…と言っているうちなんか、かなり脂肪が…。いや、忘れて!!
通りで誠斗に一目ぼれをした女性達にアプローチを掛けられるという思わぬ展開があたが、無事にドーナツを食べる事ができ、満足する誠斗をオッサンは、溜息を盛大に吐いて、困った兄ちゃんだと呟いた。
それを小耳にはさんだ誠斗は、不思議そうにして、オッサンにその溜息の意味を問う。ドーナツを頬張って、頬が膨れ上がり、リスみたいになっている幸せオーラ全開のままで。
それを見て、オッサンは苦笑いするが、誠斗に好意を持つ女性達のお役に立つため、一肌脱ぎにかかる。…女性達から直接頼まれたわけではないが、『女性は丁重に扱うべし!!』という紳士的かつ男気のある信念を持つオッサンであるため、お節介を焼くのだ。
「…兄ちゃんは女性にモテるんだから、好意を持ってくれる女性達には、きっちりとした態度を取って、接するべきだと思うぞ?
あれじゃ、勇気を振り絞って、声を掛けてきた女性達への礼儀に反する!!
次からは、あんな素っ気ない態度はしない方がいいぞ!!」
内心、(決まったっ!!)…と我ながらいい助言だったと自分に酔っていると、オッサンの言葉に誠斗が目を丸くして、オッサンを見ながら固まった居るのが目に入り、我に戻る。お互いに見つめ合った感じになるが、一向に動かない誠斗が気になりだし、焦りだすオッサンは、(何かおかしい事を言ったのか!?)と慌てだす。
そんなオッサンを見て、誠斗がやっと身体を動かす。…といっても、盛大に大笑いしてだが。
「わははははははは!!!!オッサン!!その顔…、…ぷっ!!……似合わねぇ~~!!!」
がっちりした体型からの円らな瞳での戸惑い顔のギャップを見せるオッサンに笑いが耐えられず、吹きだして大笑いする。お腹も抑えて、膝をバンバンと叩く。
完全に誠斗の笑いのツボにヒットした変顔をしたオッサンは、なんだか複雑な思いを持つ。しかし、なんだか面白そうにする誠斗を見て、「まぁ、いいか…!」と呟くのだった。
「はぁ~~~…、久しぶりに結構笑ったな~…。恩に着るよ、オッサン。やっぱりオッサンといると飽きねぇ~な!!」
笑いがやっと止まり、満面の笑みで再びドーナツを注文する誠斗に、オッサンはすっかりと流されて、今度はアツアツのふんわりドーナツを食べてもらう。そして、新作のチョコレートをふんだんにつけたドーナツを誠斗に試食してもらい、唾を飲み込んで感想を聞いてみた。
「…どうだい?兄ちゃん!!美味しいか!!?」
「………おお!!蜂蜜の入った今までのドーナツもよかったけどよ、このカカオの効いたチョコをかけるだけで、ほろ苦い甘さが効いてて、結構イケるぜ!!これ、甘いのが苦手な奴とか、じっちゃん、ばっちゃんとかも食べれるんじゃねぇ~か? 」
「そうか!!? なら、今からそのドーナツを売り出すか!!兄ちゃんがそう言うなら、間違いねぇっ!! …後、兄ちゃんが呼び込みしてくれたら、なお良し!!」
誠斗からのお墨付きをもらって喜ぶオッサンは、急いでチョコかけドーナツを作り始める。既に10個は平らげている誠斗は、そのドーナツをまだ食べようと身を乗り出して、出来上がるのを待っていた。
しかし、ずっと待っているのも退屈に思えてきたから、通りを観察して待つ事にした。
だが、そのお蔭で辺りの状況に目を配る事が出来た。
通りの方を見ると、ドーナツ屋のオッサン以外の出店が辺りにも見当たらないのだ。この通りは出店が並ぶ通りで有名で、一般庶民の間から親しまれていた。それなのに、その出店が隣にも、向かい側にもなく、出店通りの一番端っこに何とか一店開いている程度だ。
さっきは女性達が周りを囲んでいて、繁盛していると思っていたが、前に来た時よりも荒んだ通りに、訝しむ。
「…………なぁ~、オッサン。」
「おお?なんだい、兄ちゃん…!もう少し待ってくれよ…今あ…」
「……他の出店はどうしたんだ? 俺たち以外、人が見当たらねぇ~ぞ? なにがあったんだ?」
ガチャ…
ドーナツを揚げていたオッサンは、誠斗の質問を聞き、揚げたてのドーナツを持ったまま、動きが止まった。それまで人懐こい笑顔をしていたオッサンは、まだ揚げているドーナツの鍋の火をきって、肩を落とし、苦笑する。
「……やめたのさ、店を。…もう誰もここには来ないからな。」
そう、言葉を切り出したオッサンの顔には、もう笑みはなく、涙があった。
目から零れる涙は、揚げたドーナツに落ち、スポンジのように、オッサンの涙を吸い込んだ…。
オッサン…の見せる涙の訳とは…。
港町に起きる出来事と関係があるのか?
立派な大人のオッサンが涙を流すんだ!何かあったに違いない!!