「に、兄ちゃん…。君は一体…」
「いや~、俺もおっさんの熱い思いを聞いてたらさ~、身体が疼いてきちまって。おっさんと同じように、この通りが元の人の温かみが通っている雰囲気に戻したいって思ったんだ。俺だってこの港町が大好きだからな!!
だからさ~、初めておっさんのドーナツを食べた時に言ってたじゃないか!?
俺も気になるし、調べてくるぜ!だから教えてくれないか?」
真面目な顔で、頭を下げて頼み込む誠斗に、抱いた疑問は消え、おっさんは持ち前の笑顔で受け入れた。
「え~っと…、前はなんて言っていたっけか?」
「おっさんはこう言ってたぜ!!
”劇的に料理やお菓子、酒の味を美味しくしてくれる効果を持った調味料がこの港町に出回って、有名な料理店や酒屋にはその調味料を使った物が売られて、売れ行きが爆発的に上がって、そこの店主たちは舞い上がっているらしい…。
だから、その調味料の評判が広まって、皆その調味料を使った料理を求めていって、その調味料を使っていない俺達みたいな出店の方へは来なくなったのさ…。”
ってな。」
「…………兄ちゃん。一字一句すべて覚えているのか?」
「おお!! 俺は、記憶力は高いんだ。それに、あの時から気になっていたけど、色々あって、それどころじゃなかったからな。まさかこんなになるまで、評判が高くなっているとは思わなかった…。」
オッサンは、なんて賢い奴なんだと誠斗の高い記憶力の片鱗を垣間見て、目を大きくして、頷き続けて感心した。
それと対照的に誠斗は、見渡しがいい通りを見ながら、仮説を確信に変えた。
誠斗がこのドーナツ屋に来た最大の理由は、オッサンから情報を引き出すためだったのだ。
『マリア』の存在を知ってから、オッサンが口にしていた『調味料』が同一だとしたら、中毒者が特に料理店の通りで現れたのも、劇的に美味しくなった料理の上手さにも納得する。それに、昴の診療所の地下牢にいた彼らからは、ほんの微かに身分の高い人が愛用する香水が漂ってきてもいた。
だから、高級料理店に目星を付けたが、前述した通りに完全に確証を得てはいない段階での突撃はまずいと判断し、ドーナツを食べる傍ら、オッサンから『調味料』の事や料理店の事などを聞き出そうと考えて、足を運んだのだった。
もちろん、オッサンに言ったとおり、共感して通りを元通りにしたいと思っている。ただし、誠斗は通りだけでなく、港町全体を『マリア』という薬物から守りたいと思っている。オッサンへの協力はその一旦であり、スタート時点なのだ。
「兄ちゃん、聞いているのかい?」
「…あ、ごめん、オッサン。少し考え事してたよ。
で、何?」
「ああ…、兄ちゃんが悲鳴を聞いて去った後、町中で騒ぎが起きているから店をたたむようにと自警隊がやってきて、その日は家族の元へ帰ったんだ。
だけど、騒ぎが収束してほっとしたのもつかの間、まるで騒ぎが起きたのを合図に料理店が一般人にも手頃の料理を振る舞い始めたんだ。今まで、裕福なものでしか食べれなかった高級食材をふんだんに使った料理が食べられるって聞きつけた人々は一気に足を遠ざけていってしまった。何がどうなっているか俺達、出店の連中は分からず、とにかく理解できたことは、このままじゃ、客を取られてしまうって事だった。
…そこで、俺達は敵情視察っていうのか?仲間と一緒に、高級料理店で一番売れ行きが良くて、人気の料理店に入っていった。
…………だけどな、兄ちゃん。今を思えば、視察なんてするんじゃなかったんだ…!!」
話を途中で打ち切り、拳を強くテーブルに叩き落した。
オッサンの顔には、悔しさと悲しみが織り交ざった苦痛の表情をしていた。
「…オッサン、話したくないなら…」
俯くオッサンに、時期尚早だったかと思い始めた誠斗が断念しようかと思ったその時、オッサンが出店からコップに入れた水を持ってきて、一杯飲むと、気分が少し落ち着いたのか、話の続きを語りだした。
しかし、再び語りだした話の冒頭は、誠斗の意識を集中させるのに十分な内容だった。
「…あれは、罠だったんだ。 視察をしたから…!仲間達が変わってしまったんだ!!
犯罪を犯すほどに…!
まるで、闇へと縄で引き摺られていくような苦難だったよ…。」
ちょっと待て!! 仲間達がどうなったって!!?
たった数日で起きた罠って一体!!