せっかく椿と会えて、浮かれているところに悪いけど、……耐えて頂戴ね?
椿の専属護衛に戻った誠斗は、その後、椿といつも通りのやり取りを交わし、夕食をとる。最も使用人にすぎない誠斗は、時間を見つけて食べる程度。夕食は椿一人で済ませた。
司は結局今夜は帰れそうにないという電報が入り、この屋敷には椿と誠と数名の使用人だけがいる状態だ。
だからか、椿の様子がおかしい。
誠斗は椿が広いテーブルでどこか寂しげに食べているのを見て、やはり司さんの事が心配なんだなと心の中だけで呟いた。
貴臣との婚約を司に猛反対された椿は、それからは司と口を利かない日々が続いていた。しかし、誠斗が熱を出して看病してもらっってから、まだ許してはいないものの、ちょっとした他愛のない話を交わすようにはなっていた。
それに、怒っていてもやはり椿にとってはたった一人の家族だ。心配しない筈もない。
夕食を終えて、私室に戻る椿は、時折ため息を吐いて、窓から見える港町の明かりが輝く夜景を見つめる。
「……夜の港町は、綺麗ね…。」
「そうですね…、まぁ…俺にはもっと綺麗なものがあるので、それには劣りますけど。」
「え?その綺麗なものって何?」
「………それは秘密ですよ。(お嬢に決まっているだろ?…でも言えば求婚になってしまう…。言わないに越したことはないな…。)」
「もう~~~!!教えてくれてもいいのに!!」
「俺にだって秘密くらいは持ちたいんですよ、お嬢。
あまり人の秘密を聞きたがるのは、野暮ってもんですよ~。」
「う…!!」
「………まぁ、お嬢は港町というより、貴臣様の事を考えて夜景に見惚れていたのはバレバレでしたけど。」
「!!! 何で!!私の心を読んだの!!?」
顔を真っ赤にして、誠斗に掴みかかる椿は、若干涙汲んでいた。
それを見て、『ああ…、やっぱりか…。』と胸にちくりと痛みが走るのを感じながらも、呆れ顔で話す。
「……お嬢とどれくらいの年月を傍で護ってきたと思っているんですか。お嬢の事なら、なんでも俺は分かりますよ。
そう言えば昔、お嬢が屋敷で「かくれんぼするの!!」って言いだして勝手に隠れたけど、普段誰も出入りしない屋根裏部屋に入り込んで、逆に見つかるまで泣きまくってた時がありましたよね~~!!」
「そ、そんなっ昔の事はいいじゃない!! あれは、結局貴臣に見つけてもらったんだから!! もう!! 誠斗を呼んだのに、全然来なかったし…!!」
「………………そ」
からかう目的で話した昔話で椿が拗ねた。誠斗は一瞬驚いた表情をした後、何かを言おうと口を開いた時、窓に何かが当たった音が聞こえた。
その音を聞いて、すぐに誠斗は椿の手を引っ張り、窓から距離を取らせると、椿を背中で庇い、同時に相棒を取りだして、構える。
もう日が暮れ、訪問者が尋ねてくる時間ではない。
それなら、侵入者か…。
司がいないし、使用人も少ない今を狙ってきたのか…?
誠斗は気を引き締め、窓を凝視する。
「………お嬢、決してここから動かないように。いいですか?」
「…う、うん。」
窓を凝視したまま、椿に警告する。椿から返事を確認すると、誠斗は窓に向かってゆっくりと歩く。
誠斗の後ろ姿を見つめながら、椿も手を組んで無事を祈る。
窓まで近づいた誠斗は、窓辺の壁に身体を張りつけ、そ…っと外の様子を窺う。
辺りを見回すと、黒いコートを着た者が窓下に立っていた。
(体型からして、男……か。)
誠斗が眼を鋭くし、見つめる先にいる黒いコートを着た男は、顔を上げ、ニコッと微笑む。
それを見て、誠斗は緊迫した雰囲気を和らげ、ため息を吐いて、緊張の糸をほぐす。相棒を下ろし、いつもの調子に戻る誠斗を見て、椿も自然と張りつめていた緊張を解放する。
誠斗が警戒感を持たないという事は、敵ではないと分かっているから。
誠斗は相棒を片付けると、椿の方へ歩き、優しく微笑みかける。
そして、椿の手を取って、窓の方まで短いエスコートをする。
「お嬢…、願いが叶いましたよ。 本当に………、お嬢は恵まれているな。」
「?」
そう話す誠斗のどこか落ち込んだ声色が気になったが、窓の外を見て、それが一気に吹き飛んだ。
「あ…、椿ちゃん。久しぶりだね、元気だった?」
だって、そこにはずっと会いたかった愛しい人が…、貴臣がいたから…!!
「椿ちゃんに会いたくて、逢引………に来たんだよ。」
月光が照らす貴臣の笑顔と再会の言葉の感動で、椿は顔を真っ赤にして、逆上せるくらいに幸せを感じるのだった。
逢引に来たって~~~!!
キャ~~~!!
久しぶりの貴臣登場だな!!
…でも、目の前でというより、隣で二人のラブラブを見る事になった誠斗…。