そんな真似を~~~!!
料理を食べて、何かを企んでいると確信した誠斗は、女性従業員を呼び、微笑みながら問いかける。
「お呼びでしょうか?お客様。」
「はい、少しお尋ねしたい事がありまして。
此方の料理をお作りになられたシェフにぜひお会いしたいのですが、呼んできて頂けますか?」
「………畏まりました。少々お待ちくださいませ。」
初めの時とは違い、すっかり自分を取り戻すまでに意識が戻った女性従業員は、誠斗の『お願い』に、疑問を感じたものの、誠斗の『お願い』は絶対にかなえてあげたいという気持ちの方が勝り、すぐに奥へと向かい、厨房にいるはずのシェフを呼びに行った。
そして女性従業員が連れてきたシェフが誠斗のそばにやってきて、コック帽を頭からとり、恭しく頭を下げる。
「当店のシェフを仰せつかっております、田中と申します。
…何か私めの料理に失礼でも?」
礼儀正しく、それでいて愛想笑いが染みついた表情で誠斗に挨拶する田中というシェフ。
誠斗は、シェフを見て、胡散臭いと第一印象をもった。態度では相手をたてているが、声音や視線が少し冷めたものを乗せていたからだ。
それを目敏く観察して気付いた誠斗は、それとなく注意する事もなく、田中シェフに話しかける。もちろん、誠も笑みを浮かべ、愛想笑いだが。
「お忙しい時にお呼びたてしてしまい、申し訳ありません。
あなたにどうしても伝えたい事がありまして…。」
「…それは一体?」
「……………」
「……………」
二人は視線を通わせ、しばらく無言になる。
しかし、重い空気が流れるという事はなく、誠がついに口を開く。
「……素晴らしいです!! この料理は、今まで食べてきた料理がどれだけちっぽけなものだったか、痛感いたしました。
こんな絶品料理は見た事も、食べた事もありません!
シェフ…、見事としか言えません。あなたは、とても偉大な方です。」
絶賛してシェフを褒め称える誠斗に、シェフは動揺したのか、目を見開いて、じっと誠斗を見つめる。
その状態が続くものだから、誠斗は心の中で失敗したか…?と思い始める。
(いや~~…、観察した限り、このシェフは、オッサンみたいに料理そのものの味を引き立てる…、的な考えは持っていないだろうなと判断した。そして、自分の名声にしか興味のない奴で、それを非難する者は絶対に許さない…って部類の人間だと思って、あえて褒め称えたんだけどな~。
あの目つきは、疑いと…蔑みを感じさせるものだった。
もしや、俺の判定ミスか? 料理の素材を引き立てるとかはなくても、料理自体は情熱を込めているとか、か?)
…と、内心で不安を抱きながらも笑顔でシェフの言葉を待つ誠斗に、やっとシェフも口を開いた。
「……ふ、ふふん!! 大変ありがとうございます。
この私の料理をそこまで褒めてくれる人は、なかなかおりませんゆえ。
お客様は大変お分かりのようです!!」
鼻で高笑いをし、若干照れながらも堂々と威張るシェフに、笑顔で頷きながら、ほっと安堵した。
どうやら、誠斗の言葉に感動し、噛み締めていただけらしい。
それからは、田中シェフの自慢話が弾んでいき、誠斗は物凄く顔に力を入れた愛想笑いで相槌しながら、話を聞いた。
(その自慢話は料理というより、田中シェフの自慢話であった。そしてその自慢話は、女性従業員が呼びに来るまで続いた。)
そろそろ厨房が回らなくなるという知らせを受けた田中シェフは、こっそりと舌打ちをする。(誠斗には、耳打ちも舌打ちも聞こえていて、意味はなかったが。)
田中シェフが厨房に戻ろうとする際に、ふと足を止め、誠斗に向かって、話をし出す。
「…お客様、宜しければ私の厨房に来られますか?
あなた様に、ぜひ私の仕事ぶりを見てもらいたいのです!!」
「…よろしいのですか!? では、お願いいたします。」
誠斗は、席を立ち、田中シェフの後についていく。
そして、その背中を見つめながら、心の中でほくそ笑む。
(くくく!!
やったぜ!! 何度も殴りそうになったのを堪えて待った甲斐があったぜ!!
作戦、その壱成功だな!)
見事な演技の立ち回りで、田中シェフに、問題の厨房に自ら案内させられたことに、ひとまず胸を撫で下ろし、深呼吸して、入っていくのだった。
ちょっとした時間だけで、相手の性格を当て、その性格を利用して、欲しい言葉を言わせるとは…!!
誠斗、凄すぎだろ!!