▼おてあか そういうのもあるのか という事で挑戦しました。心意気はおてあか。でもおてあかっていうかこれからおてあかになる感じ。おてあかがゲシュタルト崩壊
「【刀剣乱舞】刀剣の苦労、主知らず【ショタ審神者+三日月&山姥切】」(https://novel.syosetu.org/85874/2.html)と同じ本丸。雰囲気ブラック政府。
案内された本丸の庭。広がる畑は、あまりにも牧歌的だ。チョウが、ミツバチが飛んでいた。虫を啄むスズメの姿も見える。
「これでも小さい方だ。他の本丸に比べれば」
自身をそうして庭に連れ出したのは、ここの近侍だという三日月宗近だ。名乗られた時に聞き間違いかと思った。だが、やはり、このしっかりと自身を導く彼は、この本丸の審神者の近侍だという。好々爺という雰囲気の青年だと訊いていたが、この落差はなんだろう。しかし、つい先程。ここの第1部隊――愛染達短刀に連れてこられてから、何とはなしに、察していた。この本丸の空気は、仄暗い。原因はまだ、わからないが。最後に会わせてくれるという審神者を、しっかりと観察しておこうと思った――ここには、自分の兄弟達がいるのだ。そう考えながら、畑を見渡す。キュウリ、ナス、ピーマン、ニンジン、ジャガイモ、トマト。列を成しており、向こうでは麦わら帽子を被った誰かの姿が見えた。
そしてその傍らに、プチトマトとアサガオ。それにヒマワリが植えられている一角があった。ここだけが、他の内番と区画されていると、憂いを帯びた目元の三日月はいう。
「これは、主の農園だ」
「……農園、いうには、ちっこいですな」
「主が通っている筈の小学校とやらでは、植物を育てるのも教育の一環らしい。山姥切のが、種を調達してきたのだ。今度は短刀男士達と一緒に、ヘチマやカボチャの畑も作るといっていた」
「へぇ」
そのひと言で済ませておく。しかし、内心では、大きく驚いていた。ここの主は、どうやら相当に幼いようだ。頭の中で、「記録」を探る。自分が、ここの刀剣男士として着任した時、他の分霊からフィードバックされたものが多少なりとも存在した。そしてその中で、幼い審神者というのは、大概、大人のろくでもない思惑が働いている。卑屈だという山姥切国広が教育に動いているとは、それだけ火急の事態を知らせてきた。
(これは、大儀そうやな)
嘆息する。微笑ましい農園は、戦場と立ち向かう本丸の畑には、不釣り合いだった。面倒な事になりそうだ。せめて早く、顔見知りと仲良くしておきたかった。内情を知らねばなるまい。そう思って、次の場所へと連れて行こうとする三日月に話しかける。
「なぁ、三日月さん。ここに国俊と蛍がいるのはわかったわ」
「もう会ったものなぁ」
愛染に手を引っ張られて連れてこられた時、玄関には愛しい幼子の姿があった。飛びつかれ、うっかり初っ端から手入れ部屋に行く羽目になるところだったが。自身は振り返って、鷹揚に微笑む彼に重ねて尋ねた。
帰投する道中、愛染には訊いていた。本丸では、自分達来派以外にも、自身について言及した刀剣男士がいたと。
「それと、あと、義助の槍の方はいらっしゃるそうで」
「義助の槍」
「御手杵さんといった方がよろしいでっしゃろか。あの人がおると訊いとったんですが……」
反復され、嘗ての呼び名から本名へとシフトチェンジする。結城にいた頃は、互いにあだ名で呼んでいた時期が長かったものだ――感慨に耽りかけたところで、三日月は笑んだ。そして、自身の頭の向こうに声を掛ける。
「御手杵、内番、精が出るな。今日の収穫はどうだ」
「ナスが結構取れたから、天ぷらなんかいいんじゃないか。甘辛焼きとかでも」
振り返る。見れば、ジャージに長靴、麦わら帽子に手拭い。軍手を嵌めた手で額を拭う、長身の青年が立っている。
それに面影を見て、三日月の言葉で、自身は声を上げた。
「……手杵さん、随分ラフになりましたなぁ」
「お、もしかして国行か。久し振りだなー。来てくれて嬉しいぞ」
機嫌良く笑う好青年。その笑顔だけは変わらないと、駆けてくる被保護者達の声を耳にしながら半笑いした。
比企の御手杵、天下三名槍で最も旧い槍。結城を共にした彼は、重荷を振り払ったように随分身軽な装いになっていた。
「詐欺やわぁ」
「それ、何度目だよ国行」
「確かに御手杵は、すっごい現代人っぽいけどさ。国行だって大分だるだるだよ」
「あんたら仲良いなー」
