▼諸星大二郎先生の「妖怪ハンター」シリーズ「描き損じのある妖怪絵巻」に出てきたお屋敷を貰った結果。
宛がわれた本丸は、やけに古いお屋敷だった。聴けば、築400年。江戸時代からの建築物だという。現世にあった旧家の屋敷を、そのまま本丸として「切り取った」そうだ。
「切り取ったって」
「何せ重要文化財でしたからね。政府が買い取ったといっても、おいそれと勝手に改築したり、ましてや新地にするなど出来なかったそうですから」
歌仙を初期刀に、屋敷の中を案内されながら自身は見回した。ジュウヨウブンカザイ。治安の悪化したこの国では、現在その保存に躍起になっているという。これもその一環なのだろうか――背後で歌仙が「雅だね」と喜んでいる声を聴きながら、自身は着慣れぬ狩衣の裾を捌く。屋敷のところどころに、家紋らしいものが刻まれていたが、今ひとつぴんと来なかった。
大学を卒業したはいいけれど、行き先がなくニートとして生活して5年。病気の母を看病し、その亡きあとは主夫として過ごしていた。先行きは見えなかったけれど、それなりに性にあった生活だった。父の持病が悪化し、医者と治療費の相談をしていた時に、自身に審神者の話を持ちかけられるまでは。
『国立病院だと、そういう下請けまでやってるんですか』
『親御さんの医療費を稼ぐのに手っ取り早いですよ。貴男のお姉さんにはありませんが、貴男には適性があるようですから』
検査結果だというそれを眺めて、自身は母よりは恩義を感じやすい父の為に、看護は姉に任せて出稼ぎに出たのだった。契約金として貰った金だけでも、父の看護を助けるのに十分な額だった事が不幸中の幸いだ。これで在宅勤務とはいえ、姉までが看護のストレスで倒れたら目も当てられない。あとから知った事だが、自身のように身代の為に審神者として「身売り」する者は多いという。世紀末は過ぎたというのに、世も末だ。
閑話休題。修学旅行でも泊まった事のないような豪勢で大きな屋敷に、自身は呆れたものだった。斜め後ろを歩く歌仙などは気負うところがない。これよりも立派な城にいた事があるからだろうが、生憎とこちらはごく普通の田舎の一軒家育ちだ。一応は城下町育ちで、町中にちらほらと残っていた旧家が、丁度こんな作りだった気もする。
無闇に大きな門構え。そこを潜った先には立派な母屋。時折見える部屋の欄間は透かし彫りで、竹に雀が留まっていた。縁側はひたすらに長く、長い事買い物ぐらいにしか外出していなかった元主夫は息切れしそうだ。政府が買い取ったという事は、この家に長い事住んでいた一族がいたという事だろう。さぞ不便だったに違いない。そんな事を思っていると、不意に視界が開く。縁側の扉が開いており、そこから、蔵が見えた。
並ぶ蔵は、6つ。縁側を下りて石畳が縦に並ぶ向こう。立派なものだ。門扉もしっかりと閉ざされており、中はさぞ涼しいだろう。
「米倉です。庄屋でしたからね、食料を貯蔵するスペースはたっぷりありますよ。これから50人は人が増えるでしょうが、その分の食料を蓄えるには十分の筈です」
「庄屋か、道理で立派なはずだ。余程全盛を誇ったんだろうね」
ふと、歌仙の物言いに含みを覚える。振り返ると、見上げる位置で、歌仙が苦笑いをしていた。
「君の時代でもあるだろう。金持ちが弱い者から更に富を巻き上げる事など。これだけ大きな庄屋ならば、そういった事もやっていただろうね」
「ただ一代、そういうご先祖がいたとは、売り手の方から聞いております」
振り返らない、こんのすけの物言いは、遠回しの肯定だ。眉間を顰める。農家を親戚に持つ身としては、中々に面白くない来歴を持つ屋敷のようだ。
「そしてその方からも、これだけは守ってくださいといわれています」
これから住み込みの職場となる場所への悪印象は、やはり振り返らず、しかしやけに強い語調で告げたこんのすけの言葉で決定打となる。
「1番奥。そう、あそこです。あの6番目の蔵。あそこには、決して近付かないように。ましてや、開けてはいけませんよ」
見ると、他の蔵には改修された痕跡がある。しかし、6番目の蔵は、やけに古びていた。
