何が起きたっ!!
止め… ふごっ!! ばたりっ…!!
一発KOされました、うち…。
助けを呼ぶ声を聴き、観光通りに到着した誠斗が見た光景は、今にも酒瓶を女性に殴りつけようとする顎髭を生やした男性の姿だった。
誠斗は、すぐに地面を蹴って走り寄り、男性と女性の間に入り込むと、男性の便を持つ右腕の手首を掴み、力を入れて、手から酒瓶を回収する。そして、手を掴んだまま、男性の足を軽く払い、前に倒れ込ませ、掴んだ手首を男性の背後に回して関節を極める。バランスを崩した男性は抵抗する間もなく、地面にうつ伏せで倒れ込み、誠斗は関節を極めた状態で男性を取り押さえる事に成功した。
誠斗は男性を取り押さえて、近くで今の捕獲劇を目撃していた観衆の一人に自警隊を呼ぶように伝えた後、庇った女性に顔を向け、安心させるために笑顔を作り、声を掛ける。
「安心してくれても大丈夫だ。君は怪我はない?」
「はっ……はい……。 だ、大、丈夫……です…。」
よほど、怖い思いをしたのだろう。
声が震えあがり、顔色は血の気が消えて、真っ青になっている。しかも、身体も震えていて、腰が抜けたのか、さっきから地面に座り込んで、男性の顔を見つめながら、怯えていた。
誠斗は自分が飛び込んで助けていなかったら、彼女の命は危なかったと改めて今の出来事を振り返ってそう思った。
「こ、この人に悪気は…!ないの…!! この人は…人を傷つける…ような人じゃ…ありません………!!」
「は…? もしかして、この男と知り合いなのか?」
取り押さえた男性の上に座り、動きを封じて、自警隊の到着を待つ誠斗に腰が抜けたままなのに、怖くて涙も止まっていないのに、どもりながらも、男性を庇いだす女性は誠斗の言葉に必死に頷く。
「い、いつも、自分の事よりも、人の事…、ばか…り、考えている…、優しい…人なの…!!」
その後も、必死に男性がどれだけ親切で、御人好しかを言葉に詰まっても話して、なぜこうなったかを話し出した。
彼女が言うには、久しぶりにこの男性と会って、食事を摂る事にした。しかし、いつも食べる庶民向けの食堂とは異なり、値段高めの高級料理店が並ぶ観光通りで食べようと言い出した彼に、不信感が募ったが、彼がぜひ食べてもらいたいものがあると嬉しそうに話すから、彼の勧める料理店に向かったが、あいにくその店は今日は休みだった。
休みなら仕方ないっとまた今度にしようと彼に話しかけると、急に目の色を変えて、「また今度…?今じゃ、ダメなんだよ~!!」と普段の彼からは想像できないほど乱心し、強く手首を掴んできた彼が恐ろしくなって、逃げたが、あっという間に追いつかれ、逃げる際に捨てられていた酒瓶を手に入れた彼に酒瓶で殴られそうになっていた所を、誠斗が助けたという訳だった。
怯えながらも彼を庇い続ける女性の証言に、目撃していた人もいきなり暴れ出したという証言を横から聞いて、誠斗は女性の言う彼の性格は信用できる範囲だなと判断する。
しかし、彼が何故いきなり暴れ出したのか、分からない。
今も、取り押さえているのに、懲りずに狂声を上げて、誠斗の下で暴れまくっていた。少し関節を極めている手首に握力を加えてみたが、全然効力はなかった。
(??おかしい…。普通なら、痛みで一瞬動きが鈍ったり、悲鳴を上げたり、何かしらの反応があるんだけどな…。
それに、暴れて皮膚が剥けて、指先から血が出ているというのに、まったく気にもしていない…。
…どうなっているんだ…?)
男性の反応に訝しく思いながら、観察しているとようやく自警隊隊員2名が到着した。
「通報いただきま……、おっ、誠斗じゃないかっ!! …で、その下にしている男性は?」
「もしかして、暴行をしようとしてた奴っすか?」
「ああ、その通りだ。取り押さえたが、まだ暴れているから、気を付けて連行しろ。
…いっその事、縛っていた方がいいな。自傷行為をするかもしれねぇーからな…。」
駆けつけた馴染のある自警隊員に少し考えてから扱いを指示する誠斗に自警隊員の二人は了承の頷きを見せ、持っていた縄で動きを封じる。
その後、被害に遭いそうだった女性の事も伝え、詳しく話を聞くように伝え、帰ろうかと踵を返しかけた誠斗を連行を任された自警隊員が呼び止める。
「あ!! 誠斗!! 行かないでくれっ!! 頼みがあるんだよ!」
「……悪いが、俺の仕事はもう終わりだ。俺は用事の真っ最中なんだよ。早く帰らないと……」
「そこを何とかっ!!今は人手が足りなくてっ!! 誠斗みたいな腕っぷしがないと手に負えないんだ!! 頼むっ!!」
ものすごく必死に頭を下げて助けを乞う自警隊員に、頭を抱えて困っていると、また助けを求める声が通りの先で聞こえる…。
「何だ? 悲鳴が聞こえたな。」
「またっ!! これで何件目だよ!!」
「えっと…、15件目?くらいじゃないか?…もう数えるのも嫌になるぜ…。」
「…おい、どういう事か、説明しろ。」
悲鳴を聞いただけで、状況を理解する自警隊員たちに簡潔に説明するように圧力をかける。
自警隊員たちも誠斗の協力を願っているので、必死に分かる範囲での説明をする。
最近、港町で徐々に急に人間が変わったかのように暴れ出す人々が続出しているそうで、原因は不明。突然暴れ出し、家族や友人に暴行を働き、それによる出動が日に日に多くなっているのだ。そして、その暴れる人々が力が強くて、漬物石を軽々と持ち上げ、投げるという事件も発生していて、自警隊でも手に着かなくなってきていると自分が取り押さえる時に受けた傷も見せながら、切々と訴える自警隊員の身体には、真新しい傷が残っていた。
「このままじゃ、俺達だけでは収拾がつかなくなるぜ!!」
「それに、もうとにかく力が強くて、取り押さえるだけでも結構大変なんですよ!!既に、重傷を負って、病院送りになった自警隊員も何人かいるんですからっ!!」
「誠斗、頼むっ!! この港町を守るためっ!! 俺達と一緒に動いてくれ!!」
説明し、懇願する自警隊員の話にそこまで状況が荒れているとは思わず、驚愕していた。しかし、それを聞いて黙っている誠斗ではない…。
すでに誠斗の心は決まっていた…。
(すみませんね~…、お嬢…。また”早く帰る”っていう約束…、守れそうにないですよ…。
…後で、怒られるのは、覚悟するか…。
これも、この港町を守ってくれている司様のため…、そしてお嬢のため…、なんだからな…!!)
この町を守る強い意志を宿し、誠斗は自警隊と共に、港町のあちこちで暴れ出す人々の捕縛と事態の収拾に乗り出した。
それが一旦、安息を取り戻したのは、日も傾き、夜になってから活発になって、更に日が明けた翌日の早朝の事だった…。
も、戻ってきました…。ハアハア…、唇がきれてしまったよ~。
それにしても、理由があっても、女性を殴るなんて、許されない事だからなっ!!
『たとえ死んでも女は蹴らんっ!!!』…この名言を言ったアイツは最高だぜ…!!