伝承ともいうけどね~。怖い話をさせて、教訓にするという昔ながらの考え方…。
「………というお話でした。終わり!!」
読み聞かせていた本をバタンと閉じ、ニヤニヤ笑う昴に大人しく内容を聞いていた誠斗は苛立ちを覚え、壁に背を預けたまま、尋ねた。
「…さっきからなんだ?俺の顔をじっと見て、気持ち悪い顔で笑うな…。」
「いやぁ~~!! だって、誠斗君が僕の美しい繊細な声で紡がれる物語を、真剣に!!食い入るように僕を見ながら!!聞いてくれたのがとてもうれしくてね!!つい!!
…僕を見つめる誠斗君の瞳………、感じちゃった…♥」
誠斗から顔を逸らし、口元を手で覆って隠し、隠していない頬が赤く染まり、ポッ♥…といかにも
「あなたの瞳に私のハートは撃たれちゃいました♥ もうあなたの事しか考えらません!!」
…というかのような雰囲気に加え、足を内股にして、身体をもじもじさせ、完全に女子のざわめきを作る昴にそれを向けられている本人の誠斗は、吹雪の寒さくらいの悪寒に遭遇し、昴に口で警告するより早く、反射的に身体が拒絶し、脱走者用のロープを素早く昴に絡ませて縛り、天井に吊るした後、誠斗の鉄拳を顔面で受け止め、男にとって大事なところを膝蹴りを喰らい、軽く天国に召される結果となった。
ふざけて制裁を喰らったというのに、誠斗の拳に若干感じて痺れている昴に司が真面目に問いかける。
「……つまり、君の言う”魔物”の正体というのが、君がさっき読んでくれた話に出てきた『マリハ』という者の事かな?」
「……そ、その通りです、司様。
その話はヨーロッパの国々に言い伝えられている伝承や伝説が収集され、纏められたものですが、殆どが本当の出来事だという事は既に私の友人が調べをつけてます。
そして、その『マリハ』を摂取し、現れた症状は今回の乱心者が多数出現したこの事件の加害者たちの症状と合致する部分が非常に多いです。
ですが、それだけで判断するのも納得できなかったので、日本帝国だけでなく、異国でも手に入る神経薬や毒薬、薬草…を全部集めて、色々実験し、調べたのですが、どれも『マリハ』を摂取した症状までは悪化しませんでした。
私としては、間違いないと思うのですが…、彼らがこの話に出てくる『マリハ』を体内に取り込んだことで乱心し、今回の事態になったと思っています。」
医学や薬学にも精通する昴がここまで断言するという事は、『マリハ』が原因だと疑いようがないという事だ。
昴は頼まれた事なら、仕事を投げずに納得いくまで実験し、期待以上の結果を残す。昴には、かなりの伝手があるから、よく材料は手に入るが、全て前借りやツケでいくものだから、司からの寄付金もすぐにそこにつく訳だが。
…………それにしても、縛られて、天井に吊るされたまま、真面目な顔で、真面目に答えても、ただの変態にしか見えない…。あ、ごめん。変態だった…。
「…『間違いない』と断言しておきながら、まだ何か納得していないような顔をしているぜ?昴。
まだ何かあるんじゃねぇ~か?『マリハ』について。」
「おお!! さすが、誠斗君だね!!
…そうなんだよ、少し気になる事があって、ね…。
この話が起きたのは、およそ200年前の事。だけど、その内乱の際に『マリハ』の凶悪な症状を知った下級階級の国民たちが『マリハ』の栽培場を破壊し、跡形もなく燃やしたみたいなんだよね。…『マリハ』を。
そして『マリハ』を排除して、それからは『マリハ』の”マ”の字も出てこないほどの産業革命がヨーロッパに浸透していき、全て…、終わったはずなんだ。
それが、今になって、再びこの世に現れた事にも驚きなのに、これまた驚く事に、出現した所が、ヨーロッパではなく、そこから遠く離れたこの日本帝国だった…。
”なぜ、日本帝国に突如として現れたか…。”
それがうまく説明できないばかりか、よくわからないんだよね。
僕の頭脳は医術で一杯だからね!! 裏知恵はあまり好きではないんだ。でも…、今回はそうは言ってはいられない…。そんな予感が物凄くするから、考えてみたけど、これといった事が思い浮かばなくて、納得がまだ言っていないんだ。」
頭を激しく掻いて、考える仕草をし、物思いに耽る昴に、誠斗や司も考えこむ。
だが、内心では、その答えにも心当たりがあったか、口にする事が憚れて、顰め面になるのだった…。
昴よ…。もっと誠斗に絡んで!! 二人の絡みがなんか好きになってきちゃった!!
誠斗「……あんた、正気か?」
ああ!! そ、そんな!! そんな目で見つめないで~~!!