※この作品はR-18です。

刀剣乱舞SS集(BL・NL・友情主従ごった煮)   作:駒由李

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ホラーよりオカルトというよりS(すこし)F(ふしぎ)。CCP一人称語り、大倶利伽羅主体の家族パロのようなものでホラーっぽいの。CCPと大倶利伽羅が兄弟です。都合上へしさに前提(長谷部:父、審神者:母)。


【とうらぶオカルト】くりちゃんと僕 録【現代パラレル】

堀端の林

 

 くりちゃんが帰ってこない日があった。

 地元には、市の中心部を回る100円バスが走っている。どこから乗っても降りても料金は一律100円の、循環バスだ。主な乗客は市役所やお城、大学病院に赴く人々。くりちゃんも専らそれを利用している。

 そのくりちゃんが、昼過ぎに出掛けたのち、夜になって漸く帰ってきた日があった。我が家の炊事を担当するくりちゃんは、その日は遅くなった事を詫びながらいつも通りに夕食を作ろうとした。疲れた様子ながらもごくいつも通りにエプロンを巻き付けるくりちゃんに、僕は遅くなった理由を尋ねた。

「そんなに混んでいたのかい」

「まぁな」

 鞄を無造作に階段に置き、手を洗うくりちゃん。彼は米櫃を改めながら、ごく変わったところなく答えた。

「それに、バスが降ろしてくれなくてな」

「……犯罪かい」

「さぁな」

 しれっと答えるくりちゃんは、食材を片手に語り出す。

 くりちゃんは用事を済ませたのち、最寄りの100円バスに乗った。この日は冬の早い地元に寒気が訪れ、日が暮れると北風が一層バス停のくりちゃん達を責め立てた。時間も早くなく、バスを待つ乗客は少ない。やがてやってきた100円バスにも、客はほとんどいなかった。その為に楽に座れたという。

 1人用の席に腰掛けたくりちゃんは、鞄を足下に。硬貨を握りながら窓を見た。ガラスから伝わる冷気を、車内の暖房が駆逐する。それに眼を細めながら、くりちゃんは窓からの風景を眺めていた。 城下町の地元。大学病院、市役所を過ぎれば、直ぐそこに国立公園がある。天守閣を囲む公園だ。

 桜の名所のその公園は、ぐるりと堀端に囲まれている。春になれば堀が花弁で埋め尽くし、秋になれば紅葉が目を楽しませる。しかし季節は移ろう頃、漸く色を変えはじめた葉は、ただ夕暮れの陰影を版画のように目に映すだけだった。茜色の夕暮れを、堀端の外の桜と内の松が黒く刻んでいる。

 新鮮な光景だった、とくりちゃんはいう。いわれてみれば、この季節、その時間帯に公園の堀端を見る事はない。花見は昼間か夜桜。秋の紅葉祭りも同様だ。黄昏時の堀端の林は、整備された道路を走るバスのくりちゃんに、冷え冷えとした陰影を映していた。

 気付いたのは、その林の長さの為だった。

 不意に、前を向く。バスは直進していた。真っ直ぐ、向こう。公立の高校のフェンスが見える。その突き当たりを右に曲がれば、あとは一路、駅へ向かう。しかし、突き当たりがいつまでも遠いようだった。 そして、耳を傾ける。車内はやけに静かだった。運転手がハンドルを握る姿だけが見える。

 くりちゃんは困った、と思ったらしい。ただでさえ、この日は珍しく寝坊した。それで予定が押してしまい、帰りは寄り道をする余裕もない時刻となっていた。駅に着いたら早々に家の最寄りに着くバスに乗り換えるつもりなのに、いつまでもいつまでも、バスは直進を続けていた。

 いつまでも続く黄昏。茜色の夕空に、松と桜の木の陰影が刻む姿は冴え冴えと美しい。窓から漂う冷気と、それを打ち消す暖房がくりちゃんに眠気を誘っていたが、いくら何周もする循環バスといえど、くりちゃんは家に帰りたかった。出来れば直ぐに。窓の桟に肘を突き、溜息を吐いた。

