壁に掛かっている時計を見て、もうそろそろ日が変わる頃だと分かり、余計に椿が誠斗の部屋に来た事に不思議で、頭を掻きながら、その理由を考える誠斗。
しかし、なぜか頭痛は酷くなる一方で、考えれば悪い事しか考え得られなくなる。
例えば、『もう誠斗は入らないわ、暇を出してあげる。』『貴臣の手紙、見たわ!!またお願いね!!』『貴臣との……その…二人で出かけたいの…。協力して?』
…等、ぽっかり空いた心の穴に最後の止めを言われるような展開しか想像できなかった。
いつもなら、それでも前向きにとらえようとするし、寧ろ大好きな二人の馴れ初めに協力できるなら、二人のために手伝ったりするか…。…とか、考えたりする誠斗なのだが、今の誠斗はもうそこまで考えられないほど、追いつめられていた。
(…やべ、なんだか想像すればするほど、胸が締め付けられるように痛くなる。それに頭痛もしてきた…。
…何で今頃、こんなに激しく掻き立ててくるんだよ…!!
俺は…、お嬢の…椿の傍に入れる…、役に立てるなら、それでいいんだよ…。
椿が欲しい!!…なんて思う訳ないだろ…!!
椿はあいつを…!! 貴臣の事を……!! ……愛してるんだ。
俺ではない、身分も性格も容姿も教養も……俺が認めるくらいに完璧な貴臣を椿は選んだんだ…。
……当たり前の事だ。
昔から椿の事は見てきた…。貴臣を見る視線も、笑顔も、仕草も…、いつもどこか雰囲気が違っていた。
椿は昔から気づかない内から貴臣の事を心から慕っていた…。
俺もその事は知っていた。見ていれば、分かる…。
俺も…同じだから…。
…って、俺は何を考えてるんだ!!
俺は椿と結ばれるわけがないだろ!! 身分も違う!!俺は椿の専属護衛兼使用人だ!!
椿と結ばれない、結べない理由は俺が一番よくわかっている!!
今更、椿も俺だけのものにしたい!!、他の男にも見せたくない!!例え貴臣にも!!
………な、なんて思う訳が…ない…。)
心の内で自分にそう言い聞かせる誠斗は決着をつけたと自身で思っていた椿への愛が、今まで抑え込んでいた分が放出し、今後の自分の役目と椿への一途で、純粋な愛とで、板挟みとなり、覚束ない頭で葛藤をしていく。
そこへ、誠斗の部屋の扉がひっそりとまた開き、扉の隙間から顔を覗かせる人物……、椿がいた。
扉が開く様子をずっと見ていた誠斗は覗き込んてきた椿とぱったりと目が合い、お互い驚いた表情で目を見開く。
しかしなぜ驚いたのかの理由は違っていた。
誠斗は、戻って来るとは思わず、またしても気配を感じなかった事と、昨日から見ていなかった椿の顔を見る事が出来た嬉しさも滲み出た驚き。
椿は、こっそり入ろうとして見つかった事と、さっきまでベッドに横になっていた誠斗が身体を起こしていた事への心配を滲みだした驚き。
二人は気まずい雰囲気に、ほんのちょっとだけ、身体が固まった…。
恋ってそんな簡単に割り切れない時があるんだよ。