※この作品はR-18です。

刀剣乱舞SS集(BL・NL・友情主従ごった煮)   作:駒由李

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※非公式且つ独自解釈、社会問題に纏わるテーマ、実在の組織・団体・事件とは一切関係ありません 「歴史修正主義者」という言葉の本来の意味と、彼らの撲滅に世界で最も熱を入れているところから来た女審神者の話。地味に引継だけどそれらしいトラウマとか何もありません。単に事実上の初期刀が大和守なぼろぼろ本丸。
▼ゲームを知った時に敵勢力の名称を聴いた時はコーヒー噴きました。とうらぶはじめた切欠でもあります。23世紀だと一体どうなってんだ世界情勢
どうしても書きたくて書きたくて仕方ない話でした。深読みし放題世界観……
▼審神者の先祖に関しては深く考えずに設定してます。この話の設定を考えていた時に姉に「もし密かに他者に感染しない程度にウイルスに感染してたら、女審神者なのにも説得力がつくよね」的な助言を受けて。


リビジョニスト

 つなぎにバンダナ。軍手に作業靴。男らしい出で立ちで、今日は壁の補修に勤しんでいる。今のところ、この本丸には初期刀――前の部隊で正確には彼しか残らなかった――の自身と彼女しかいない。何せこの部隊、城と大和守安定のみを引き継いだ。大和守は顕現して早々に政府に保護されたので、以前の審神者が何をしていたかは知らない。しかし長らく放置されていたのは確実らしい。どこもかしこもぼろぼろで、ひとまず雨露はしのげるというのが初日の事だ。あちゃあ、と頭を押さえる自身の横で、こんのすけが申し訳なさそうだったのを思い出す。曰く、「明け渡し」がぎりぎりで、自分達が来るまでに補修が間に合わなかった。「審神者」が入城した以上、大がかりな工事は出来ない。定期的に土建屋を寄越して少しずつ補修するので、どうにか辛抱して欲しいという。

 しかし、開口一番、彼女はこんのすけに手を差し出した。

『まずは水回りを直そう。それから障子や襖、壁だな。瓦も直さないと。今すぐ道具を取り寄せてくれ。大和守、お前も手伝え』

『えっ』

『えっ』

「……主。主ってT○KI○力高いね」

「T○KI○りょくとはなんだ」

「今の陸軍の軍人って、左官の真似も出来るものなの」

 あれから数日。まだ審神者と刀剣男士として活動していない事と妖精の手伝いもあり、城は見る間にきれいになっていった。自前だという作業着で壁を補修する様はやけに堂に入っていて、とてもではないが、うら若い女性というよりも、工事現場を彷徨いている若い土建屋の青年だ。上背がありしっかりした体格がそれに拍車を掛けている。男らしくペットボトルを呷っては、割れ目を見つける度にコテで土を塗り、障子の滑りが悪ければ塗料を塗る。一方、戦う術しか知らない自身には最初から期待していないらしく、いわれるがままに材料を練ったり、政府から配給されているレーションを並べる日々だ。これも本丸が粗方直るまで――そう思いながらも、大和守は皮肉に思わざるを得ない。あまりの本丸の半壊具合に、手入れ部屋すら機能不全だ。こちらは妖精が積極的に直してくれているものの、それまでは自分は迂闊に戦えない。所謂「チュートリアル」という名の洗礼をこの審神者は受けていないのだ。平たくいえば戦いたい。しかし、「まずは本部を整えるものだろう」と正論で封じられて以来、戦場に出られる日を待ち続けている。尤も、この審神者は軍人だという来歴らしく武骨で精悍な様をしているが、友好的だ。作業を進めながらも、彼女は自身が選んだ初期刀の悪口めいた言葉にも笑って応じる。

「テントを立てたりはするがな。これは趣味と実益だ」

「日曜大工が趣味なの」

「そんなところだな。実家が数百年単位の建物でな。このご時世にあんなでかい建物を維持するのは、一々業者を入れては金がかかる。折を見ては家族総出で補修をするのが小さい頃からの習慣だったんだ」