「へぇ、青髭みたいだな」
「お前もそう思うか」
それから1年。順調に刀剣男士は増え、近侍の歌仙に助けられながら部隊の運営は事もなく続けられている。今のところ一振りも犠牲を出していないのは有難い。当初は寂しいばかり、広々としたこの屋敷も、50人近くとなると賑やかさを通り越して騒々しいぐらいだ。恐らく以前の屋敷の持ち主が使っていたであろう近代的な台所もあるが、探せば古い土間や竈もあった。古きを好む歌仙はそちらを、新しいものに慣れ親しむ燭台切は台所を使っている事が多い。自身が慣れているのは近代的な台所の方だが、このところは歌仙の手伝いも出来るようになっていた。何せ男ばかりの所帯だ。一時に何合も炊く羽目になる。手伝いはひとりでも多い方がよかった。
丁度、新しくやってきた鶴丸に、食事の下拵えの準備を手伝わせながら、この本丸での「約束事」について話していたのは夕食前の事だ。馬鈴薯の皮をひたすら剥く。さすがに刃物の扱いには長けている刀剣男士の手つきは危なげがない。芽を取る作業をしていた自身は、味噌汁の下拵えを進めている歌仙の背後で、はたと首を傾げる。
「……というか、青髭を知ってるんだな。お前」
「面白いものは何でも習得しておいたぜ。日本でいえば『鶯の里』のような『見るなの座敷』のような話だろう」
「ちょっと違う気もするけど……まぁ、大体は合ってるな」
大学時代は文学部の日本文学を専攻していた。卒業論文は上代文学をテーマにしたが、同じゼミには、卒論に日本の文学と海外の文学の比較をテーマにしていた学生もいた。ペローの童話もそのひとつだった。
簡単にいえば、6人の妻を殺した男の話だ。ただ、この男の行動は矛盾極まりない。見てはならないといいながら、妻の行動を制限しないのだ。そして好奇心に駆られた最後の妻が見たのは、これまで青髭を生やした男に殺された妻達だった……。
「まぁ、僕達付喪神を扱うような屋敷だ。多少来歴がおかしくても、寧ろ僕達にとっては居心地が良いよ」
「そんなもんか」
どうやら話を聞いていたらしい。歌仙は包丁で野菜を切りながら答える。最初は同じ文系男子といっても取っつきにくいかと思えば、案外付き合いやすい奴だ。最近は大倶利伽羅と何やら揉めたらしいが、最近来た太鼓鐘を含めた伊達組や、小夜がどうにかしてくれるといっているから、放置している。歌仙も敢えて自身には触れないでいて欲しいようだった。戦闘の時はもう少し落ち着いて貰いたいものだが――粗方むき終わった馬鈴薯を籠に入れていると、ふと、歌仙が鶴丸を見遣った。
「そういえば、この前、蔵から面白そうな絵巻を見つけたんだよ。鶴丸、君も見るかい」
「いきなり立つな、鶴丸。……あぁ、そういえばそんなものもあったね。あの妖怪絵巻。今は歌仙が持ってたんだっけ」
「そりゃ面白そうだ。是非見せてくれ」
包丁を片手にいう歌仙に、鶴丸は勢いよく立ち上がった。そのせいで馬鈴薯の皮がこちらに飛んできたので抗議する。そして思い出したのは、先日、人数が増えた事で、食料庫としている蔵を改めて整理していた時の事だ。5番目の蔵の話だ。
崩し字だったが、大学を卒業して久しい自身にもそれなりに読み取れた。その絵巻に描かれていたのは、どうやら妖怪のようだった。
「『百鬼夜行絵巻』にも似てるんだけど、政府に頼んで資料を取り寄せても、聴いた事のない妖怪ばかりなんだよ」
手袋を嵌めてその絵巻を見せる。保存状態は良好。広間で広げて見せるその絵巻には、おどろおどろしい妖怪達が嗤っている。歌仙が横で正座している中、鶴丸は興味深そうに覗き込んでいた。
「妖怪『ますくち』、『たがらし』、『ききんわらひ』……うーん、実にいやげな妖怪達だな」
「『小さな枡だと気を許せば、忽ち大きな枡となって人を飲み込む』……これ以外は詞書きや名前があったりなかったりなんだよね。中には責め絵みたいなのもあるし。値打ち品って訳じゃないみたいだけど、こんのすけ曰く、ここの屋敷は元は庄屋のものだったというから、多分この絵巻の持ち主はその人達だと思うんだよ」
「でも、こんのすけが問い合わせても音沙汰がないんだ。この家を政府に売り渡した家の人間の消息が掴めないらしくてね」
