※この作品はR-18です。

運命のシナリオ   作:薔薇大書館の管理人

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 誠斗の秘密が…?


すれ違った気遣い

 

 

 

 

 あれから二日経った夜。

 

 

 司が屋敷に戻ってきた。椿は出迎えをしたが、歯切れの悪い挨拶しかできなかった。司の表情はいつも通りの柔らかかったが、椿は誠斗の処遇についてどう決断されるか心配で、緊張感を張りつめていたからだ。それを察したのか、司は娘の頭を撫でて、苦笑を漏らした。それから、一緒に夕食を共にしようといわれ、食卓の間へ足を運ぶ。

 

 椿は後ろに付き従う誠斗をチラチラ覗き見をした。屋敷に戻ってから、誠斗とあまり話していないのだ。正確には、椿が話しかけようとすると、目を逸らされたり、話を違う方向に持っていかれたりと避けられていた。

 

 (どうしてあんな嘘をついたのか、自分のクビをきられる事もあるのにどうしてかばったの?まだ…、お礼も言えてない。)

 

 言いたい事がいっぱいで、こうして二人きりの時に言いたいけど、どう切り出せばいいのかわからない。そう考えていると、チラチラと後ろを覗いているのか気になったのだろう。誠斗が口を開く。

 

 

 「どうしました?椿お嬢様。 あ、もしかして、お手洗いでしょうか?

  では、お連れして、司様にもお待ちしていただくようにお伝えしますよ。」

 

 

 「違うわよっ! どんな勘違いしているのよ! 信じられない!」

 

 

 真顔で言ってきた誠斗に怒って、ポカポカと殴り掛かる。殴ったら、少し気が紛れて、また歩き出す。でも、まだ顔は頬を膨らませて怒りを露わにしていた。後ろからついていく誠斗はリスっぽいなと笑いを堪えていた。

 

 (少しは戻ってきたな。 やっぱり椿はそっちの方が似合うし…、可愛いと思う…。)

 

 

 心の中で誠斗は椿が普通に接してくれたことに安堵していた。

 

 

 

 

 

 それから、司との夕食の後、誠斗は司の書斎室に呼ばれた。その間、椿は一人私室で読書していた。でも、心は別の事を考えていた。

 

 (大丈夫。お父様は誠斗にはいつも優しく接していたもの。クビにしたりなんてしないはず…。)

 

 誠斗と司が書斎室で何を話しているか気になってしまい、また不安に駆られてしまった。さっきは誠斗のいつものからかいでいつものやり取りができた。その時、怒りもそうだが、いつも通りに接してくれた誠斗が嬉しくて、ほっとした椿だった。それを思い出した椿は自然と涙が出た。自分がどれほど誠斗と過ごしてきたのかを知った。

 

 だから誠斗には悪いけど、司に本当のことを言って、クビをさせないようにお願いしようと私室の扉に向かった。だが、それと同時にノックがかかり、椿の世話役が現れた。

 

 

 「椿お嬢様。お読書中に申し訳ありません。 先ほど貴臣様がいらっしゃいまして、椿様に面会を希望されていらっしゃいますが、いかがいたしましょうか?」

 

 

 早く書斎室へ行きたかったけど、貴臣がわざわざ訪ねてくれたし、それに貴臣にも色々あって、お礼がまだ言えてなかった事を思い出し、なるべく早めに切り上げて所作室に向かおうと決めた椿は世話役に会う事を伝えに行ってもらい、自分も急いで応接間に向かう。

 

 

 応接間の扉をノックし、貴臣の返事をもらってから丁寧に扉を開ける。そこには貴臣が座って待っていた。本来なら、礼儀作法をわきまえてするべきだろうが、椿たちの間にはそれはお構いなく無視してもいい間柄だ。それに今は時間が惜しかった。

 

 

 「こんばんは。貴臣。 この前は助けてくれてありがとう。で、用事は何かしら?」

 

 いつもの笑顔を必死に繕い、急いでいますという口調はせずに、先を促す椿。ただ言葉は間がないくらいストレートに言ったため、逆効果だった。貴臣は椿が慌てている事を感じとり、予想を立て、付き合う事にする。

 

 

