審神者視点(人外女審神者、へしさに風味)
モブ刀剣男士視点(まんば君と一緒)
こんのすけ視点(中身:腐女子)
彼女からの視点
切欠は磨り上げだったと思う。同田貫を含む1部の太刀男士が、打刀へと刀種を変更された。その頃の事だ。
「特に、変化はないのですな」
「まぁ、こんなもんだろ」
それを見かけたのは、偶々。夏の庭、風鈴の下で団扇をあおぎながら涼んでいた時だ。近侍の長谷部がいなかった。あの時は冷たいものを持ってくるといって席を外していた。だから、少し離れた縁側に腰掛け、喋っている彼らを見かけたのは己だけだった。
同田貫と一期一振。珍しい組み合わせだ。彼らはそれぞれ内番着だったが、手には刀がある。特に目を引いたのは、一期が同田貫の本体を持っていたからだ。しげしげと、刃を抜いて眺めている。膝に頬杖を突いていた同田貫は、それを厭う様子もない。ただ、少しばかり擽ったそうに見えた。自身も、一期が構えている「同田貫正国」を見遣る。
真っ直ぐな刀。刃が美しかった。量産品というのが信じられない、と褒めた事がある。大袈裟だ、斬れればいいんだよと乱暴にいったのは照れ隠しだったのだろう。同じ刀剣の付喪神の身である自身にとっては、微笑ましいと思えたものだ。彼にも、以前は忌まわしく思っていた自身を褒めて貰った事があったから。しかし、そんな彼が自分自身をあれ程素直に明け渡している様は、はじめて見たように思える。審神者である自身ならばともかくだ。これは刀剣の付喪神の本能のようなものだ。ひとつ扱いを間違えれば傷付ける。多少の傷ならば、同田貫は厭わないといっても。
一期は、琥珀色の目を陽光の下、同田貫の刀を見詰めていた。このほど、打刀へ磨り上げと相成った彼の刀身は、実のところ見てくれはほとんど変化がない。元より今回刀種変更となった彼らは、打刀と評しても良いものであったという。刀剣としては箱入りの為に詳しくは知らないが、少なくとも動きに支障はないようだった。それを他の刀剣男士も不思議に思っていたらしい。一期は刀をおさめると、隣の同田貫に返す。それを小脇に置く彼に、一期は微笑んでいる。
「しかし、見事な作りですな。兜割りの逸話に相応しい。打刀、といわれてもにわかには信じがたい」
「そりゃそーだ。太刀として打たれたんだからな。ま、安心したか。二刀開眼、とやらじゃしっかりお前の弟達とも連携するっての」
彼の褒め言葉に、同田貫は笑っていう。ややヒトが悪そうに見えたのは、自身の気のせいか。否、最初にやって来た太刀男士――今は「打刀」だが――だから、彼の性格は知っている。中々どうして食えない男だ。それをやんわり避けたらしい。一期は目を瞬くと、直ぐに相好を崩す。
「ははっ、お見通しでしたか」
「あんたの兄バカっぷりはよーく知ってるよ。骨喰と鯰尾、だったな。あいつらならしっかり敵を仕留めてくれるだろうよ。だから俺の方を心配するのは当然だな。で、俺は『合格』か? 元『天下一振』さんよ」
「貴男もお人が悪い」
嘗ての名を呼ばれ、一期が笑う。しかし、その笑みは種類が異なるものだ。暑いのか、髪を耳にかける。その仕種が、奇妙に似合う。思わず眺めていると、一期が口を開いた。
「主、冷たいものをお持ちしました」
「あ、長谷部有難う」
甘い香りが、唐突に微かに鼻を掠めた。振り向けば、自身よりずっと背の高い男が、穏やかに微笑んで盆を持っている。すぐさましゃがみ込んだ彼の手にあったのは、本当に「冷たい」ものだ。アイスクリームである。目を輝かせる自身に匙を手渡しながら、長谷部は「燭台切が作ったそうです。毒味は済ませておきました」と悪戯っぽく笑った。それに笑みを返して器と匙を持ち、そして振り返る。
同田貫と一期は、会話を続けていた。しかし、先程の妖しい雰囲気は、霧散していた。アイスは、バニラとココアとイチゴのフレーバーだった。
彼からの視点
最近、あいつらはよく一緒にいるな。
同じ写し同士という事で、以前から交流はあった。自身が大倶利伽羅達と共に打刀に磨り上げされてからは、投石兵の扱いは山姥切に教わっていた。そんな折りだったと思う。ふと、彼がそんな事を言い出したのは。緑玉の目が、自身の頭上を通過してそちらを見遣る。釣られて見れば、そこには同田貫と一期一振がいた。目を瞬く。どうやら投石兵の扱いに、太刀の一期が興味を示したようだ。漏れ聞こえる会話の内容からそれはわかる。しかし、意外な組み合わせだ。揺れ動く的を目指して石を投げつける。当たった。「ないすぴっちんぐ!」とどこからか鶴丸の声がした。大方屋根の上だろう、長谷部の怒鳴り声が追いついた。新たに石を手に取りながら、自身は首を傾げる。