知己ならばよかった。御手杵に面倒を見て貰え。食えない笑みを浮かべ、三日月に仕事を投げられた御手杵は、それでも自身の面倒は見てくれる気があったらしい。畑の収穫を済ませると、自身と集まってきた蛍丸や愛染を連れ、部屋のひとつらしいそこで茶と共に本丸の絵図面を示した。茶菓子は蛍丸達がどこからか持ってきて勝手に並べては食べている。説明の最中に横合いから食べ滓混じりに指摘されながらも、30分もした頃には、自身は御手杵及び弟分達からの説明で、この城での行動の仕方を学んでいた。そして一服、茶を飲んでから、対面する旧知を眺めてしみじみと呟いたのだった。初秋、日差しは強かったものの、吹いてくる風は涼しい。その涼風が似合う爽やかさは相変わらずだった。けれど、と自身はもの申したい。宛がわれた湯飲みを片手に、胡乱に御手杵を見上げるのだった。
結城家にいた頃は、もう少し取っつきにくかったものだ。気質よりも、あれは纏う雰囲気のせいだっただろう。
「せやかて、雪降らし、比企の御手杵、首刺してけの義助の槍って、もっと気迫があったやないか」
「最後のはちょっと覚えがないぞ」
「へー御手杵ってそんなに凄かったんだ」
「ウチの中では気楽な兄ちゃんって感じだぞ」
こぶしを握る自身に、御手杵のツッコミは飽くまで冷静だ。そして弟分達の言葉こそ、自身には信じられない。嘆息した。
「そらもう、立派な槍やったで。今でも本体は同じやろに、なんで付喪神の自分、そんなに所帯染みてしまったんや……」
大名が、わざわざ発注して作らせた、象徴の為の槍。威風堂々たる、旗と同じだ。それでいながら、作りは立派に人を殺せるもの。自身が出逢った頃には「相当丸くなった」、とは、当時結城家に所蔵されていた他の付喪神達の談だ。今でも、はじめて会った日の事を思い出せる。落ち着いた佇まいに、口元に刷く笑みは太い。単座する付喪神に、思わず声を失ったものだった……想い出は美しい。嘆く自身を物珍しそうに見遣る弟達に対し、御手杵は絵図面を手にしながら、笑うばかりだ。
「今の方が身軽でいいけどな」
「かもしぃひんけど」
「それに、あんたは変わらないな」
そういって、御手杵は自身の膝の脇を見る。自身の本体だ。来たばかりで安定していないゆえに持ち歩いているそれと、そして自身を見て、御手杵は懐かしそうに眼を細める。その顔には、見覚えがあった。
「変わってなくて、嬉しい。やっぱりあんたの事は好きだな」
「……っん、んん、おおきに」
口元につけかえた湯飲みを揺らす。その程度には動揺した。不意打ちである。何を考えているのか、弟達の視線を浴びながら、御手杵は悪びれもせずに絵図面を片付けて立ち上がる。
「ところで三日月爺さんは、あんたを主に紹介してないよな。俺が今連れて行くから、蛍丸と愛染は遠慮してくれ」
「はーい」
「国行ー、まんばには冗談が通じないからなー」
湯飲みを置き、部屋を辞す御手杵についていく。先程の言葉をまだ飲み込みきれていない。
畑に近いせいか、ミツバチが滑空している。目の前を横切っていったそれの前に、御手杵の背中があった。そういえば、立ち上がったところははじめて見たかも知れない。結城家の頃を思い出す。
そんな事、ひと言もいわなかったじゃないか。
「来派の連中とは、あんたの事は話してたけど」
「そうなん……」
――審神者と引き合わされた後。ひとまず、支給された布団を運ぶ。敷き布団と枕は自身が、掛け布団は先導する御手杵が持ってくれている。振り返らない御手杵は、弟達の待っている部屋へと案内してくれている。その背中を凝視しながら、自身は本丸の廊下を歩いていた。既に他の刀剣男士とも顔を合わせていたが、彼らの顔や名前よりも、御手杵の言葉が思い出されて仕方ない。睨め付けたくもなった。前を歩く御手杵は、飄々と語る。
「蛍丸や愛染とは面識なかったけど、国行とは会った事があるって。あんた、そういえば、結城にいた頃も、口にするのは弟達の事だったな」
「……あの頃のあんたは、今より気迫があったからなぁ。緊張してたんやろ」
細かい事を覚えているものだ。付喪神の執念深さを思い知らされる。自身も同じ存在の筈だが、ここまで細かく覚えているだろうか。結城家の御手杵について思い出すのは、ただただ、あの威容だけだ。
それが随分と身近になった上に、気軽に、しかも唐突に好意を口にするような輩になったのだから堪ったものではない。頭の中の落差を必死で埋めている最中も、御手杵はいう。
「緊張かぁ。そんなに近寄りがたかった覚えはないぞ」
「意識してなかったんかい……」
「どっちかっていうと、あんたみたいに身軽できれいな刀に憧れたな。俺は昔から、刺す事しか出来なかったし」
「……ほんま、あんた、変わったわ」
半ば呆れて、長い廊下を歩く。こんな槍だっただろうか。昔を思い出す。
