時期的にはお茶会&舞踏会の招待状が届いた頃です。
誠斗視点でいきますよ♡
梅雨も終わり、少し生暖かい風が吹くようになった季節…。
午前中に捺印入りの手紙が花菱邸に届けられる。その内容を司と一緒に読んだ椿は自分にもお茶会&舞踏会への招待状が届き、久しぶりの外出に夢心地気分を味わっていた。
そんな嬉しそうに笑いながら、趣味の庭散歩をする椿の後を俺はいつものように専属護衛として付き従っていた。
庭には、梅雨明けの雨のしずくが庭に綺麗に咲く花々の花弁や葉に残っていて、太陽の日差しを浴びて、輝いていた。
「梅雨って雨が毎日降ってばかりでずっと部屋にいるしかないけど、梅雨明けはこんなに綺麗な花達を見る事ができるから素敵ね!」
お嬢は花を見渡しながら、俺に話しかける。花を愛し、無邪気に回ったり踊ったりするお嬢の天然さに微笑ましさを感じた俺は微笑を浮かべる。
「そうっすね。言ってみれば、梅雨の去り際の贈り物ってやつですかね。」
「それは良い例えね!!私もそう思うわ…!!素敵な贈り物をありがとう!!」
パッと感動し、更に笑顔が可愛くなったお嬢は青白い澄みきった空に向かって去って行った梅雨にお礼を言う。
それを見る俺は姿なき自然に嫉妬した。お嬢の天使のような笑顔を向けられているから…。
どうぜなら俺以外に見せないでほしい…。たとえそれが、人ではなくても…だ。
ま、こんな事は絶対に言えないけどな。
その後は咲き誇る花達の中から数本の花を優しく摘み、花束にして、お嬢は私室に持ち帰る。
俺は屋敷に飾られている花瓶の中から妥当な花瓶を見つけてきて、お嬢が持ち帰った花束を花瓶に生ける。その花を窓の近くに置かれている棚上に置き、窓からの日差しが花達にあたるように調整する。
俺が花束を花瓶に生けている間、お嬢は次の稽古の予習をしていた。
その予習をしながら、度々、今日の日付がはっきりと書かれた巡り暦表と書物を交互に見ながら、うっとりしていた。
それを眼の端で知っていた俺はお嬢が見ている暦表を見てみるが、すぐに分かるような印も書いていないし、俺が記憶している限りでは、今日は用件が入っているわけでも、特別な日というわけでもない。
(今日は七月七日…か…。 何かあったか?)
忘れているのかと知る限りの司様の仕事内容も頭で広げて探るが、特に見つからない。
しばらく考えていた俺だったが、お嬢の予習している姿を見ていると、俺の勘違いだと悟った。次の稽古は伝承や地方の歴史を教授から学ぶことになっている。おそらくはその歴史の予習で過去の今日に何かあって、巡り暦表で確認していただけだたんだ。
そう思うと、すべて納得した俺は教授も来たことだし、部屋の隅でこれまたいつも通り、椅子に座って、欠伸をかみ殺して、暇を持て余す。
しかし、教授との勉強の間でも、こっそりと暦表を盗み見るお嬢が目に入り、さっき納得したことがまた奥底でくすぶって、違和感を募らせる…。
(…一体なんだ、あれは…? 今日は何があるっていうのか?
後でなりげなく聞いてみるか?…いや、それよりもまず、目の前の勉学に励むように言ったほうがいいな・・。お嬢、盗み見できているように思っているみたいだけども、教授や俺にはバレバレだぞ。ほら、教授の目尻が吊り上ってきた。)
俺は苦笑した後、ゆっくりとお嬢に近寄り、耳打ちすると、お嬢はハッとなって、羞恥で頬を赤らめながら、書物に視線を釘付けにして、勉学に励む。その態度に教授は頷いて、再開するのだった。
そして、夜になり、夕食が終わった後、俺はお嬢に私室に呼ばれて、付き合わされることになる。何でって?
