを付けた御令嬢達や御曹司同士で家柄や親の政治活動の実績、着ている服等の自慢話を鼻高々と話す愚か者、そして笑顔を見せながら、互いに腹の探り合いをし、弱者には蛇の目で睨みつける高慢な顔立ちの脂の乗った狸共の声が充満していた。
俺はこんな腐った奴らといたくもない。
吐き気がする…!!
なら、そんなに嫌なら、来なくてもよかったんじゃないかと俺を知る奴ならそういうかもしれないだろうが、何を隠そう、俺の敬愛する人の頼みだから、断る事も出来ない。それに…、まったく嫌という訳でもない…。
なぜって、椿がいるから…。
俺が初めて家族以外で心を許した女…。
初めて出逢った時からかなり成長した椿と久しぶりにこの場所で逢える…。
そう思えば、こんな腐った場所でも少しは楽しめるというものだ。
そう思い、美しくなった椿をずっと見続けていた。しかし…、
なんだ…!!さっきから椿に纏わりつく馬鹿ども!椿から離れろ!椿が穢れる…!!
さっきから下心満載で椿を見ていた御曹司が椿と踊りたいがために、椿を取り囲み、ダンスの申し込みをし出した。
椿はお淑やかに断っているが、その貼り付けている笑顔は椿本来の笑顔ではない。恐怖と拒絶を感じさせる笑顔だ。
俺は今にも震えだしそうな椿の元へ、歩き出す。
………その後は、椿を解放したのはいいが、俺の存在を消していたのに、その場を離れたため、御令嬢達の目に留まり、今度は俺が椿みたいに御令嬢達に取り囲まれてしまった。目をうっとりさせながら、俺の事を知ろうと話しかけてくる女たちに辟易したが、女達が俺を取り囲んでいるため、何事かと狸共から見られる始末。こうなると、面倒だが、満足するように対処するしかない。
俺は一人ずつ、愛想笑いで接し、対処しながら、椿を目で追っていた。
椿は拗ねた顔つきで見つめていた。
長い時が過ぎて、椿が心変わりしつつある事は知っている…。
その顔を見て、俺は用事があるからと俺を取り囲む女達に話し、自由になった俺は、外に出て、銀色の仮面を身に着ける。
そして、舞踏会に招待された者しか入れない庭を潜り抜け、誰もいないベランダを見つけ、柵を飛び越える。すると、ベンチが置かれており、華族達との付き合いで披露した身体と精神を休めようと着ていた上着を脱いで、ベンチの背もたれに掛け、胸元のボタンを開け、袖を捲る。少し解放された気分で、ベンチに横たわった。
ここ最近は特にいろいろあったと思い起こしていた。
「……今日も大変だっただろうに、椿は凄いな…。」
今日の午後に会った出来事を知っているから、椿が招待されているとはいえ、舞踏会に出席している事に感心するとともに、心配していた。
本当なら、もっと椿の傍にいて、癒してあげたい…。
だけど、俺の正体を明かす訳にはいかない…。
俺と椿は…、もう違う…!!
「………俺は椿を不幸にする…。今までもそうじゃないか…。」
椿への想いを年々積み重ねている自分に諦めの納得をさせるため、それらしい言い訳を呟く。
そう言わなければいけない自分の境遇に悔しくて、額に置いている掌を強く握り、拳が赤くなる。
でも、このままだと疲労が取れないと考えなおし、眼を閉じ、舞踏会が終わるまで、眠っておこうとした。
そこに、椿が涙を堪えた表情でベランダに現れる。
初めて出逢ったあの時と同じようにため息をついて、椿の口から「ひっく…。貴臣の女たらし~。」と愚痴をする。
そして、本格的に泣き出してしまった椿をベンチに横たわったまま、隣で俺に気づかずに泣きじゃくる椿に苦笑してしまう。
椿の気持ちを知った俺は、そのままにしておけず、今だけは椿とあの時みたいに過ごしてみたいと思った。
「…ふぅ~。ここは誰も来ないし、居心地がよかったんですけどね。
そんな顔されては、せっかくの綺麗で、可愛らしい顔が台無しですよ?」
俺が話しかけても、現実だと分かっていない椿が少し可愛らしくて、意地悪したくなる。
「……どうしました?それとも、懐かしい想い出を思い出してくれているのですか?椿。」
「え?」
突然、俺に名前を呼ばれて、俺に顔を向け、ベンチに寝そべっていた俺を涙を流しながら椿は見つめる。
その涙が月光で輝いていて、吸い込まれそうになるくらい、椿を綺麗に見せていた…。
それは、俺達は再会を遂げた…。
次も仮面の彼視点でいきます!!