こうなりました、世良さん!!
「……以上が、私達ができる看病のやり方です。ご理解いただきましたか?」
「ええ!! 完璧に覚えたわよ! これなら、誠斗も文句は言えない筈よ!」
「これからまた、”夜這い”に行かれます?」
「”夜這い”って何かしら?」
「”夜這い”っていうのは、夜遅くに異性の御宅や部屋を訪ねていく事ですよ。そして、日頃の想いを告げる事を言うのです。」
「なるほど、いい勉強になったわ。」
「ふふふ。左様ですか。それでは、御健闘をお祈りいたします、椿お嬢様。良い結果報告を頂けることをお待ちいたします。
………早く誠斗君が元気になってくれるといいですね。」
鼻高々とマスターした看病の方法に湧き起こる熱意を持って、張り切っている椿に世良さんはエールを送る。最後の言葉は耳打ちで。
すると、椿は顔を真っ赤にして、しどろもどろになる。世良さんに会う前に考えていたあの妄想が蘇ったのだ。急に居た堪れなくなり、どうにも行きづらい。でも、ずっと傍にいないというのは、やはり違和感ありまくりだから、ここは勇気をもっていくのよ!っと自身に気合を入れ、顔を真っ赤にした理由を隠すため、必要以上に大きく頷く。
その愛らしい仕草に世良さんは何かを察したようで、二人きりにしてあげようと椿に申し訳なさそうな顔で話す。
「では、椿お嬢様。私はこの調理場を片付けておきますので、誠斗君の事は全部、お任せいたします。
ただし、何かあれば、また遠慮なく、来てくださいませ。」
「そ、そう? ごめんなさい、片付けを押しつけるようになってしまって…。ありがとうございます。このお礼はまた後ほど。」
丁寧にお辞儀をした後、椿は冷やした冷水が入った桶と手拭い、薬にコップ、おかゆを持って、誠斗の部屋に向かい、調理場を後にする。
その姿を見送った後、世良さんはいい仕事をしたと達成感を味わい、調理場を片付けた後、部屋に戻り、さすがに疲れたのだろう、すぐにベッドに横になって、ふにゃっとした顔で穏やかに眠りについた。
しかし、世良さんは、自分の言動の重みを後でひしひしと痛感する事になる。まさか、椿の看病がここまで、あれとはこの時の世良さんは、知る由もなかった…。
世良さんと別れた後、椿は誠斗の部屋に行ったものの、起きていた誠斗とばったりと顔を合わせてしまい、しばらく固まった後、椿は看病という名の恐怖を誠斗に与える事になる。(本人はそうとは思っていないが、その後の誠斗の様子が明らかに酷くなったことに、自分の原因だという事を徐々に理解していく事になる。)
積み上げられた本を倒したり、地獄のおかゆ?を食べさせたり、着替えさせる際に身体を拭く時も絞りきっていない冷たい手拭いで背中や首を拭いたため、びしょびしょのまま、寝かされ、余計誠斗は悪寒を感じ、熱を悪化させた。
ちなみに、おかゆは誠斗が寝てしまったため、起きた時には冷めてしまっていたので、椿が調理場に持って行って、温め直したのだ。本当は、綺麗に白い輝きを放っていたおかゆだったが、この時にあのおかゆ?に変わってしまったのだった。椿は温め直している間に、色んな調味料を片っ端から入れこみ、火力を強火で炊き込んだ結果があれだ。
こういう時こそ、世良さんを呼べばいい物を、世良さんが「あとは全部お任せいたします。」と言ったため、椿は全部任されるほど、私の看病は完璧よ!と疑いようのない自信に満ち溢れていたのだ。
他にも、数々の看病の方法を行う椿だったが、全て空回りしてしまっていった。
そして、難も疑いなしに誠斗の看病を続けていき、誠斗の快復に更に時間をかけてしまう事になったのだった。
この事を世良さんが知ったのは、誠斗が復活した早朝の朝の準備の時だった。
屋敷中のカーテンや窓を開け、心地よい空気を取り込んでいる時、同じく朝の準備に廊下を歩く誠斗の姿を見つけ、話しかけた。
「おはよう、誠斗君。もう身体の方は平気なの?」
「ええ、世良さん。御心配どうも。もう平気ですよ。…というより平気にしました。」
「??それはどういう意味?」
受け答えしている誠斗の何かを思い出して、げっそりしている顔を見た世良さんは訝しく思った。椿との間に何かあったのかと。
しかし、誠斗から聞いた椿の看病は聞いていく内に、その悲惨な状況に振り回される誠斗に思わず共感してしまうほど、あまりにも椿の看病が酷かったことを知ってしまった。想像してみても、それはもう自分では耐えられないと思ってしまうほどに。
だからなおの事、誠斗がここまで頑張ったのは、椿への愛があればこそだと身に染みて理解した。
誠斗はトラウマになったと話していたが、まだ完全に椿の萌える看病を諦めたわけではないようだが、しばらくは想像の中だけにしておくと、呟いた後、椿を起こしに椿の私室に向かった。
その背中を見て、世良さんは顔色が悪い状態でハラハラしていた。
(え!? 椿お嬢様が!? そんな事を!? 確かに私が教えた手順でやっていますが、なぜ重要な場所で天然が入るのですか!?
ああ…!! 二人きりにしてあげようと、良かれと思った言動がまさかこのような事態になってしまうなんて…!
ううぅ………!! あの、誠斗君の疲労しきった遠くを見る目…、それと期待とは正反対の夢の実現による落ち込み様…。
ものすごい罪悪感が…!
……決めましたわ! 私、椿お嬢様に徹底して、嫁入り修行を叩き込みますわ!心を鬼にして…!! これもすべて、椿お嬢様と誠斗君のため…!!
同じ轍を踏まないように、椿お嬢様には頑張っていただかないと!!)
そう、心に決め、椿の女磨きのための教育への熱意を持ち、目標を掲げる世良さんだった。
そして、誠斗へのそのお詫びとして、司から外出許可を得て、自分が食べてしまったあのドーナツを探し、店主に事情を話し、その時よりも倍近い量のドーナツを御土産に買って渡したのだった…。
(店主は涙を流し、誠斗のために腕を振るって、ドーナツを揚げていった。そのため、大量のドーナツが出来上がり、大サービスをしてくれた。)
椿はお嬢様だからね、初めての事はなかなかうまくいかないもんだよ。
しかし、椿の天然プリは相当なものだったね~。
誠斗もお疲れ様でした。
そして、世良さん!!あなたでしたか!椿に”夜這い”なんて言葉、教えたのは!!?