誠斗は椿と口づけしようと、顔を近づけていく…。
もう身体も自分では止められない。
最後の砦として立ち塞がっていた誠斗の判断力も、椿の言葉に脆くも崩れ去った。
今は、誠斗の心を統べているのは、椿への深愛。それが暴走しかけている。
しかし、誠斗の暴走?もあっという間に脆く崩れ去った。
二人の唇がほんの数センチまで来たところで、椿がおもいきり誠斗の額に頭突きしたからだ。二人とも前頭部を両手で押さえて、痛がる。そして物凄い衝撃に誠斗は暴走しかけていた感情を復活した理性でねじ伏せ、それと同時に落胆する。…表面では、まだ痛がる演技をしているが。
頭を抱えていた誠斗は頭突きされる前にもあった頭痛と先程の頭突きで痛みが緩和され、重苦しかった頭も少しだけ冴えてきた。もう痛みがなくなった誠斗は顔を上げ、椿に声を掛ける。
「………頭突きするくらい嫌なら、そう言ってください。」
丁寧に使用人口調で話す誠斗だが、相当未練があったのか、落胆している事が声音や表情から見て取れる。しかし、椿はそれに気づくことはなく、むしろ誠斗の言っている事が理解できていないのか、首を傾げる。
「嫌? 誠斗、『熱を感じてみるか?』って言ってたから、てっきりおでこで熱を測ってほしいのかって思っちゃった。…違った?」
「……………いえ、その通りですよ。間違っていません。」
「よかった~~~!! ……もう、誠斗は今、相当熱いんだから早くベッドに寝ていなさい。」
ここで天然発揮するなよ。っと心の中で、椿に話す誠斗は椿と口づけできなかった不満と安堵を複雑に絡めた気持ちで椿を見つめた後、最後の椿の言葉に疑問を持つのだった。
(…は? 熱い?俺が?)
誠斗が考え込んでいると、椿が今度は慎重に誠斗の身体をベッドに押し倒して、額に少し冷たい程度の水に浸した手拭いを乗せる。そして、ベッド近くの机に持ってきていたお盆から水と薬を持って、戻ってくると、誠斗の顔を覗き込んで、心配そうに聞いてきた。
「誠斗…、気分はどう? お薬、もらってきたから飲める?」
「…………俺、熱なんかありませんよ。 俺は丈夫ですから。」
「何を言っているのよ!? そんなに顔を真っ赤にして、熱もあるのに…!
見事に風邪をひいているんだから、治るまで大人しくしていなさいっ!」
叱咤しながら、心配な表情でもう熱くなった手拭いをまた、桶の水に浸して、誠斗の額に置く椿を見る誠斗は信じられないというような驚きの表情を見せていた。
誠斗の事を考えると、当然だと言える。誠斗はこの屋敷に来てから、一度も病に耽った事がない。風邪なんかは引いた事がなかった。だから、今自分が風邪だという事に驚きを隠せないのだ。しかし、納得もしたし、満足でもあった。
自分が珍しく風邪をひいていた事で、なぜか体がだるかったり、頭痛がしたり、変に落ち込み気味だったことを考えると納得した。
それに、風邪だと分かって、椿は一回目の訪問で、その事に気づき、看病しに戻ってきたのだ。それが自分のためだと知った誠斗は椿に看病されるのも悪くないと口元を吊り上げ、心の奥底で嬉しさで笑い、この状況の満足した。
(……でも、これって風邪というよりは、知恵熱かもしれないけどな。
そういえば、眠る前はお嬢の事で悩んでいたし…。俺…、よっぽど落ち込んでいたんだな~。
…やはり、俺には、お嬢が傍にいないとダメみたいだ。
例え、この先どんな関係でも、傍にいられれば、俺はそれでいい…。
このお嬢への恋心は何も捨てる訳じゃないんだ。ただ、見えないように仕舞うだけだ。
そうすれば、お嬢と一緒にいれる…。
だけどな、今は…、この時間だけは、お嬢への想いを誤魔化しながら過ごさせてくれ…。)
誠斗はそう心の中で祈りながら、急に気が遠くなり、再び眠りについたのだった…。
この現場に貴臣来たら、まずいけど!! でも、いいじゃないか!この愛を貫かせてあげようよ~、貴臣~!!