「まぁ~、そんな顔していないで、何か頼まないか?今回は俺が呼び出したんだ!!
おごってやるぞ!? さぁ、遠慮なく頼め!!」
新聞を豪快に畳み、人の悪い笑みを浮かべながら、大きく手を広げ、注文するようにこの男…、鳳不二生は司に言う。
「…いえ、私は結構です。ここに長居はするつもりもないですし、そもそもあなたと必要以上に居たいとも思いませんので。用件を伝えたら、切り上げるので。」
しかし、鳳の誘いを司らしくないバッサリとした断りを入れる司。
それを、残念という顔で受け取る不二生だが、それは表面上の演技であり、実際は自分に隠そうともしない嫌悪を乗せた口調と態度に煮えぐり返っていた。それでも、感情を表に出さない仕事をしているからか、それを一切感じさせない対応を取る。
最も、不二生の方も特別に司と仲を取り持ちたいとも思っていない。寧ろ友好的関係よりも、上下関係を持ちたいと思っている。もちろん上になるのは、不二生の方だ。
不二生は兼ねてから自分の手駒を欲していて、長年の蓄積により今ではかなりの有権者や地方の地主までの繋がりを持っていた。そして司にも目をつけていた。
だが、そんな思惑を抱いている不二生を、司も理解している。
理解しているからこそ、司は完全に気を許していないし、今後もこの態度を取り続ける方針は変わらない。
二人の決して有効に歩み寄らない姿勢は続いたまま、不二生は本題に入る。
「呼び出した理由はあれだ。 儂の息子と司殿の愛娘との婚約を正式に執り行いたい。なるべく早い結納をしたいのだが、いつ、料亭に行こうか!!?」
「…前にもあなたに仰ったとおり、私は今回の婚約を断固として認めません。そしてその意志は今後も、決して、変わる事はありません。」
つばきと貴臣の婚約は決まったも同然として話す不二生に対し、司は婚約をこれまたきっぱりと断る姿勢を貫く。司の不二生に向ける視線は、厳しい物だった。
司の視線を一身に受け止める不二生も作り笑いは止め、蛇の睨みのような鋭い視線を送り、司に問う。
「……不服か? 息子たちは儂の目から見ても、相思相愛だ。傍から見れば、政略結婚に見えるかもしれないが、二人が望んで結婚するなら、何も文句はないだろう!?
身分も、容姿も、家柄も問題ないだろう!? どこに不服を申すというのか?」
ギラリと一睨みする不二生。冷ややかな表情で睨まれれば、怖気ずにはいられないほどの威力を浴びる司は、嫌悪感をひたすらと持ち、表情一つも変えずに、返答する。
「…貴臣君は立派な子です。頭もよく、武道にも秀でて、指導者の素質もある。今後の将来を考えれば、頼もしい存在だと思います…。
しかし、その貴臣君がよもや、あなたの子供であったという事実を知った私には、私の愛娘の夫として迎えるつもりもありません!!
…娘の…、椿の幸せを望むからこその判断です…!
婚約は認めません!…絶対に!」
不二生に強い思いを声にも視線にも乗せ、婚約を断る司。
その司の返答に、不二生は膝の上に置いている自分の拳を強く握りしめる。自分に刃向う司の態度に怒りを覚えてだ。
「…どうしても、変わらんのか?」
「先程、あなたに伝えたとおりです…!
...
…私はあなたを一度たりとも、許した事はないですよ、あの時から…!
あなたにもう絶対に…、大事な物を奪わせないと心に誓ってました…。
あなたの手駒として、貴臣君も、私の愛娘も利用されて、一生を台無しにされたくない…!!
あなたがまた、同じことを繰り返すつもりなら、私は今度こそ…、あなたを絶対に大きな顔ができないくらいに、人の世界から居場所を消してあげます…。」
長年、積もらせていた怒りを乗せた言葉を残し、司は席を立ち、店主に少しの謝礼を渡して、店を後にした。
今までずっと銅像のように動かずに控えていた若葉さんも、不二生に一礼し、司の後に続いた。
二人が去った後、不二生は新聞をぐちゃぐちゃになるまで握りしめ、込み上げてきた怒りで、顔を真っ赤にし、プライドを傷つけられたと、もういない司に憤りをぶつけた。
「…わ~~~わっわっわっわ!!
…言ってくれる!! しばらく会わない内に、ますますあいつに似てきやがった…!!
あの時とは、想像できないくらいに生意気になりやがって…!!
腹が立つわ…!!
儂に刃向うようになったお前には、ご褒美として、御望みをかなえてやろう…!
…あの時と同じにな…!!!!!」
妖艶で狂気に満ちた目で、新聞の一面に載った司の写真に、唾を吐き、高笑いする。
不二生の脳裏には、土下座する司が思い浮かんでいた。
店を後にした司は、次の仕事に向かう間、ずっと何かを含んでいる不二生の独特な雰囲気に嫌な感覚を覚え、必然的にあの時の事を思いだす…。
それを頭から追い払い、仕事に専念しようと、考えないようにしようとし、あの時と同じ事が起きない事を祈りながら歩いた。
しかし、そんな司の祈りは、この不二生との対面によって、再び繰り返されようとしていた。
そしてそれは、司だけでなく、誠にも影響を与える、因縁の種が芽吹いた瞬間だった…。
二人の間には、何かがある!!?
そしてその正体が明らかになるのか!!?