もっと、落ち着いた雰囲気だった気がした。それが良いか悪いかは、わからないけれども。
「あんた、あの頃に比べると、なんや浮かれとるわ」
「浮かれてるかぁ。活き活きしてるとはいわれたな、物吉とかに」
家康公の愛刀の名を出して、御手杵は笑う。いわれてみれば、活き活き、といえるかも知れないと思う。しかし、それなりの時間を共にした自身にとっては、今の彼は、羽根がついたようだった。あの重い鞘を碇にした、重厚な雰囲気を纏っていた嘗ての御手杵。普通の槍より遙かに大きな体を持った彼に、武器として好意を持たれているのは気付いていた。しかし今日のように、あんなにあっさり口にはしなかった。
あまりに久方ぶりの再会。それが嫌だとは思えない自分もいるけれど。
「……どっちにしろ、主には悪いな。それなら」
「――あの坊ちゃんに、手杵さんは忠誠誓ってはりますの」
片手で頭を掻く御手杵に、それは寧ろ困惑の問いかけだった。嘲りなどはない。ただ、戸惑いだった。
想定した通り。自身を主とした審神者は、幼かった。しかし、それは予想以上だった。10才にも満たない、痛々しい程に幼い子供だ。霊力が一人前以上に高いのが、余計に哀れだ。傍に控えていたこんのすけの存在が、悪い意味で強い。庇うように座る三日月は、明らかにあの「使い魔」を敵視していた。
面倒な事態だ。この本丸は、恐らく現行政府の最も黒い部分のひとつに属している。こんな面倒な部隊で、あの主を哀れに思い、彼を守る為に戦う事は考えられた。しかし、忠誠とそれとは異なった。敢えていうなら、自身が蛍丸や愛染に抱いている感情だろう。
「忠誠とは、ちょっと違うな。守る為だ」
予想通りの答え。しかし、返ってくる言葉は、不穏な色を纏っている。
「今の主の事は、結構気に入ってるんだよ。だから、まんばや三日月を手伝って、守ってやりたいって思ってる。……だから、この本丸にいる時だって、戦場に身を置いてる時と気分は変わらない」
「……堪らんのちゃう」
「だから、主には悪いっていってるんだ」
御手杵は振り返らない。
「俺は所詮、武器だからな。戦う機会は、多い方が嬉しいんだよ。屹度、あの主についていれば、今の敵がいなくなっても戦う事がある」
振り返らない御手杵を、見詰めた。言葉の意味を理解したからだ。
――自分達刀剣男士は、歴史修正主義者や検非違使を滅ぼせば、それで役目を終えるのではないか。
しかし、あの審神者の事を思い出す。幼子だ。幼子の審神者は、大概がろくな思惑で審神者をやらされていない。自分の主となったあの子供は、その最たるものだろう。戦がはじまって、意識の上では1年以上が経つ。あの子供は、どれほど長く拘束されているのだろう。
「主を飼い殺しにしたい連中がいる」
低く呟いた。その声を拾い、息を飲む。
「正直、主が、人の世の幸福から置き去りにされているってのは、俺の感覚だとよくわかんねえ。でも、まんばや三日月は、主を現世に帰してやりたいといってた。『その時』の為に戦える時が来る。……俺が浮かれてるとしたら、確実にその事だろうな。真に主の為に戦えるのが、ハチがいなくなってから4年後だっていうんなら」
「ハチ」
「畑を作る時に、まんばが拾ってきた言葉だ。昔の偉い学者がいってたんだってさ」
呆然と立ちつくした自身に、御手杵は振り返った。それが、あの頃と変わらぬ笑顔だったから、自身はそれを見てすくむしかないのだ。
「物事には段階があるって事だって。なぁ、国行。俺は戦う事にした。あんたはどうする」
彼はいった。互いに布団を抱えているのが間が抜けていると、頭のどこかで思った。
「怠けたいにしても、もしあんたが、今俺が言った事を他に漏らすんなら、俺はあんたをどうにかしなくちゃいけない。それは覚えておいてくれよ」
「……訂正するわ」
自身は答えの代わりに、何とか笑顔を作った。
「自分、変わっとらん。相変わらずの戦いたがりや」
そこを畏怖していたのは昔からだ。自身の言葉に、御手杵はさも不思議そうにいった。
「昔もいっただろ。『武器が戦いたいのは当然だ』って」
自身とあまりに対照的な彼は、身軽になって尚、変わっていない。それに気づき、面倒に関わったと思いながらも、嬉しさを覚えていた。
御手杵は、変わっていないのだ。今も、昔も。その姿を変えて尚。布団を抱えたまま、ひとまずは忠誠よりも、その穏やかな狂奔に肯く事にしたのだ。御手杵は、嬉しそうに笑った。戦闘狂の笑顔は、きらいではなかった。
ハチがいなくなる4年後に
(いつか全てを終えて、主の為に刃を振るう。その背中に、御手杵がいるだろう)
End.