「……マジで」

「人間が暮らすなら、アパートぐらいの大きさで充分なのにな。あぁ、そろそろ休憩するか。疲れただろう」

「う、うん」

 思ったより、この審神者は良いところの出なのだろうか。なぜそんな人物が軍人などやっているのだろう。疑問に思う大和守は、それでもコテを置いた審神者に促されて、縁側に腰掛ける。幸い電気は通っており、冷蔵庫は機能している。冷やしてきたスポーツドリンクが体に沁みた。そして、自身より僅かに背の高い審神者を見上げる。上目遣いになってしまうのは致し方なかった。

「……あのさ、主」

「なんだ。腹が減ったなら、悪いが今日も政府のレーションだ」

「それはいいけど、主の話、もっと詳しく聞かせてくれないかな。僕が聞かされたの、貴女が陸軍の軍人で、そこから陸戦のプロとして派遣されてきたって事しかまだ知らないんだけど」

 その時、大和守は見た。「陸戦のプロとして派遣されてきた」の辺りで、一瞬、審神者が動きを止めたのを。しかし次の瞬間には何事もなかったかのように、ペットボトルの中身を呷る。工事がしやすいように春の景趣にしているものの、日が差す中で作業をするのはやはり人の身には堪えるらしい。やたらと汗を掻いているように見えた。手拭いで口元を拭った審神者は、「まぁ、間違ってはいないな」と小さく呟いた。彼女はいう。

「そうだな、わざわざ『私』が派遣されてきた理由はいくつかある。元々、政府から要望があったんだ。陸戦のプロというよりも、人間として対歴史修正主義者と戦っている経歴を持つところから、審神者として派遣して欲しい、とな」

「人間は時代を遡れないんじゃないっけ」

 だから特殊な物質で作られた自分達が遡るのだ。しかし、審神者は肩を竦めて苦笑する。

「大和守。『歴史修正主義者』という言葉の由来を知っているか」

「……僕らが倒す敵の事でしょ」

「敵の事は詳しく知っておくべきだ、安定。成る程、私が派遣されてきた訳だ。まぁ他にも人材はいたが、偶々こちらに来るタイミングが合ったのが私だけだったという事だろうが」

 審神者の言葉の意味が掴めず、首を傾げる。

 自分達のいる陸奥国。そこはただの本拠地の名だ。そして敵勢力の名も、刀剣男士として受肉した時から、ただ単に刷り込まれていた。

 歴史修正主義者――文字通り、歴史を変えようとするもの。そして第三勢力として出てきた検非違使。こちらは歴史を遡航する者全てを片付けようとする、前者とは別の危険を持つものだ。

 後者の名前の由来は知っている。昔の警察の事だ。前者の名前は、ただ文字通り、歴史を改変し、自分の都合の良いようにする付喪神の存在だと思っていた――「今度、落ち着いたら公演をしてくれといわれている」。審神者はペットボトルの中身を揺らしながら、春の景趣の中、語り出した。

「最初の『歴史修正』は、100年前に実行されかけたんだ」

「……意外に昔だね」

「技術が完成されるのに時間がかかっただけだ。それよりも問題は、この時の歴史修正を行おうとしたのは、人間だった事だ」

 顔を上げる。審神者の顔は慣れた様子で涼しげだ。

「事件の制圧に当たったのは当時のNATO。各国と連携出来たし、事件自体は技術の未熟さもあって、主犯らの自滅に近い形で終わった」

「なっとー……」

「N・A・T・O。OTANともいうがな。北大西洋条約機構……簡単にいえば加盟国同士で治安を維持する機構ってところだな。この時、殊更熱心に、且つ怒り心頭でこの殲滅に当たったのは、この加盟国のひとつである独逸支部だった」