「前はそんなでもなかったよね」
「太刀同士の頃より、寧ろ交流が増えているように見えるな。……体幹は俺達に備わっているから、あとは命中率に磨きをかければいい。あの的は単調に揺れているだけだ。本番の遠戦では今のようにうまく当たるとは限らないからな」
「はーい」
打刀としての先達の言葉に素直に返事をする。山姥切の背後では彼の兄弟達が微笑ましそうな目でこちらを見ていたが、山姥切自身が気付いていないようなので敢えて見なかった事にした。右足を軸にし、左足を振り上げる。踏み出した左足から、石を放った。
かーん。
「同田貫殿、内番ですぞ。■■殿がお困りです」
「……おう、忘れてた。悪いな」
それを見た――というより聞かされたのは、別の日の事だ。庭の片隅、厨の裏手で、自身は箒を片手に口を開ける。フライパン片手の一期が、そこで昼寝をしていた同田貫に向かってお玉で打ち鳴らして起こしたのだ。
その時、自身は主に馬当番を命じられていた。同田貫との組み合わせだ。元々は最初に来た太刀として、太刀男士としてはへっぽこだった自身が何かと組み合わせられるのはいつもの事だった。今でこそ練度が上がったので接点は薄くなったものの、組み合わせられるのは最早習慣だ――そして、見つからない同田貫を捜すのも。同室の御手杵、九州勢、主、様々な者達に同田貫の居場所を尋ね歩くのも最早習慣だ。
しかし、この日はそれが意外に早く終わった。厨を訪ねた時だ。そこにいたのは、長谷部と一期だった。今日の畑当番は彼らだった。そんな事を思い出しながら事情を述べると、意外にも先に身を乗り出してきたのは一期の方だった。長谷部が「主命を怠るとは」と怒るよりも先に、黙ってフライパンと玉杓子を手にしたのだ。それを見て退きながらも、さっさと歩いていく一期についていく。彼が行く先は厨の裏手だった。
そこで、同田貫は内番着で昼寝していた。高いびきである。
自身が怒鳴るより先に、高らかにフライパンが打ち鳴らされた。
思わず見上げる。刀剣男士は長い刀身を扱う為に背の高い者が多いが、一期もその一口だ。立ち上がる同田貫の前で、フライパンとお玉を降ろした一期がぽこぽこと怒る。
「もう、駄目でしょう。同田貫殿。内番を怠っては長じては戦に響くのですぞ」
「わーかったって。おう、やっぱお前か相手は。馬当番だったっけか」
「あ、うん。これ箒……」
すっかり毒気を抜かれ、立ち上がった彼らを交互に見遣る。背丈の変わらない彼ら。同田貫の方が、頭を掻きながら欠伸混じりにいう。
「悪いな、お前も内番中だったんだろその様子だと」
「反省するなら今後に生かしていただきたいものですな。それに謝るなら彼に」
「ま、まぁいつもこんなもんだし」
「■■殿、甘やかしてはなりませんぞ」
至極真面目にいわれる。まるで弟扱いだ。尤も大概の刀剣男士は自身より年上、1番年の近いのは和泉守だが。それに頷きながらも、同田貫に促されて厩へ向かう。一期は自分達を見送ると、そのまま厨へ戻っていった。
「はーぁ、めんどくせ」
ぼやきながらも、厩へ歩いていく足は止まらない。身長差の分歩幅の差が出る。それに一所懸命ついていきながら、ふと、以前山姥切がいっていた事を思い出す。
『最近、あいつらはよく一緒にいるな』
「女房みたいだね」
「は」
呟けば、敏感に聞き取ったらしい。足を止めた同田貫に蹈鞴をふむ。それでも自身は、思ったままを口にした。金色の三白眼がこちらを見下ろしていた。
「一期さんがさ。たぬきさんの嫁さんみたい。姐さん女房ってところかな。実際一期さんはすっごい年上だし」
「……」
「っていうか最近よく一緒にいるよね。まんばさんもいってたよ。……たぬきさん、どうしたの」
見下ろしてくる目が、逸らされる。そして、不意に分厚い手が眼前に迫った。
額を弾かれた。
「ったぁ!!」
「バカいってねーで、とっとと厩行くぞ」
「っていうかそもそも昼寝してたのたぬきさんっ……ってちょっとこれ軽く割れてる! 割れてる!!」
兜割りの力、恐るべし。その後、厩は先に同田貫に行って貰い、自身は1番近くにいた薬研に額の手当てをして貰った。笑ってガーゼを当ててくれた彼は、本当に短刀かとしみじみ思う。その際の経緯について述べたのちの、「悪いな、旦那。ちっと同田貫の旦那を借りるわ。馬当番は藤四郎の誰かから代わりにやる」と陽炎のように立ち上がった彼の気迫も、見てくれの儚さからは想像もつかないものだった。
