ご注文はエロスですか? 作:ジキルとハイド
「小腹がすいてきたな……」
とある休日の昼、特にすることもなく暇だったので、町を散歩して途中で何となく目に入った本屋で立ち読みしたり古着屋で気に入ったTシャツを買ったりしていたのだが、小腹がすいてしまった。
スマホをポケットから取り出して時間を見てみると15時。家を出てから結構、時間が経っているな。
適当にどこかで軽く食べてから帰るか。と、思っていると一つの喫茶店が俺の視界に入ってきた。調度いいし、ここにしよう。
「……ラビットハウスか」
何回か見たことはあるけど入ったことはないな。名前にラビットってついているし、兎でもいるのだろうか?
まぁ、この町では兎は別に珍しくないけど。
俺は左手で服の入った紙袋を持っているので、右手でラビットハウスの扉を開ける。
「いらっしゃいませ!」
中に入ると元気な挨拶が聞こえてきて、奥から店員がやって来る。声の主は声と同じで元気そうな可愛い女の子だった。
ていうか、見覚えがあるな。
「……もしかして保登か?」
「き、君は……!」
何故か驚愕したような表情をする保登。いきなりどうしたんだ?
「…………」
「…………」
静寂がこの場を支配する。……え~と、何、空気?
何で固まっているんだよ。何か喋ってくれないと、俺もどうしたらいいか分からないんだが。
「……誰だっけ?」
顎に人差し指を当てながら保登が不思議そうに首を傾げる。その仕草は可愛いけど、俺のことを覚えていなかったのかよ……。まぁ、俺はそんなに目立つキャラじゃないから仕方ないか。
でもだったら、さっきの無駄に意味深は顔は何だったんだ……!
「……朝倉勇樹。お前のクラスメイトだよ……」
「あ、そうだったんだ!」
保登が一瞬驚いた顔をして、次に――
「何かゴメンね」
手を合わせて上目遣いで謝ってきた。
ぐっ……。普段、そんなに女子と関わらない俺には色々とキツい。可愛い過ぎて少し心臓がドキドキしてきた……。
とりあえず俺は冷静を装いつつ、僅かに視線を逸らす。
「気にしていない。それより早く席に案内してくれ」
「それもそうだね。お客さんをずっと入り口に立たせたりしていたらチノちゃんに怒られるよ」
チノちゃん? 保登の同僚か?
「こっちだよ」
保登に案内されて窓際の席に座る。そしてメニューを渡されたので見る。
コーヒーばっかりで食べ物は少ないな……。
「ユウキくん、注文は決まった?」
と保登が聞いてきた。
別にいいけど親し過ぎないか? クラスメイトとはいえ一応、客なんだが。
後、もう一つ気になることがある。
「……何で俺のことを下の名前で呼んでいるんだ?」
「嫌だった?」
「嫌とかではないけど、ちょっと距離が近すぎるな、と思っただけだ」
「『会って三秒で友達』が私のモットーだからね!」
胸を張って自信げに答える保登。
物凄いモットーだな。俺には絶対、真似できない。
「だから私のこともココアでいいよ!」
「いや、それはさすがに恥ずかしいというか……」
「恥ずかしくないよ!」
「だから――」
俺はそこで一瞬、言葉を失った。
「……そうだよね。私なんかと仲良くしたくないよね……。最近、チノちゃんの私に対する扱いも雑だし……」
「そんなことないから! 大丈夫、俺とココアはもう友達だ!」
急に落ち込みだしたので、焦って落ち着かせるために保登のことを名前を呼ぶ。
いきなりネガティブになってどうしたんだ?何かあったのだろうか?
「……本当?」
「ああ、本当だ、ココア!」
俺がそう言うと保登――もといココアが嬉しそうな顔をする。
……何となく振り回されているような気がしてやりづらい。
それにクラスメイトの女子を下で呼ぶというのは恥ずかしいものがある。初めてだから尚更だ。
早く注文して誤魔化すか。
「じゃあ、サンドイッチとブレンドで」
「かしこまりました」
俺が注文するとココアはもう一人の店員のところにメニューを伝えに行く。
小学生……いや、中学生か。頭にあんごら兎を乗せた中学生ぐらいの可愛い女の子だ。こんな小さな子が働いているのか。立派だな。
ていうか、何で頭にあんごら兎を乗せているのだろうか?