 そしてとろとろと目を伏す――少しでも転た寝している間に、駅に着いてくれていればいい。くりちゃんはとうとう眠りそうになったそうだ。

 コトン。

 くりちゃんの意識を引き戻したのは、右手から落ちた100円玉だった。 慌てて顔を起こしたくりちゃん。木製の床に、100円が転がっていた。

 幸い、100円玉は転がっていかずに、くりちゃんの席の傍で鎮座した。それに安堵する。バスが停まってから拾おう――そう思って顔を上げる。くりちゃんは目を瞬いた。バスは、丁度突き当たりに面し、右手に曲がるところだった。バスの中には賑々しさが戻っていた。

 100円を拾って駅でバスを飛び降り、乗り換えのバスに乗ったくりちゃん。彼は一息吐いた先で、ふと携帯電話の時間を見て、目を瞬いたという。 本来なら、せいぜいバスで10分程度の距離。しかし彼がバスに乗り込んだ時より、1時間を過ぎていたという。

「またかぁ」

「まただ」

 話を聞き終えた僕は、溜息を吐いた。くりちゃんも頭を振る。

 くりちゃんが神隠しに遭うのは、珍しくもなんともなかった。「1時間で帰ってこられてよかったね」と、僕は食欲が勝った気持ちをこめて肯くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正夢

 

 食器を洗っていた時、2階の自室がノックされ、開かれた。今は父が出勤中だ、くりちゃんだろう。降りてくる足音もくりちゃんのものだ。階段を下りきった頃に、振り返る。 誰もいなかった。

 ……その後、自室に引き取った僕の元に、くりちゃんが訪ねてきた。昼寝をしていたという彼は、眠そうな目を擦りながら首を傾げる。

「光忠、お前、食器を洗っていたんじゃないのか」

 

 

 

 

 

 

 

 

日常茶飯

 

「おい光忠、服を引っ張るな」

「へ」

 不意にかけられた冤罪に振り向く。風呂から上がった僕は、台所でハンバーグのソースを作っていたくりちゃんを見た。くりちゃんは離れたところにいる僕を見ると、得心した様子で謝った。

「すまん。人違いだった」

 日常茶飯である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話し声

 

 くりちゃんが黄昏時、バスに乗っていた時だという。つまり夕方、帰宅する人々で混雑していたそこで話し声が聞こえてきたそうだ。

「――――」

「――――」

 しかし、その内容はよくわからない。そも、その言語が日本語なのか、外国語なのか、強いどこかの地方の訛りか。

 そのどれとも判然としない為に、声高な男達の話し声は内容がわからなかったという。まぁくりちゃんはあの性格なので、構わずぼんやりとイルミネーションを眺めていたそうだ。くりちゃんが降りるのは、環状線バスのひとまずの終着点の駅前だ。観光地の為色んな人が来るから、気にしても仕方ない事だ。

 そう思いながらバスを降りる頃。乗客は駅より前の大型スーパーなどで降りてしまい、くりちゃんと相席していた客もいつの間にかいなくなっていたそうだ。駅前に着くアナウンスに、運賃を握りしめて立ち上がる。そして、ふと。まだ聞こえていたあの会話に、何気なく振り向いた。

 誰もいなかった。

 ワンコインのバス賃を払いながら、運転手を窺う。最近では珍しくない女性の運転手だったが、彼女はごく普通に挨拶をするだけでくりちゃんを見送ったそうだ。バスを降りながら乗り換えのバス停まで歩きながら、くりちゃんは再びバスを振り返った。やはりバスには誰もいなかった。

「結局、どこの者達だったのか。それだけが気になっているな」

 スーパーで買ってきた食料品を広げるくりちゃんは、そういってこの寒いのに更に冷えさせるような事をいうのだった。

 

 

 

 

 

 

飲み物

 

