クレマチスの咲き誇る庭を椿が見惚れて見入っている姿を俺の腕の中で魅せる。
連れてきてよかったと秘密の場所だと告げたら、また椿は俺の声に力を失くす。
俺の腕から離れようと必死に押してくる抵抗も兎が反抗しているようで面白く、可愛くてつい笑いが出そうになるのを必死に堪える。
でも、椿はもう耐えられないって顔をしているから、まだ名残惜しいけど、一応謝って、下ろした。
すると、椿はクレマチスの花に触れながら、
「この花って何て名前なんだろう…?」
なんて可愛く首を傾げて呟くから、君にそっくりなこの花を教えたくなる。
「クレマチスって花だ。”蔓性植物の中では女王”と言われるほどの花なんだ。まさに椿に相応しい花だな。」
「私に相応しい?」
「ああ。そのクレマチスの花言葉は『優しい心』…『旅人の喜び』…なんだ。
優しい心で人を包み込む椿に相応しいだろ?
俺はこの花が椿そのものに思えて愛おしい…。」
一面に広がるクレマチスの花々を見渡しながら、俺は椿にこの花をいつか沢山贈りたいと思った。クレマチスの庭で囲まれて笑う椿を想像し、思わず、微笑が漏れる。
そうだ…。この花を椿の髪に挿したら、似合うんじゃないか?
俺はそう思うのと同時にクレマチスの花を一つ、蔓から取る。
折角咲いた所をごめんな。
椿に近づいて、髪にクレマチスの花を挿してみる。俯いていた椿の顔を上げて、花の位置を確認する。
……綺麗だ。やばい…、似合いすぎだろ…!くそ…!誰にも見せたくないな。
クレマチスの花飾りをした椿を改めて見ると、まさに椿のためだけにあるようにクレマチスが椿の魅力を引き立てていて、俺の動悸が激しく波打つ。
で、照れていると、椿も硬直しているのが目に入り、せっかくだから椿にも見せてやろうと近くにある池まで歩くことにする。それまではこの花飾りは内緒だ。
「…よし、と。はい、良く似合うよ。」
「え? あ、あの…どこへ?」
「大丈夫、すぐそこだから。」
近くのクレマチスの花のように月光で青白く輝く白い四阿を過ぎた場所に小さな池があった。池は澄んでいて、空に浮かぶ満月や星が水面に鏡のように映っていた。
俺は「足元に気を付けるように」言いながら、「水面に顔を覗き込んでみて」と椿に言ってみた。
池の水面を覗き込む椿は、そこに映る自分の髪にはクレマチスの花が飾られている姿を見て、熟した果物のように赤らめ、照れる。
「これって…」
「さっきも言っただろ?椿に相応しいって。良く似合っているよ。本当に…」
「あ、ありがとう…。」
恥ずかしさで居た堪れなくなって、また顔を背ける椿。
俺はまた無意識に椿の頬を優しく撫でる。
だから、そんな顔はするな…。お前が欲しくなる…。
もう俺は椿の照れながらも微笑む表情と仕草に心を奪われ、自分を止められそうもない。
腕を回して椿の腰を持つと、俺の胸へと椿を抱き寄せる。
その間もずっと俺達は見つめあったままで。
その純粋な唇を奪いたい…。
俺だけのものにしたい…。
俺だけしか目に入らないようにしたい…。
俺を愛してほしい…。
椿の全てを俺にくれ…!
今まで我慢していた想いが爆発して、理性がきれた俺は椿の唇に向けて、顔を近づかせる。
だけど…
その瞬間、俺はあの時の事が頭を過る。
そうだ…。俺は椿とは…
目の前の愛しい、世界で一番愛する人を前に、俺は目を閉じ、俺を受け入れようとする愛しい人に今、背を向けた。
一線を引き直した…。
本当に…運命は残酷だな…。
そして、せめてある誓いを額のキスでした俺をきょとんとした顔で椿が見つめてくる。
その顔にチクッと胸が痛んだが、何とか笑おうとして苦笑になってしまった。
「ごめん…。今はこれで…。再会してすぐに君の唇を奪うなんて図々しい男にはなりたくないから…。へたれだと思ってくれてもいいけど。
俺は君が世界で一番大事だから…。だから…今だけは…。」
何とか言わないと思って、口にしたけど、嘘はない…。
君が一番大事だし、きっとこの先も俺は何があっても君を愛し続ける…。
それは決して揺るぐ事はない。
必ず…。
椿への愛と自分の運命に葛藤していると、椿が涙を流しているのが目に入る。
その涙が自分が流させた事なのに、それすらも嬉しく感じてしまう俺がいる。
俺のために流す涙。
それを一つずつ受け入れるため、椿の瞼にキスを何度も落とす。
それからは椿と最後のダンスをして、椿を会場へと見送る。
「……大丈夫ですよ。」
「え…?」
「椿とこうして会うのに随分掛かってしまったけど、俺はあの時の約束通り、いつも椿を見守っているから。寂しくないですよ。」
「それってどういう意味?」
「今は、それでいいです…。」
見送る前に椿がしょんぼりとしていたから、つい口を滑らせる。そして別れの挨拶として、椿の手の甲にキスを落とす。
大丈夫…。
いつも見ているから、これからもこの先も。
それにすぐにまた逢えるよ、本当の姿で…ね…。
俺も会場に戻るため、会場へと目を向けている椿を置いて、その場を去った。
椿との時間を俺に暮れて、ありがとう…。天よ…。
青白く輝く月を見ながら、礼を言って、仮面を外し、服を整えてから会場に戻る。
すると、会場に椿も現れ、口調も変えて、いつものように話す。
そして馬車へと乗り込む椿と話し、椿が顔を真っ赤にして固まりかけている椿を見て、さすがに心配になった俺。
だが、俺が何か言う前に、司さんが椿を呼び、馬車へと乗り込む。
椿を見送った俺は同じく馬車に乗り、帰路についた俺は今日の一時を噛み締めて、眠りについた。
彼が抱える椿への無限の愛…。感じられました…。(泣)
でも、まだ抱えている物がありそうで…。
次は、心機一転、やりますぞ!!