 「ああ、椿ちゃんを助けるのは当たり前の事だから、気にしなくていいよ。でも、お礼は嬉しいから受け取らせてもらうよ。

 

  で、要件だけど、椿の様子を見に来たのと話があってきたんだ。」

 

 

 「話?」

 

 

 「うん。その様子だとまだ誠斗といつものように話せていないって感じかな?」

 

 

 ぴくっと繕った笑顔に動揺が走る。上手く隠せていると思っていたのに見破られてしまった。やはり私にはこういう事は向かないんだなと実感した。

 

 

 「幼馴染だからね。表情を見ればわかるよ。で、椿は何でそんな顔をしているのかな?店から出た時も様子がおかしかったし。」

 

 

 「……」

 

 

 椿はここで貴臣に打ち明けたら胸の内が楽になるような感じがして、悩みを吐きだした。店で誠斗の話を聞いて、自分は誠斗を全部知っている気でいた事、私よりほかの少女を助けた事、屋敷を抜け出した私をかばってくれた事、まだお礼も入れてない事を貴臣に話した。親身に聞いてくれる貴臣の優しさが今は嬉しかった。

 

 すべてを聞いて、貴臣がゆっくりと口を開く。

 

 

 「…幼馴染でも知らない一面があるのは当然だよ。椿ちゃんだってあるでしょ?誠斗には話していない秘密とか?それと一緒だよ。誠斗の仕事はたまに怪我もする事があるし、心配させたくなくて言わなかったんだよ。 その気持ちは分かってあげて…ね?」

 

 

 「うん。」

 

 ごくりと頷き、俯いた椿に穏やかな口調で貴臣は本題に入る。

 

 

 「実は、椿ちゃんに話さないといけない事があるんだ。椿ちゃんは多分誤解している。さっきの話を聞いて確信した。

  誠斗は椿ちゃんを避けているわけではないよ?」

 

 

 「え…? どういう事?」

 

 

 顔を上げた椿の目には涙を溜め込みながら、期待を込めて見つめる。

 

 

 「誠斗は椿ちゃんが怖い思いをした事を今でも引き摺っていると思っているんだよ。それに”本来なら専属護衛の自分が椿ちゃんのそばから離れなかったらこんな事に巻き込まれる事はなかった。だから、椿ちゃんが今も笑顔を見せてくれないのは自分の所為だ”って思っているんだよ。」

 

 

 「そ、そんな事全然思っていないわ! 」

 

 

 「そうだね。でも、誠斗は自分が悪いと思っているから、あの時、一目散に駈け出して助けたわけだし、司さんの追及も口を挟んでまで椿ちゃんをかばったんだ。」

 

 

 「わ、私はっ、誠斗と貴臣が助けに来てくれた時、嬉しかった! 誠斗は一つも悪くないのにっ!」

 

 

 「…護りたかったんだよ。何としても椿を体を張ってでも護りたかったんだ…。誠斗は一番椿の使用人兼護衛の仕事を大事にしているんだ。…店でも言ってたしね。」

 

 

 「え?」

 

 

 「椿が店を出た後、自警隊の一人が言ったんだ。『司様のお嬢様の護衛よりもこっちで一緒に港町を守らないか!? お嬢様の護衛でも退屈だろう?宝の持ち腐れだ。』って。それをずっと口を噤んでいた誠斗が言ったんだ。

  『俺は、お嬢様の護衛が一番大事なんだ。ほかの仕事を蹴ってでもこれだけは絶対に譲れない。』って答えたんだ。

 

  誠斗は椿ちゃんの事をいい加減な気持ちでそばにいるわけじゃないからね。それを言いたくて今日ここに来たんだ。」

 

 

 貴臣の話を聞いて、椿は涙を抑える事が出来なかった。そうだ、誠斗は昔からからかってきて、生意気だったけど、いつでも私を心配して守ってきてくれた。

 

 

 「ごめんなさい。貴臣、私、もう行くわ。 話聞かせてくれてありがとう。

  遅いから気を付けて帰ってね。」

 

 

 泣き腫らした顔のまま、笑顔で貴臣と別れ、応接間を後にした。それを笑顔で返して見送る貴臣はため息をついた。

 

(今回は、誠斗の肩を持ってしまったな…。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 廊下を急いで歩き、書斎室に向かう。しかしその書斎室まで来たら、誠斗がちょうど部屋から出てくる所だった。