 くりちゃんがハーブティーを淹れている。とはいっても、きちんと茶葉から淹れるものではなくパックのものだ。元はといえば父さんが呑んでいたものを、くりちゃんも興味を示して呑んでみたのがはじまりだ。だからその光景自体ははじめて見たものではない。ただ、今日は2回目だ。

 くりちゃん自身は、健康や美容などに気を遣っている訳ではなく「味が1番好み」という理由で、ローズヒップティーを飲んでいる。しかしあまりこの辺りでは売っていないので、くりちゃんは「このハーブティーは1日1杯」と決めているようだった。それが2杯目を淹れているから、溢したのかと思った。

 僕が隻眼で見ていると、不思議に思われているのに気付いたらしい。肩を竦めたくりちゃんは「通販でももっと安ければいいんだがな」とぼやきながら、タイマーをセットした。コップに蓋をする。

「部屋に置いていたら、空っぽにされていたんだ」

 そのひと言で察した。猫を飼う家で勝手に茶や水を飲まれる事はよくある。しかし、くりちゃんは部屋に猫は入れない。

 よくある事だ。くりちゃんは部屋に夜間で煮出したお茶のポットを丸ごと持っていく。最初は物ぐさかと思っていたけれど、聴けば「茶が好きなようだ」という。曰く、飲んでいる途中で、まだ数cmは残っていた筈の中身が目を離した隙になくなっている事があるという。

「ハーブティーも好きなようだな」

 最近知った言葉だ。こういうのを「お隣さん」というらしい。人間の「となり」に棲んでいるものを、そう呼ぶそうだ。

 くりちゃんの部屋なら仕方ない。僕は「高いお茶は勘弁して欲しいね」と肯くばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

のろう

 くりちゃんはよく人を呪う。本人は意識してない。そもそもひとりを好んでも、人を嫌う子ではない。でもあれは間違いなく呪いだ。くりちゃん自身が意識していない、呪いの影がいつも彼の足元を彷徨いている。

 母が不治の病に罹ったのは、僕とくりちゃんが母方の実家に預けられて両親が都会に出張がてら旅行に行った時だった。今にして思えば「3人目」を、と思ったのかも知れない。僕達もまだ幼かった。特にくりちゃんは小学校低学年で、そして、祖母は「誠に教育熱心」だった。

 預けられていた時――僕としては馴染んだ家だ――、くりちゃんがひとりでべそを掻いていた事がある。聴けば、祖母はくりちゃんに勉強を教えていたという。朝も早くからたたき起こしたくりちゃんに、自作のかけ算の問題を突きつけた。くりちゃんは算数は得意で、特に単純な計算なら早い方だった。

 それでもその時のくりちゃんは、解けなかったといっていた。手に取るようにわかる。あの祖母ならば、幼い孫に威圧的に接し、パニックを起こさせたのだろう。「どうしてわからないの」と何度も詰られ、進まない鉛筆がその度に震えた様が目に浮かぶ。「本当はわかるんだ、わかるんだ」と泣いていた。

 そんな祖父母の元から解放されたのは年明け、両親が帰ってきた時だ。その時にはくりちゃんは宿題の算数のドリルはとっくに終わらせていたし、くりちゃんが気にしている様子もなかった。4人家族が揃って家に帰り着いた時は、過干渉の祖母の元から離れられてほっとしていた。そして間もなくだった。

 専業主婦で、ごく健康的な生活を送っていた母が、病に倒れた。くりちゃんを学校まで車で迎えに来た日、母はひどく疲れていた様子だったという。母は緊急入院し、父は「なぜ気付かなかった」と詰られたそうだ。妻のこれからの制限された生活では、3人目はおろか生活も困窮するだろう。

 しかしそんな中で、くりちゃんは入院中だった母に会いに行ったのちに呟いた。

「これじゃ、俺らを置いていってでも旅行なんて、もう無理だな」

 その横顔に、なぜか寒気が走った。

 くりちゃんの節目で、何かが起きる。必ず後ろ暗い形でくりちゃんを支える。周りに被害を与える形で。些細な口論から発展してくりちゃんを殴った同級生が、他の同級生を骨折させて「長期の欠席」をする事になった。