さて、その日の晩、就寝前に「なぁ、あんた今日同じ馬当番だったんだろ。たぬきの奴を知らないか。戻ってこねぇんだけど」と御手杵に尋ねられたが、自身には何とも応えようがなかった。
使い魔からの視点
さて、「こんのすけ」を勤めている自身は世にいう腐女子といわれる類の人間だ。日頃は政府と審神者と刀剣男士達に忠実な使い魔の中の人を勤めているが、日々、主に男士達の絡みを見て内心で萌えを叫んでいる。政府内女性こんのすけ腐女子の飲み会は毎度盛り上がる。時に逆CP、時に男審神者が受か攻かで戦争にもなるが、最終的には「萌えるわぁ」のひと言で一致団結するのが自分達である。歴史的に絡みのなかった刀剣達を絡めて妄想するのも楽しく、自身が現在仕えている本丸の審神者は所謂「刀剣女士」の為か色々と看破してきている。「楽しそうでいいね」と見透かすようにいわれたが、受け入れられているのならそれでいいのだ。
そんな自身だが、今日、珍しい組み合わせを見た。同田貫正国と一期一振である。この2人が一緒に茶を飲んでいるのを、自身は目撃した。ただの獣のふりをして寝転がり、聞き耳を欹てる。これは飽くまで監督責任を果たす為であって、と言い訳をするつもりもない。全ては萌えの為だ。尚、中身が腐っているこんのすけのところの本丸はブラック率が異様に低かったりするのは余談だ。
意外、と思ったのは当然だろう。彼らは歴史的に重要な絡みがない。片や嘗ての天下五剣ともいわれた皇室御物、片や有能な量産品ともいわれる元太刀だ。歴史に名を残した時期も異なる。一期は元は毛利家所蔵の品だったので出身地は意外に近い、という程度か。だが、こうしてみると中々に見た目としては良い組み合わせではないか――使い魔のキツネの目を通し、無遠慮に眺める。片や王子といっても通りそうな繊細な容姿の青年。片や無骨な男前の青年。ホワイトカラーとブルーカラーという印象の違いさえある。同田貫はここの審神者と仲が良い為、てっきり審神者とくっつくかと思えば。そういえば最近の審神者はずっと長谷部と一緒にいるな、という事を思い出しつつも、会話を聞く。一期は苦笑を浮かべていた。
「申し分かりません、同田貫殿。ウチの弟達は心配性でして」
「おう。お前が弟達を心配していたようにな。つーかどっから漏れたんだか……」
いわれてみると、同田貫の様子がやや疲れているようにも見えた。これはいけない、いつ何があったのか。あとで審神者に聴かなければ。萌え、否仕事の為に。デスクにメモ書きを走らせる。その間にも、一期は擽り笑った。
「しかし、姐さん女房などといわれるとは。鶴丸殿ではありませんが、これは驚きですな」
「……どっから漏れたかはわかったが、俺はあんたをそういう目で見た覚えはねぇぞ」
それは嘘だな、と声で感じる。同田貫は真っ直ぐだ。真っ直ぐな刀だ。だから曲がると直ぐわかる。目線が明後日だ。それに思わず白っぽい目になっていると、一期は更に笑みを深めた。
その笑みは、いつかの刀種変更の頃に見せたものと似ていたとは、こんのすけは知らない。
「おや、それは残念」
「あ」
「どうせなら、貴男を尻に敷きたいものだと思っていましたよ」
「どうせなら、亭主関白だろ」
(……おや)
ここからは、同田貫の目は見えない。しかし、声は戦の時のそれとよく似ていた。楽しそうだ、愉しそうなのだ。それに、「こんのすけ」の目も瞬く。
これは、意外に。――お互いに、背負う矜持というものがあるのだ。彼らには。
「簡単には、譲りませんよ」
「でもあんたは、女房というのは否定しないんだな」
「カカア天下というのも、中々良いモノでしょう」
(イニシアチブを互いに全く譲ってない……)
成る程、どういう切欠かはわからないが、まだ発展途上。その上、まるで鍔迫り合いのような。
微笑む一期に、撓めた背中を揺らす同田貫。他の刀剣男士が入って来たのを切欠に部屋を抜け出る。
今度の薄い本はこれだな。審神者の執務室をめがけて、自身は縁側を駆けだした。
繊細な面差し、そつがない態度。成る程、これは藤四郎の傑作だ。当初はその程度の感想だった。
名と評判に相応しい、無骨な若武者。ひたすら戦を追いかける様はいっそ清々しい。そう思っていた。
何が切欠かはわからないものだ。そんな事を思いながら2人は互いの目的地へと歩み去った。
End.