でも、やっぱり心を痛めてしまうのは、仕方がないかもね…。
「……いつまで、こうしているつもりなんですか?司様。」
「…誠斗が私に、ちゃんと甘えてくれるまで…かな?」
「………断っておきます!!」
ずっと誠斗を抱きしめ、なでなでしていた司の手を解き、距離を取る誠斗の頬は若干照れて、赤くなっていた。その様子を見た司は薄く微笑む。
その二人を陰から見守る若葉さんは無表情のままで、昴はニヤニヤと笑いながら、誠斗に飛ばされた男に近寄り、診察を始める。……口笛を吹きながら。
そして、一段落診察を終えた昴が立ち上がって振り向く。
振り向いた昴の表情はどこか感心を持ったものだった。それを向けられているのは、誠斗だ。
「さすがだね~、誠斗君。
どれも的確に急所に打ち込まれている…。一応、薬は打っておいたけど、後、数時間ってとこかな~。
よいしょっ………と…。」
ドサッ!!
動かなくなった男をすぐ隣の格子の中に運んで入れ、鍵を閉める。
「……よし、これで終わり。
さて、早く奥に進むとしましょうか。」
「…おい、待てよ。昴!!」
何事もなかったかのように、先に進もうとする昴に誠斗が待ったをかける。
「なんだい?誠斗君? 」
「………何であの男を助けようとしない…? まだ生きているんだろ?なら…………」
「悪いけど、既に手は尽くしたよ…、誠斗君。
彼は君が手に掛けなくても、残り数日で息絶える儚い命だったんだ。」
「………あんたでも、無理なのか?」
「それは、誠斗君が一番よく知っているんじゃないかな?
もう彼が”自分”を失くしているのを悟って、せめて苦しまないようにって止めを刺したんだって僕は思っていたんだけど。」
「!!…………」
的を射られた答えが返ってきて、誠斗は言葉に詰まる。
昴の言う通りなのだ。
誠斗は、襲ってきた男の人生の末路があとわずかだという事を悟って、止めを刺した。司の身を守る事が一番の優先だったが、男が苦しんで最期を遂げるより自分の手で”人”として最期を迎えさせようと、あの時の短い時間でそう思い、手に掛けた…。
壁にぶつかり、そのまま倒れたまま動かなくなった男を見て、これでよかったと思う一方で、他に助ける手段はなかったのかという思いが葛藤した。
この時、司も誠斗の心象を理解していた。
司は、こういった事を想定して、今回誠斗を連れ出して、ここに来たのだ。
あくまで可能性としてだったが、実際に起きた事に、自分が招いたものだと誠斗の背中を見て、心の中で誠斗に何度も謝った。
そして、「誠斗は”救った”んだ…。自分を責めるのではない………。」と誠斗にそっと話しかけ、誠斗がこれ以上、自分を責めないようにしたのだ。
(誠斗は”救った”んだ…。
私を…。そして”我”を忘れてしまった彼を…。
そうさせてしまったのは、すべて私だ…。だから、自分を責めるのではない…。
恨むなら…、私にしなさい…!)
・・・
司は、誠斗に恨まれてもいいと昔からそう思っている。
その方がいいとも思っている。
しかし、その本心はまだ、誠斗には言えていない…。
司はいつか来るであろうその時に向けて、思いを馳せ、言葉に詰まった誠斗を見つめ続ける。
誠斗は、言葉に詰まったが、目を閉じて、しばらくしてから息を吐き出し、顔を上げる。
その顔には、もう迷いは感じられなかった。
「…あんたの言うとおりだ。ただ少し違うな…。
俺は、あの男を見て、楽にしてやりたいと思って、止めを刺したわけじゃない…。
もう見るに見かねて、ただ目の前から消えてほしかったから、止めを刺した…、悪い奴なんで。
……さぁ、引き留めて悪かった。先に案内してくれよ、昴。」
誠斗はそう答えると、三人に背中を向けて、ゆっくりと歩き出す。
それを見て、昴はやれやれと呆れ感を出しつつ、苦笑して誠斗に続き、ランプを掲げて先を行く。
司と若葉さんはしばらくしてから後を追って、歩き出した。
司は、前を歩く誠斗の背中をずっと見て、苦笑する。
(誠斗…、君みたいにまっすくで、心が優しい人間はいないだろう…。)
そう心の中で誠斗に投げかけた司の言葉は、口にされず、内側で霧散する。
こうして、さらに奥へと進む一行は、ついに目的の場所へと着いたのだった。
そしてそれが事件に巻き込まれる始まりへと続く事になろうとはこの時、誰も知らなかった…。
悪い奴だって…。自分で言っちゃったよ…、誠斗…。
でも、今まで見てきたみんなには、きっとわかってくれるよ!!?
誠斗が実は…むごごっ…… ←口を塞がれてしまった!!
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