 

 

 「誠斗っ!」

 

 

 慌てて声を掛ける椿。気配で椿がこちらに向かってくる事を知っていた誠斗だったが、椿の顔を見て若干驚愕の顔を見せる。椿の泣き顔を見たからだ。

 

 

 「椿お嬢様! どうしました!? 何かあったのですか!?」

 

 

 そう問いながら、周囲を見渡し警戒をする。そこに椿が誠斗に抱きついて、首を左右に振って違うと答える。でも、言葉が詰まって上手く話せない。このままでは話を聞けないため、誠斗は椿の私室に連れて行く。

 

 

 

 「…それで? どうしたのですか?」

 

 

 話を聞こうとした所で、キリッと椿が誠斗を見る。

 

 

 「二人きりなんだから、いつもの口調で話しなさい! 他人行儀は禁止!」

 

 

 「…はいよ。 で、どうしたんだよ。」

 

 

 誠斗は砕けた口調に直し、再度問いかける。

 

 

 「お父様は、誠斗をどうするって?」

 

 

 「ああ、色々の状況を照らした結果、俺の処遇は二週間の減俸と一日の食事抜きになったな。 まぁ、クビは免れたけどな。」

 

 

 「そう、よかったわ。クビにならなくて。

 

  それで、誠斗に話したい事があるの! だから、ここに座って!」

 

 

 そういって、ベッドに座るように叩いて導く。誠斗は躊躇したが、早くここから出るために言うとおりにする。

 

 

 「誠斗にまだ言ってなかったから、言うわ!

 

  ……助けて、くれてありがとう。 誠斗が来てくれて嬉しかった。」

 

 

 「……た、助けに行くのは当然だろ? 俺はお前の護衛なんだから。」

 

 

 「あと、あの時は怖かったけど、誠斗と貴臣が助けに来てくれた時からもう怖くはないの。確かにまだあんな事が頭から消えたわけじゃないけど、私は、誠斗といつもみたいに過ごせられなかった方が怖かったの! 誠斗がそばにいないと、私は嫌なの!

  だから、もう、私を気遣って、避けたりしないでっ! …お願いよ…。」

 

 

 「…………分かった。 俺の方も悪かったよ。」

 

 

 「じゃ、これでまた仲直りよ。」

 

 

 「ああ。」

 

 

 そうして、二人はお互いに笑いあって、誠斗は椿の私室を後にする。

 

 椿は誠斗の姿を見送った後、安堵して、そのままベッドに身体を横にして、眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 ★★★

 

 

 

 

 

 

 山沿いに建っている屋敷の塀の近くにある一本の木の上に誠斗が座って、港町の夜景を見ていた。ここは誠斗のお気に入りの場所であり、思い出のある場所だ。

 

 だが、木の上でいつもはリラックスするはずの誠斗様子が今日はおかしかった。顔が赤くなっていて、「落ち着け、落ち着け。」と連語する。

 

 

 誠斗はさっきの出来事を考えていた。どうやら椿が落ち込んでいたのは自分がそっけない態度をしていたからだと分かった。だから、俺が考えていたのは誤解だったと知って、ほっとした。でも、その後の椿の笑顔は満面の笑みで自分に微笑んできた。

 

 あの時、自分を抑え込めたことに誠斗は自分自身を褒めてやりたかった。

 

 

 (あれは、反則だろう! ったく、人の気も知らないで。)

 

 

 『誠斗がそばにいないと、私は嫌なの!』

 

 

 椿の言った言葉を思い出し、また照れる。

 

 

 (くそっ! 静まれ…! 理性を持て! 誓ったはずだ! 俺はあいつの、椿の幸せを考えて、…ただそれだけを考えて、椿を護るってそう誓ったはずだ! 

  恋慕の情なんか…、今更欲なんか出てくるんじゃねぇ! これ以上出れば、俺はここにはいられなくなる。)

 

 

 そう、心で自分に言い聞かせながら、ゆっくりと左目に着けている眼帯に触れた。

 

 

 そして、あの時の記憶を、椿を護ると誓ったあの時の記憶を思い出す。

 

 

 





 感情が溢れた瞬間だね。
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