注文したものが届くまで暇なので喫茶店を見渡してみる。落ち着いていて良い雰囲気の店だな。
でも俺以外に客がいない。昼時が過ぎているとはいえ、休日にこれで売り上げとか大丈夫なのか? 俺がすることはではないんだろうが心配だ。
「お待たせしまうわっ!」
ココアがブレンドを運んでいる途中でベタな感じに足を滑らせる。そしてブレンドが入ったカップは美しい軌道を描き、まるでそうなることが決まっていたかのようの俺の頭の上に被さる。
つまり、まぁ……簡単に言うとびしょ濡れになってしまった。
「…………」
さっきとは別の意味でどう対応したらいいか分からないんだが。
こんな漫画みたいな事って現実にあるんだな。よく分からないが感動だ……。
隣に置いてある紙袋を見てみる。どうやら服までは濡れていないみたいだ。……良かった。
とりあえず頭のカップをどけてから紙ナプキンを取って顔を拭く。
「うわー、ゴメン! 大丈夫?」
俺が無言なのを見て怒っていると勘違いしたのか、ココアが焦った様子で紙ナプキンを取って俺の顔を拭き始めた。
ちょ、距離が近い近い! 顔が赤くなっていないか心配だ。
「どうしたの、急に顔を赤くして」
どうやら赤くなっていたらしい。
恥ずかしい……。穴があったら入りたい。
「……何をしているんですか」
ココアの後ろの方から呆れたような声が聞こえてきた。見てみると片手にタオルを持った小さな女の子がいた。
「……実はお客さんにコーヒーをこぼしちゃって……」
「それは見ていたから知っています。……本当、ココアさんは困った人ですね。落ち着いて行動しないからこんなことになるんです」
「うぅ……、返す言葉もないよ………」
どっちが年上なのか分からなくなるやり取りだな。何か和む……。
「うちの従業員がすみませんでした。こちらをどうぞ」
「どうも」
チノ(名字が分からないので名前で呼ぶことにする)が丁寧に謝罪しながらタオルを渡してきたので受け取る。
ココアと違って礼儀正しい子だな。妹に欲しい……。
「ところで更衣室って借りられるか?」
「……更衣室ですか?」
「ちょっと着替えたくてな」
タオルで吹いたとはいえ服にシミがついたからな。このまま帰るのは嫌だ。
シャワーは家に帰ってからで良いだろう。さすがにそこまで借りる気にはなれない。
「それは構いませんけど着替えはあるんですか?」
「ああ、それなら――」
「もし服がないなら私のを貸すよ!」
「脱がなくていい!」
「脱がないでください!」
ココアが服を脱ごうとしたので俺とチノが同時に止める。
……まさかそれを俺に着させるつもりなのか? もし俺がココアの服を着たら色々と問題があるし、何よりそんな格好で外を歩いたら道行く人々に奇異な目で見られる。
それに年頃の女の子がクラスメイトの前で脱ぐのは駄目だろ。……まぁ、そこに関してのみは惜しいという気持ちがないわけではないが。
ていうか、よく考えたらココアが今着ている服って私服じゃなくてラビットハウスの制服だろ。そんなものを勝手に人に貸そうとするな。
「着替えならちゃんとある」
隣の紙袋を指差しながら言う。
ついさっき買った服がもう役に立つとはな。予想外もいいところだ。
それからチノに場所を教えられて更衣室に移動。二人はカップの後片付けをしている。
……後、多分だがココアはチノに説教されている。
「さて、着替えるか」
俺は服を脱いで上半身裸になる。そう言えば、この服はどうしようか。買った服は一着じゃないし、紙袋に入れて帰るのは嫌なんだが。
後で袋か何かを借りられないかをチノに聞いてみよう。
「なっ……なっ……」
急に変な声が聞こえてきた。声の出所はクローゼットの中みたいだ。
……中に誰かいるのか? でも何でクローゼットの中?
怪しいな。泥棒の可能性もある。
俺は声が聞こえたクローゼットを開ける。
「……え~と」
「お前は誰だ!?」
中から鉄砲を構えた下着姿の美少女が現れた。お前こそ誰だ……。