「罠だって…? いったい何があったのさ、オッサン…!」
悔しがりながらも、その時の事を思いだしたのか、怒りを見せるオッサンに誠斗は、ますますその話に出てくる料理店が怪しく思い始めた。
その裏側を知るためにも、オッサンを宥め、話を続けさせる。
「ああ…、すまんな、兄ちゃん。それでだな~…」
自分が取り乱しかけていた事に頭を掻いて、謝ると、仲間達との敵情視察の時の話を再開する…。
★★★
「……あそこか?その一番人気の高級料理店だって噂されているのか…?」
立派な外装をしていて、異国語で店名が書かれた大きな看板が高々と飾られており、店先には、幅広い年齢の港町の人々が長蛇の列を作り出していた。
その光景を店の真向かいの店の横の路地裏でむさ苦しい男達が頭一つ上下に並んで出して、様子を窺っていた。
彼らこそ出店通りで店を開いている熱き男達だ。今日、彼らが来たのは、もちろん自分達の客が最近噂の美味しい料理を出す高級料理店がでていると聞きつけ、こっちに流れているため、客足を戻そうと敵である高級料理店へと敵情視察に来たのだ。
「ああ…、間違いねぇ~!! あの店こそ、どの高級料理店より一番に上手い料理を出して、人気に拍車をかけた恐ろしい敵だ…。
しかも、その高級食材を使っての料理を俺達みたいな庶民にまで食べれるようにしてきた…!」
「そんな事されたら、俺達の飯を食べてもらえなくなるじゃないかっ!!ゆるせねぇ~…!! 殴ってくるっ!!」
「ちょ…、ちょっと待った!! 落ち着け!!俺達はそのために来たわけじゃないだろ!?
悔しいのは俺も同じだけどな…!、俺達も料理人だ。扱う料理は違っても、それで勝利しないとダメだろ!!?
その拳は仕舞って、やる気は新しい料理を作る時にでもとっておけ…。」
白熱しそうになった仲間達をオッサンが男前な説得でこの場を収めた。
そのオッサンの人となりに触れ、さっきまで燃え滾っていた仲間達が号泣し出し、オッサンを「兄貴~~~~!!!」なんて呼ぶ者だから、オッサンの苦笑しながら宥める。しかしこれだけ大勢で騒いでいたら、通りを歩く人たちにも気付かれるわけで、こそこそと連れと話しながら、冷ややかな視線を向けていた。
ようやく気を取り戻した出店通りの代表団が店に入っていく。
「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」
「じ、十名です!! よ、よろしくお願いしまっす!!」
「何固くなっているんだよ。シャキッとしろ。」
「ああ…!!」
敵の懐へ入ったからか、自棄に動揺し、緊張しまくる仲間達に、一人だけ肝を据えて注意するオッサンが結局みんなをリードして、席に着き、とりあえずこの店の全メニューを注文してみた。
料理を待っている間、ようやく復活した仲間達が、意気込みを見せ始める。
そうして料理が運ばれてきて、みんなが一斉に料理を一口口にした…。
「う、うめぇ~~~~~!!!」
「おお!!とにかくうまいしか出てこないな!!」
「確かに……この深みのある味といい、濃厚なソースに、このふっくらとした歯ごたえ…。名人級だな…。」
「これだけ上品質な料理をあれだけ安い値段で食べられたら、そりゃ俺達の飯より魅力的になるよな~~。」
運ばれてきた料理を次々に平らげていき、それぞれの料理を堪能し、料理のレベルや美味さに感動し、魅了されていき、店に入る前に燃やしていた闘志もどこかへ吹っ飛んでしまった。出された料理に満足し、白旗を上げたのだった。
しかし、そんな仲間達の中でオッサンだけは、眉をひそめ、険しい表情をしながら、たくさんの料理を少しずつ噛み締めて味わっていた。
(確かに、美味い…。盛り付けも作品のようだ…。
だけど、全メニューの料理をゆっくり味わってみて、感じたこの違和感はなんだ…?
………そうか、同じなんだ。
どの料理も味は同じなんだ…!!
普通、料理はその料理の特徴が滲み出るもの。食材の持つ美味さや栄養等が沁みこみ、引き立てる。しかし、この店の全メニューが食材本来の味が出ていないどころか、殺している…。どれも全く同じ味付けで、しかもまったく同じ味をしているなんてことはあり得ない…!!
やはり、噂の劇的に美味しくする調味料の持つ味をふんだんに使っているからか…!?
こんなのは料理とは言わねぇ~~!!)
自分の愛する料理を全否定されたような感覚に陥ったオッサンは、怒りで拳を強くテーブルを叩いた。
その衝撃で皿が音を立て、笑顔で談話していた仲間達が注目する。
「どうした、そんな険しい顔して…?」
「…お前達はこの料理を食べて、何も感じないのか…?」
「え?いや美味かったよ!!? だから今、みんなで『この店に住み込みで働いて、伝授してもらおう!!そのために土下座もして頼みこもう!!』って話し合っていたんだぜ?聞いていなかったのか?」
「何だって…!!」
考え込んでいた間に仲間内で話が進んでいて、しかもオッサンにとっては許容できない流れで思わず怒鳴った。
「何を考えているんだ…! 自分の料理に誇りを、情熱を持てっ!!
こんな料理を出しても、意味はないっ!!
それだというのに、欠点も分からずにこんな料理ともいえない代物を学ぶだって…!!?ふざけるな!! お前たちには自分自身の料理を作るという考えはないのか!?
しかもこんな料理を客に出す店で働く…? 俺は嫌だぞ!?紛い物を客に食べさせるつもりも作る気もない!!
変な味付けしかできない店で働きたいなら、勝手にしろっ!!?」
そう言い放つと、オッサンは店を足早に去っていった。仲間達を置き去りにして…。
それがちゃんとした仲間達と会った最後だった。
そして敵情視察をしたその翌日…、オッサンは変わり果てた仲間達と対面するのだった…。
実際のオッサンはドーナツ屋だけどね。
でも元々はオッサンは料理人だったんだよ。色々あって、ドーナツ屋しているけど、料理に対する情熱は熱く持っているから!
だから、許せないんだよね。