「そりゃ困った話だな。重要文化財だって? それなら管理に金のかかる屋敷は売り払った方が得だろうが、それなら来歴のありそうなこの絵巻を引き取りに来てもよさそうなもんだが」
同様に手袋を嵌めた鶴丸は、絵巻を手に取る。彼が口にした事は、自身や歌仙も思った事だ。今はこの絵巻の来歴だけでも調べて欲しいとこんのすけに依頼しているところだが、彼は妙にこの本丸に関わりたがらない様子だ。今のところ問題は発生していないが、何が彼をそうさせているのかは不明だ。
この屋敷で過ごして1年以上。青髭の轍を踏まず、新入りの刀剣男士が入る度に、奥の蔵には決して入るな・近付くなを徹底している。ただの人間ならば好奇心に駆られて今頃扉を開け放っていたかも知れない。
しかしそれは不可能だ。1度だけ、自身は蔵に近付いた事がある。6番目の蔵の鍵は存在する。しかし、鍵穴は蝋で塞がれていた。
果たして鍵穴を塞いだのが、政府か元の持ち主かはわからないけれど。
「審神者様」
――不意に、広間の外。廊下から声をかけられる。畳廊下の向こう。開け放していたそこから、小さな狐が姿を現していた。
珍しい事だ。こうして彼の方から直接訪ねてくるのは。応じれば、彼はおずおずと、首から提げた「それ」を自身の元へ持ってくる。こんのすけの首から提げられたのは筒のようだ。それを手に取れば、軽い。蓋を開く自身の前で、こんのすけは、なぜか逃げ腰だ。怪訝そうな自分達の前で、こんのすけはいう。
「以前、ご依頼のあった、妖怪絵巻の資料です」
「へぇ、有難う。よく見つけられたね。やっぱりこの家の人から貰ったの」
「いいえ。……あなた方が見ているそれは、原本からの『写し』だそうです。今お渡ししたのは、その原本をコピーしてきたものです」
目を瞬く。それは他の2振りも同様だ。一瞬、言葉が理解できない。
この屋敷に残っていたものは、原本ではなく写し。そして、今、こんのすけが持ってきたものが原本からのコピーであるという。口にしたのは歌仙だ。
「つまり、原本はこの屋敷から流出し、写しがこの屋敷に残っていた、と」
「200年程前、オークションでその原本を手にした方がいらしたそうで。その方からコピーをさせて貰いました。……それと、その絵巻について調べた考古学者の方がいらしたそうで。その論文も持ってきました」
「へぇ? 論文にする程えらいものだったのか」
「……」
奥歯に食べ滓が挟まったような物言いだ。鶴丸がその原本のコピーだというそれを筒から取り出す。それを歌仙が覗き込んでいた。俄に蘇ってきた疑念を、早々に辞そうとするこんのすけの背中に投げかける。
「こんのすけ。お前、何か俺らに隠してないか」
即答しなかった。彼がいったのは、ただひと言。
「……『1番奥の蔵に入らない』。これを守って下されば、あなた方は平和に過ごせるのです。それでいいではありませんか」
「おっ、主。これ見てみろよ。さすがに原本は絵が細かいぜ」
鶴丸に招かれて、一瞬目を逸らす。次に見た時は、こんのすけは既に尻尾を巻いて逃げていた。
そして今、自身は6番目の蔵の前にいる。片手には燭台。蝋燭の火が、にらにらと燃えている。向こうからは他の刀剣男士の声。自身は、偶々ひとりでここに立っていた。もう片方の手には、鍵が握られている。「六」という札が下がった鍵だ。蝋燭の直火に羽虫が近付いては燃え尽きていく。夏も近い時節。奇妙な寒さを覚えながら、自身は、自分に言い訳をしていた。聞こえてくる五虎退の声をBGMに。
五虎退を極の旅に出す矢先。五虎退の虎が、1匹だけいなかった。極になれば、5匹に別たれた分霊は1頭の立派な白虎となるという。その為にも残りの1匹を探さねば――旅立つ為に心細い五虎退は泣いてしまった。それを宥める為に手製の菓子をやってから、一緒に虎を探していた。他の刀剣男士達が、他の米倉を探す中。自身はその蔵の前に立っていた。
米倉に集る鼠を処理するのが、これまでの五虎退の虎の役目だった。演練で知り合った、随分と若い審神者にそのやり方を倣った。しかし、今回はそれが仇となったようだ。この6番目の蔵を1度外周した時、そこに子虎ならば潜り込める程の穴があった事を思い出してしまった。