「独逸なら、ちょっと知ってる。医学が凄いところだよね。……でも、そこがどうして」

 大和守の前半の言葉に軽く笑いながら、ふと、その笑みを消した。

「主犯はネオナチの一派。それも旧ナチズムに限りなく近い連中だった。……ナチスだよ」

「――」

 一瞬、気温が下がったように感じられた。吸う息が冷たい。

 自分達が主役の時代が終わり、世界で戦争が起きた。日本も焦土となり、焼け落ちた刀剣も多いと聞く。

 その日本が同盟を組んでいた国のひとつの首脳は、選民思想に凝り固まっていた。人類史上最悪の戦争犯罪、という言葉も訊いた事がある。殊更それを強調するとは、つまり。

 青ざめた近侍に気付いているのか、審神者はボトルを握ったまま淡々と語る。

「送り込まれた年代は1940年代、第二次世界大戦の頃だ。目的は『総統』の自殺の阻止及び、枢軸国を勝利に導く事――当時、時間遡航技術の第一人者であり、裏では過激なナチズムのシンパだった科学者を取り込み、計画は遂行されかけた。……皮肉にも、彼らの身を以て、人間は時空震に耐えられないという事が証明された。生き残った奴らは、とにかく独逸の人間が熱心に捕まえたそうだよ。何せ、人間は100年やそこらじゃ戦の傷を忘れないよ。二次対戦から150年も経って、漸く信用が回復しかけていたのに、このせいで独逸の信用は再び地に落ちた。まだ科学的に確立されていなかったけれど、時間遡航の悪用に関する刑法はこの時に確立したそうだ。それで、捕らえられた連中は処罰されたそうだ」

「……あれ、それじゃ、未遂で済んだんだよね。それが、何で今……」

「嘗ての第三帝国の幹部にも、追っ手を逃れて寿命を全うした奴がいる。この時の主犯グループにも、数名逃れた連中がいた。ほんの数日のタイムラグだったけれど、世界に取り返しのつかない影響を与えるには充分だった。……イタチの最後ッ屁だ」

 不意に、作業着のポケットからデバイスを取り出す。それを見ていると、審神者がホロのモニターで示したのは、今でも最大手の検索サイトだ。それを示して、彼女は皮肉そうに笑う。

「未完成の技術を、ネットにばらまいたんだ。『自分達は捕らえられてしまった。どうが画面越しの同志よ、または歴史を変えて誰かを救いたいと願いたい者。どうかこの術を利用してくれ!』とな」

「――悪質」

 それは、人が大勢集まる場所に武器をたくさん放置しておくような所業だ。誰かが好き勝手に持っていっても、それを改造して更に凶悪なものにしても、誰にもわからない。表に出て来るまでは。

 空になったボトルの蓋を閉める。審神者は頭を振った。バンダナが揺れる。

「結果として、時間遡航技術は民間や公的機関でも発達せざるを得なくなった。特に取り締まる側がな。これが23世紀現在まで禍根を残した、最初の歴史修正に関わる事件だ」

「……大変な事があったのは、よくわかった」

 思わず唖然とする。ちょっと自分が眠っている間にこんな事があったとは。ボトルを傍らに置く審神者は、デバイスをいじる。そんな彼女に、しかし、と重ねて問うた。

「でも、名前の由来っていうのがわからないんだけど」

「まぁ、日本の刀剣だからな。わからなくても仕方ない。ただ、我々にしてみたら、これ以上なくわかりやすくて直截的な名称なんだ」

 そういって、モニターを拡大する。文字が大きく映し出された。英語からの日本語訳。それを示して、いう。

「この時に摘発されたのは、ネオナチの一派、『リビジョニスト』。『re-vi-sion』……見えているものを変える事。日本語訳すると、『歴史の改変』。『歴史修正主義者』になるんだ」

「――」

「元々は言論的な話だったんだがな。この事件が起きてからは、文字通り、物理的に歴史を修正する奴らの事を示すようになった。……今じゃネオナチの活動はちょび髭の元にゾーリンゲンの連中を行かせる事が有名だな。ただ、それに乗じて更に昔に行こうとする連中も止めなくちゃいけないから、専門部署も設けられたが結局あちこち巻き込んでてんやわんやだ」

「……」

「……日本にも、ゾーリンゲンの連中がはみ出してきたって話が来た。お前の相棒に関わる話らしい」

「!」

 汗がしみたのか、バンダナを解く。審神者の言葉に背筋を伸ばした。

 話は聴いている。本来の初期刀、「沖田総司の刀」として提示されるのは加州清光。嘗て主を共にした仲だ。本丸の修繕を終え、仲間を増やしていけばまた彼に会える。その彼に関わる時代、池田屋の記憶に、日本のものではない敵部隊が入り込んできた。