今日の稽古や勉学で出された宿題を教えてほしいといって、俺の有無を聞かず、連れて来られたからだよ。
ったく、俺に教えを乞うとかどうかしているぜ…。俺は使用人だからな。本来は使用人に勉学教えてもらうとかないからな!ま、俺はわかるから、教えられるけどよ。
そんなわけで、お嬢に理解できない部分を聞かれれば説明するって感じで、主諾意の山を片付けていった。かなり片付いてきたんだけど、疲れが出てきたのか、宿題に若干気分が沈みがちのお嬢を見た俺は用意していた紅茶をカップに注ぎ、お嬢に差し出す。
「宿題はかなり片付きましたし、少し休憩しましょうか。一度に全部するより、定期的に休憩を取っていったほうが効率がいいんで。」
「…そうね、そうさせてもらうわ。ありがとう。」
弱りきった声色で紅茶を口に入れ、ほっと息をつくお嬢。その表情を見て、ポケットからクッキーを取り出し、お嬢に渡す。受け取って食べたお嬢はさっきまでの疲れた表情が吹き飛び、おいしそうにクッキーと紅茶を堪能しだした。
美味しそうに食べる子供のような表情に笑いが口から漏れる。
俺の笑い声を耳にしたお嬢はクッキーを余程おいしかったのか、次々と口に入れ、リスみたいに頬を膨らませて、顔を向けてきた。
その表情が可愛い小動物に見えてきて、笑いを堪えるのに必死になりながら、紅茶をカップに注いでいると、ふと稽古の時のお嬢の可笑しな行動を思い出した。
今なら、それを聞けると思った俺は、クッキーに差し伸ばす手を止めないお嬢に話しかける。
「お嬢、そういえば今日は稽古や勉学の間、ずっと上の空って感じでしたけど、どうしました?」
「ふぇっ…!?」
お嬢は口にクッキーを咥えたまま、驚く。その反応から何かあるなと気づいた俺は更に掘ってみる。
「なんか暦をず~っとみていましたけど、今日って何かありましたっけ?…どうしたんです?お嬢。」
「べ、別に。…気づかれているなんて思わなかったわ。」
「これでもお嬢の専属護衛を長くやらせてもらってますしね。お嬢の事なら、何でも知ってますよ。お気に入りのお菓子に本に、恥ずかしい思い出話…。おっと。」
「それ以上は言わなくてもいいから!! それに何で小声で言ったのに聞こえているのよ!地獄耳なんだから!」
そりゃ、そうだよ。
俺は、お嬢に関しては何もかも知っているつもりだ…。
それに、お嬢の声を聞き漏らすなんて真似は俺はしないぜ。
その後もからかっていると、また暦を見始めたから、お嬢に視線を固定して圧力をかける。いい加減に話してくれないと今日が終わってしまって、気になって眠れやしないぜ。
すると、やっと折れたお嬢が窓の外の夜空を見て、話しだす。
「今日ってね、”七夕”って言って、愛し合う二人が年に一度に会う特別な日なの…。
私それを知ってから、気になっている事があって…。」
そういうと、お嬢は七夕で伝えられている織姫と彦星という星の住人の話を俺に話し出した。俺はそんな話もあった気がするな~っとぼんやり思いながら、熱心に話してくるお嬢の話に相槌をして、聞いていく。お嬢にはこういった恋物語に憧れている部分がある。
昔はよく、『素敵な当主様が私を迎えに来てくれるの!』って言ってた記憶がある。
こうして七夕伝説を話し終えると、お嬢は再び窓から見える夜空を見て憂いながら、溜息をつく。
空は晴れ渡っていて、無数の星の煌めきが空一面に広がっている。
そこには、無数の星が流れるように描いた天の川がずっと向こうの地平線まで続いている。その天の川を挟んで、二つの大きな一点の光を放つ星が互いの存在を主張するようにきらきらと輝いていた。
「あれが、織姫と彦星なんですって。よかったわ~。無事に今日も逢えたみたい!!
………でも、私はいつになったら逢えるのかな…?」
「??誰にですか?」
「…昔、まだ私が幼かったとき、舞踏会で逢った男の子に。また逢おうって約束して、それっきり逢ってないんだけどね…!
…今日、舞踏会からの招待状が届いた事は知っているわよね?私、それを見た時、もしかしたら、その子と逢えるかもって思っているのよ…!
あの男の子も私の事を覚えてくれていたら、再会した時、きっと彼は驚くわ…!
私をこんなに待たせたんだから…!!言ってあげたい事があるのよ!!」
「……言ってあげたい事でなんですか?」
「絶対に内緒だからね…!」
お嬢は夜空を眺めながら、どこか懐かしそうに見つめていた視線を俺に向け、照れた顔で俺に耳を貸すように手招く。
ああ、その手招き、俺を誘っているみたいに見えてくるからやめろ…!
すっかり安心しやがって…!
俺はこれでも男だぞ!!
心の淵では理性と興奮がせめぎ合っていたが、表面上では仕方なしですねっと平然を装い、耳を傾ける。そして耳にお嬢の吐息が当たりながら、お嬢は恥ずかしそうに秘密を打ち明ける。
「ずっと、私も逢いたかったです!!」
猫の撫で声が聞こえてきそうなくすくす笑いをするお嬢とさっきの言葉で俺の意識は軽く吹っ飛んだ。
思考停止し、頭のねじが飛ぶ感覚を覚える。
もういっその事、押し倒してもいいよな…?
ピンク色オーラが止まらない俺だったが、お嬢はまた星を見て、悲しそうな表情をする。
「織姫と彦星は今年は逢えたけど、私とあの男の子は今度こそ逢えるかな…。
せめて舞踏会の時に逢えたらな~…。」
窓の手摺に腕を置いて、そう呟く姿を見ると、浮かれ気分をいったん棚上げし、俺はお嬢に大丈夫だと落ち着ける雰囲気と口調で励ます。
「…心配ないですよ。その”七夕”の時、自分の願い事を言えば、叶うって言われているんですよね?
なら、その昔逢った男に逢いたいってその織姫と彦星たちにお願いしてみてはどうですか?似た境遇ですし、力を貸してくれるかもしれませんよ。」
「そ、そうね!ありがとう、誠斗!早速お願いしてみるわ!このお願いを天の川で流してもらって、あの子に届きますように!!」
手を合わせて、眼を固く閉じ、お祈りするお嬢を見て、俺は天の川を挟んで光る二つの星に向かって思いを馳せる。
お嬢の逢いたい男の子ね~…。逢えない訳じゃないんだけどよ…。
ま、いっか。舞踏会の時だけの再会とやらを楽しませてあげますか…!!!
もし、お嬢が知ったら、驚くか?それとも泣くか?…怒るって選択肢もあるな…。
でも、お嬢が喜んでくれたらそれでいい。
よし、お嬢!!お嬢の願いは俺が叶えてやるよ…!!
舞踏会では、織姫と彦星の年に一度の廻りあわせのように、再会しよう…。
はい!!
織姫と彦星とを盛り込んでみた。
少し誠斗の過去をにおわせる様な記述があるね~。
でも、それも後でわかるはず…。