いる筈がないのだ。自身にそう言い聞かせる。しかし、足は動かない。先日、知ってしまった事実。それを思い出してしまうから。
政府が持ってきた原本。それには、写しには描かれていなかった欄間があった。竹に雀が留まった透かし彫りの絵。妖怪が女性を襲う絵で、それを見咎める男の羽織の家紋には見覚えがある。
この屋敷のところどころに残っている、五枚笹紋だ。
渡された論文。200年程前、この屋敷を取材したという学者のものだとあった。
曰く、この妖怪絵巻は人を妖怪に擬えたものである。当時のこの家の主の所業を、妖怪のものとして、絵の心得があった家人が描き残したという。
そこまではいい。それならば、心当たりがある。写しにはなかった詳しい背景の中、畳廊下や立派な庭、そして広間にある、竹に雀の乗った透かし彫りの欄間――保存されたこの屋敷が、あの絵巻の中身を生々しく脳内で再現していく。だが、そこまでは、よかったのだ。
「……ある訳がない、よな」
ひとりごちる。顎に、冷たい汗が伝った。地面に落ちる。唾を飲み込んだのは、あの妖怪絵巻の絵だ。
資料として渡された論文。当時の当主は、藩に提出された記録では「病死」となっている。しかし、風説がある。
曰く、8代目の当主が、7代目を幽閉した。
「せめて殺してやれよ」
呟く、自身の声は引き攣っていた。蝋燭は異様な速度で溶けていっている。わざわざ懐中電灯ではなく蝋燭にしたのは、「それ」を確かめる為だというのに。
何とか足を踏み出し、石段を登る。蔵の前。鍵穴に、蝋燭の炎を近づける。熱せられた蝋は、こちらの心の準備が整わないうちにどんどん溶けていく。
――閉じこめたのは、この6番目の蔵だ。そういわれている。
『だから入るなっていったのかね』
『骨が野ざらしになってるのかもね』
鶴丸と歌仙が、暢気に話していた。自身はしかし、論文とその2枚の絵巻を照らし合わせ、疑問に思っていた。
絵巻には、どちらも最後に何かを塗り潰した跡がある。反故にしたのならば、絵巻に残す必要はないだろう。それも、写しはただ塗り潰していただけだ。
だが、原本は、格子の絵の上から、墨で塗り潰されていた。
『一説には、1番奥の蔵に座敷牢を作り、そこに閉じこめた』
(その格子が座敷牢の格子だったならば、あの絵は恐らく、7代目の似顔絵だった筈だ。なのに、なぜ塗り潰した)
恐る恐る、冷めた鍵穴に鍵を差し込む。何の差し障りもなく、鍵は開いた。年月を感じさせない程に。
そう、年月があった。8代目が7代目を幽閉し、8代目の弟が絵巻を描いたという。写しは、9代目が描いたとあった。この時代に、コピー機はない。ならば肉筆で写した。それなのに、なぜわざわざ、塗り潰した絵まで写したのか。
死んでいる筈だった。6番目の蔵の座敷牢。9代目はそこで何を見た。
そして400年。なぜ今も、この蔵を開く事を固く禁じた。なぜ、この家の当主だった者は、今になって売り飛ばし、そして姿をくらました。
「……入りますよ」
無意味と知りながら、挨拶をする。言葉が通じる相手ならば、幽閉などされなかっただろう。
そして、血の臭気。僅かに空いた向こうの床穴から漏れる光。その中で、水音が鳴る。格子の向こうに、何かがいる。何かを屠っている――一瞬見えたのは、白い毛皮の小さな体――、ヒトの形をした、何か。
「あ」
燭台の蝋燭が落ちる。転がっていった蝋燭は、格子にぶつかった。格子は木で出来ていた。古くなった格子に、火が、容易に燃え移った。
「何か」が、わらった。
ここの審神者とは、以前話をした事がある。ぼんやりとした、人の好さそうな青年だった。中堅どころの審神者で、審神者になった事情は自身と似たようなものだと知って、親近感を持っていた。向こうも幼い自分を常識的に見て憐れんでいたらしい。会う度に手製の菓子をくれた。実家では主夫をやっていたという彼の菓子作りの腕前は中々だった。
だから、さすがに。ここの審神者「だったもの」を見せつけられたとあっては、冷静ではいられない。思わず口元を覆った自身を、近侍の長谷部が支える。