 くりちゃんが知人として親しかった女子の事で絡んできたその子の彼氏を自称していた男子が、彼より顔も頭も運動神経も良い彼氏をその子が捕まえて、面目を失った。その後の進路は不明だ。最近だと、母の生前。

 くりちゃんが団欒の場でうっかり膝で踏んでしまった母の足の指がなぜか壊死し、うまく歩けなくなった母を支える事でくりちゃんは家での居場所を得た。くりちゃんが介護の限界を訴えた時、母は死んだ。それから三回忌を過ぎて、くりちゃんの「呪い」が発動しているところは見た事がない。

 くりちゃんは意識はしていないけれど、恐らく気付いてはいる。くりちゃんは何もいわない。ただ、くりちゃんが絡む事で、何かしらが生じてくりちゃんの都合の良いようにする。それが正しい方向に働かない。いつだってマイナスだ。だからこれは呪いだと、僕は認識している。

 屹度口を開けば、くりちゃんの「呪い」はより強いものになる。

 くりちゃんは高校生の時、担任の先生から貰った書類をなくしてしまった。しかしくりちゃんはそれを渡されていないと思いこみ、担任の先生に自分がなくしたのだと思いこませてしまった。あとからその書類が見つかり、ショックを受けていた。

「自分が正しいと思いこんで、それを相手に強いる。これじゃ洗脳だ。祖母と同じやり口じゃないか」

 くりちゃんは担任の先生に謝ったものの、それから余計に口を開かなくなってしまった。くりちゃんは言葉の怖さを誰よりも知っていた。

 くりちゃんは何でも思い通りに出来るのだ。困った事に、これは事実なのだ。これは祖母からの遺伝だ。

 どちらかといえば、その場にいる人間の意思を、自分の言葉で無理矢理統一させるというものに近い。祖母のやり口だった。それは祖母に育てられた僕がよく知っている。だから、くりちゃんは口を開かない。しかし、くりちゃんが口を開かずにいると、「呪い」が付きまとう。

「何でも自分にとって都合の良いようになるのが、怖い」

 くりちゃんは、絶対にこの本音をいわないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉄

 

「妖精さんって鉄が苦手なんだって」

「ああいう手合いは、鉄を通すと正体が露見するからな」

 妙に言い切ったくりちゃん。あまり考えたくないけど、くりちゃんが心霊系に対して機械を通して「やばいかどうか」を判断するのはそういう理由かも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

失せものさがし

 

 警察犬と呼ばれるぐらい、失せものさがしが得意なくりちゃん。探しものを頼むと、必ず本人より先に見つけてくれる。どんな場所からでも拾ってくるのだ。本人は「1度どこかで見たものを脳味噌が覚えているんだろう」といっている。しかし、1回、見た事がある。

 新しく買い換えた抽斗。くりちゃんがいない時に父と買ってきたその中に、くりちゃんが僕のなくしたものを見つけてくれた事がある。その時、くりちゃんの目はピントがずれたような視線を辺りに這わせていた。それを抽斗に合わせると、1度も触れた事のない抽斗の1段目を引っ張ったのだ。

 「あったぞ」と当たり前のようにそれを差し出してくるくりちゃん。既視感を覚えたのは、母も同じだったからだ。くりちゃん程ではなかったけれど、見えない筈の場所から失せものを見つけてくる。そして決まって、2人とも自分のものはさがせないのだ。「自分の背中は世界で1番遠い場所」だからだろう。

「くりちゃん。ちゃんと現世を見て生きてるの」

 夭折した母を想うと、くりちゃんのピントが時折この世にない事があるのでは。時々それが心配になるのだ。

 

 くりちゃんはいつも、変なものを見ては、その度に向こう側に引っ張られているのではと。

 

 

 

 

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