 隣のくすんだ金髪の女性は、流暢な日本語でバンダナを伸ばす。

「何を企んでいるのかはわからんが、少なくとも幕末で明治維新が起きなければ、日本が戦争に参加する事もなかったという説も聴いている。恐らくそれが狙いだろう。大和守。前の審神者があっという間に去ったのは気の毒だが、陸軍出身の私がNATOからこうして日本に派遣されたからには、しっかり最後まで共に戦おう。これは私の国が起こした災禍が遠因でもあるからな……」

「――そうだね。その前に、早く本丸を直しちゃわないとね。僕は、主が貴女になってよかったよ」

 遙々、独逸からやって来たという軍属の女性。目も髪も肌の色も日本のそれとは違うけれど、ただ、その責任感や誠意だけは、少なくとも信頼できる気がした。

 たとえ自分がいつか、嘗ての主を救いたいと願ってしまっても、この人は引っ張っていてくれるだろう。それが自身にとって幸福か不幸かは、まだわからないけれど。

 拳を固める彼女に、大和守は微笑んだ。

 

 

リビジョニスト

 

 

 

「ところで、さっき日本に来た理由について、ちょっと言い淀んでたよね。何かあったの」

「あー……セクハラを、されてだな。公衆の面前で」

「何、それで主が罰でも食らったの」

「それで相手を思いきり殴り飛ばしてしまったんだ」

「……公衆の面前で」

「ちなみに相手はこっちの政府高官だった」

「わぁ」

「景気よく吹っ飛んで窓ガラスに罅が入っていたな……。マスコミにはちょっとした騒ぎになってな……向こう臑を蹴るだけに済ませておけばよかった」

「…………ひょっとしなくても、ほとぼりが冷めるまで島流し?」

「はっはっはっはっは。さて、壁の補修を再開するか」

「ねぇちょっと」

「瓦も直さないとな」

「ねぇ?!」

 

 

 

 

End.

 

 

 

 

 

 

 

Extra.

 

 

 国を出てきた理由は、良い理由よりも悪い理由が多い。表立っては公衆の面前でセクハラをしてきた高官を殴り飛ばした為に、ほとぼりを冷めるまで情報部から日本へ島流しにされた。

『君には、暫く日本の歴史を守って貰おう。以前から日本政府から要望があったからな。……立ち入った事だが、君の先祖に関わろうとする親戚に関しては、こちらで処理をしておく』

『別に、女しか生まれないウイルスに罹ってた先祖がどうなったって、私の性別が変わるか、もしくは私という存在がいなくなるかのどちらかでしょう。放って置いてくれてもいいんですよ』

『君、それは独逸人としてはいってはならない事だ』

 情報部部長の執務室。ブラインドを見詰める彼女の背後に立ちながら、自身は答えた。

 21世紀前後。当時の直系の先祖が、あるウイルスに感染し、そして200年後、今の自分が生まれた。けれど、本家がこの200年、ずっと「女系」である事を、気にくわない親戚も多い。家族は愛してくれた。親戚は好きになれそうもない。両親は既に亡い。あの広い城で、傍にいるのは執事だけだ。彼女もいつか自分を置いて死ぬのだろう。当時の過激派のフェミニストが作ったウイルスは、他者に感染する事はないが、確実に子孫に呪いを放っている。

 寂しかった。いっそ200年前の先祖がウイルスに感染しないようにしてくれるなら、ひょっとしたら今も両親はいたかも知れない。いっそ、先祖を殺してくれた方が、孤独から解放される気がした。

 今日の状況は、女である事が全ての原因に思えてならなかった。

『……君には、日本で任務を果たして貰う。ゾーリンゲンの面子に関して調査を。あとは現地で日本政府の指示に従ってくれ』

『いっそ日本で死んできた方が』

『少佐。しっかりしたまえ。……また、元の君に戻るのを待っているよ』

 

「主」

「――なんだ、大和守」

「また銃兵がコルト9mmSMGを持ってるんだけど」

「おっとしまった」

「投石兵もスリングショット持ってるし、普通の作ってよ……」

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