これから本番!! …でも、誠斗なだけになかなか思うようにはいかないようですね。
案内された席に座り、メニュー表を開け、見ていく。
(……メニューの品々を見る限りでは、それほど特別な料理はないな。
もし『マリハ』が含まれているなら、可能性の高い料理を選べばいいんだけどな…。
こういう高級料理の品々は食べるだけでもマナーが!!行儀よく礼儀正しく食べないといけないんだぜ!!
俺としては、こんな堅苦しく食べる料理なんて、はっきり言うが、嫌いだ。食べた心地なんかしないし、もっと楽に美味しく食べられないじゃないか!!?常に誰かに見られていると思って、食べないといけない料理を食べて、後に残るのは、ただの疲労感だけだ。しかも、ただでさえマナーを求められる料理を食べる事も嫌なのに、その料理に『マリハ』を混ぜてくる始末だ。気分を害させるオンパレードに、どうかしちまいそうだぜ…!
…はぁ~~、早く椿に会いてぇ~!! こういう気分の時は、やっぱり椿の顔を見るのが一番だぜ…!!)
単純というか、惚れ込んでいるというか…。
誠斗は機嫌が悪い時や上手くいかない時には、いつも椿の満面の笑顔で、ころっと元に戻り、癒されて、浮かれるのだ。
長年の恋煩いも一筋縄ではいかないな~~。
それは横に置いといて…。
心の中でそう思っていても、表には一切出さず、貴族らしく振る舞う。
そして近くでずっと誠斗をチラチラと見ていた女性従業員を手を挙げて呼び、注文する。
「すみません…。当店のお勧めする最高の一品をお願いします。」
「…は、はい!! 畏まりました!! …い、以上でよろしいでしょうか?」
「ああ……。その料理に合うワインも一つ、いただきましょうか。」
「はい!! 畏まりました!! では!! 失礼いたします!!」
丁寧な言葉使いに、甘い声…、紳士的な態度をする誠斗に、『お願い』された女性従業員は舞い上がり、注文を早速伝えるために、足早に去っていった。
他の来店客の女性達も、頬を赤くして、女性従業員に羨望と嫉妬を抱え、見つめていた。
注文しただけなのに、周りから注目を受け続ける誠斗は、気付かれないようにこっそりため息を吐き出し、低下していく気分に再び気合いを入れる。
(やっぱり、彼女ではなく、男性従業員に変えてもらおうか?
いや…、あの調子だと彼女は、注意されるか、御暇を取らさせるか、だな。あんなに客を凝視して、どもっていてばかりではまずいだろ。
あまり、今は関わりたくないから、微笑むだけで注意はしていない。
…はぁ~、早く潜入調査、終わってほしいぜ…。)
その微笑みで虜にした誠斗は、その事には気づかず、料理が運ばれてくるまで、頭の中で今後のシュミレーションをして待ちながら、椿の事を考えて、やる気を取り戻していたのだった…。
そして、その時にふと出てくる微笑に、他の客も女性従業員も心を打たれ、動悸を昂らせ、黄色い声を漏らすのだった。
すっかり店内は、誠斗に全ての視線を集めた状態になり、女性達の中では、めまいを起こしたり、失神したり、悶えて鼻血を出したりと、店内のあちこちで騒ぎが起きていた。
誠斗は、その騒ぎ全てを完全に無視して、調査の事と椿の事で頭を占めていた。
店先でもまずかったけど、店内でもモテモテだね、誠斗は。
いつも以上に綺麗にまとめた黒髪に、左目の眼帯も取って、包帯で隠したりしているのに、それをお構いなしに惚れていきます。やっぱりイケメンだから、あと覆っているオーラがどうも女性を引き付けずにはいられないんだろうね。