重要文化財だったというこの本丸の屋敷。保存も兼ねて、空間を切り取り本丸に仕立てたと聞いた。しかし、それは逆効果だったようだ――立派な屋敷はすっかり燃え落ちており、ところどころに破壊された刀剣男士らしき欠片もある。残された刀剣男士は揃って恐慌状態で、肩を寄せ合って他の審神者を拒否する始末だ。自身は他の審神者に呼ばれて、彼らの元へと歩み寄る。
通報があったのは、昨夜の事だという。「6番目の蔵で火事が起きた」。それが意味するところを、正確には自身は知らない。ただ、役人達の顔色の悪さからして、ろくなものではないのは確実だった。政府が無用な隠し立てをして最悪のパターンを招くのは、何度か見た。今回もその極めつけというところだろう。
結局、消防隊は間に合わなかったらしい。否――「水で消せる炎ではなかった」と、役人はいっている。
「……呪いの類か」
「結局、この蔵には何が入っていたんでしょうね」
「ろくでもないものなのは間違いないだろうな」
いいながら、出火元の前に立つ。1番燃えさかったと思われるそこには、土台の上。奇妙に燃え残り、そしてところどころがえぐり取られたような狩衣の男性の遺体。それに、小さな虎の骨。五虎退の虎だろう、他の刀剣男士に囲まれている彼の周りには、遠目にも4匹しかいないようだった。蔵に紛れ込んだまま燃やされたのだろうか。しかし、座敷牢を作っていただろう格子の燃え跡から、様々な事が類推される。走り回る周りの中、自身は刀剣男士達の方へと歩み寄る。彼らとは、何度か自身は面識があった。自身ならば話が出来るだろう、と期待されて呼ばれたらしい。どうやら今回の事件は政府で解決する腹積もりのようだ。マフィアが絡むような事件ならともかく、呪いなどとなれば自身の管轄外だから助かる。そう思いながら、自身がこの本丸の刀剣男士達の前に腰を下ろすと、彼らは怯えた。しかし、自身の顔に見覚えがあったらしい薬研が、虎達を抱きしめてすっかり萎縮していたらしい五虎退に声を掛ける。出来るだけ優しく微笑んで、自身は声を掛けた。
「久し振り、俺だよ。覚えてないかも知れないけど、この前演練で会った筈だけど。……ここの審神者さんにはお世話になって。出来れば、何があったか、政府の人に教えて欲しいんだけど。一体何があったのか」
「……た」
「え?」
「五虎退?」
薬研や厚が怪訝そうにする。俯いていた五虎退に、背後の長谷部からもそんな気配が伝わってきた。自身が耳を傾けると、五虎退は、呟いていた。
「『出られた』って」
「え」
「『出られた』って、いってたんです」
「……誰が」
「『出られた』『出られた』『出られた』って、いってたんです」
「……」
同じ言葉を繰り返す五虎退。不気味そうに見遣る長谷部を制し、自身は、尋ねる。
出られた。ならば、閉じこめられていた何かがいたのだろう。それならば。
「五虎退。じゃあ、その『出られた』って言っていた奴は、一体、どこに行ったのかな」
「とおくへ」
「遠く」
「ひとっ飛びして、本丸を、出て行っちゃいました。あとは、もう」
「……そっか。有難う」
立ち上がり、頭を撫でてやる。そして他の刀剣男士達に手を振り、政府の役人に声を掛ける。ある人物の保護を。
「保護、ですか」
「もう遅いかも知れませんけどね」
頭を掻く。面布が邪魔だった。
数日後。海外で、ある金持ちの日本人の遺体が凄惨な焼死体で見つかったというニュースがテレビで流れた。その名字には事件の資料より聞き覚えがあったが、「遅かったか」というつぶやきしか漏れなかった。犯人の目星はついていないという。ただ、近隣住民の目撃情報で、屋根の上で踊る異形の炎という怪奇現象が起きていたとネットで流れていた。
六番目の蔵
(家族の為に働いた男が、家族に復讐しに行った化けものに■された話)
息子を殺したのは誰だ、と父親はベッドで唸った。役人はただ、首を振る。
そして、その脇に控えていた長女にいった。
「弟さんの代わりに、残された刀剣男士を率いて頂けませんか」
「結局、誰が1番怖いんだろうね」
End.