▼う/ど/ん/ミュに続く虎/徹ミュで笑いました(続/花/丸)
pixivより転載
審神者会議にて。
和泉守の言葉に、堀川と審神者が振り返る。
「お、赤ん坊だ」
「あぁ、本当だね」
2振りとひとりが見遣る。少し遠目に、別の審神者と話している女性がいた。和服、できれば狩衣が標準服の審神者においては珍しい、カジュアルな洋服の審神者だ。見れば赤ん坊は生まれて数ヶ月と経っていないだろう。赤子の相手をするならば育児に特化した23世紀の衣服が適しているに決まっている。和装が多数を占める中でその姿は目立っていたが、それより腕の中の赤ん坊に眼を細める刀剣男士が目立った。自分たちも何気なくその姿を目で追っていると、小用でも思いついたのか、その審神者は近侍に赤子を預けた。そして席を外す。感心なことに、赤子は母親の手を離れても泣きもせず大人しいものだ。じっと近侍の顔を見詰め返している。近侍も慣れた様子で体を揺らしていた。
その様を眺めていた2振りとひとり。そのうち問題発言をしたのは打刀の方だった。
「そういや主はまだ20才だっけ? でもいつかは結婚して子ども作るんだろ。男がいい女がいい。あの赤ん坊は桃色の産着を着てるから女みてぇだけど」
「ちょっと兼さん! 今はそういう話はせくはらになるんだよ!」
「おっそうか、悪いな主。気に障ったか」
「ああうん、文句を吐ける前に堀川が怒ってくれたから別にいいよ」
苦笑する審神者に、和泉守もやや恐縮した様子を見せる。それに堀川は腰に手を当てながら溜息を吐いた。いくら刀剣男士の中の最年少といえど、時代感覚の違いは300年はずれている。刀としてふるわれていた往時が幕末だから致し方ないといえばそうなのだが。それに堀川が溜息を吐いていると、ソフトドリンクの注がれたグラスを傾けた審神者が呟く。
「……和泉守の質問の答えになるけど、私は子どもを持つ気はないよ」
「へぇ。まぁ今は色んな考えの奴がいるもんな」
和泉守は肯いたが、堀川はその影でひっそりと目を瞠った。
堀川の聴覚は、小さく「もう」と付け加えた審神者の声を拾ったのだ。
途端、壇上でマイクを持った狐面の男性が告げる。
「皆さん『見習い出身審神者会議』、楽しまれているでしょうか」
先程の赤子は、抱えていた近侍と同じ髪の色をしていた。
「主ってよぉ、今日の『見習い出身審神者会議』に出たんだから、見習い期間のことを隠したがってるって訳じゃねぇよな」
「それはないんじゃないかな」
「たしか審神者免状をもらって5年ブランクを経てうちの本丸に着任したんだろ。そのブランクに何があったのかって話だよな」
戦装束から内番着に着替える。これからそれぞれ畑当番と馬当番があるからだ。そもそも、本来審神者会議に付き添うのは刀剣一振りのみだが、和泉守が審神者会議というものに興味を示したために、どちらかといえば和泉守の随伴としてこの日の審神者会議に出席した。特にトラブルもなかったから堀川はないしんでよしとする。しかし和泉守の言葉に、会場で引っ掛かった言葉が浮上してくるのを感じた。和泉守は脱いだ服を衣紋掛けにかけながらいう。彼はふと疑問に思ったことをつらつらと口にしているだけだろう。堀川はそれがわかったので聞き流しながら相槌を打つ。
「でも結局、今日もろくに話そうとしなかったよな。余所の審神者とはただお喋りしてただけだし」
「平和だったね」
「別に隠してる訳じゃねぇんなら、話してくれたっていいと思うんだけどよ。国広はどう思う」
「そうだね。でも」
ジャージに袖を通しながら、堀川は答えた。
「主さんが話したくなったときでいいんじゃないかな」
にこりと笑った。
懐かしい話をした。
寝室に堀川が訪ねてきたのは、そろそろ寝ようかと寝床を準備していたときだった。
「主さん、寝酒はいかがですか」
「寝酒か」
確認ののち障子を開いてきた堀川が持っていたのは、盆。それには酒瓶と水差し、それにグラスが2つとマドラー。寝間着に着替えていた審神者も、酒を見て寄ってくる。堀川は酒瓶のラベルを見せた。梅酒とある。
「主さんは20才になったばかりですけど、果実酒なら飲みやすいでしょう」
「いつ買ったのこんなの」
「日本号さんが酒を買うついでに頼んでもらいました」
「あいつは休肝日というものを設けた方がいい気がするんだけど」
「僕ら刀剣男士の体の内臓機能って低下するんですかね。それより今夜は良い月ですよ」
そういって、盆を縁側に置いた堀川は障子を大きく開く。果たして、空には満ちた月が浮かんでいた。それを見た審神者が、膝で躙り寄ってくる。
「ほうほう、月見酒と洒落込みたい訳だ。それで、堀川」
堀川はグラスに梅酒を少し注ぐ。それに水差しの水を注いで攪拌した。それを、縁側に躙り寄ってきた審神者に突きだした。審神者はそれを受け取って薄く笑う。
「私を酔わせてどうする気かな」
「お酒で口が滑りませんか」
自身は原酒をそのまま注ぐ。そして縁側に腰掛けた審神者の横に座ると、グラスを合わせながらいった。
「酒の肴にでも、主さんの昔話をお願いしたいんです。昼間は聞けませんでしたからね」
「……」
審神者は微笑んでいる。グラスを握ったまま。
「昼間、主さんは結婚云々を飛ばして、子供を持つ気はない……『もう』っていってましたよね。それが気になって」
「……堀川は耳が良いなぁ。本当に小声のつもりだったのに」
「それで、兼さんとも話したんですよ。気になるなって。……主さんがいやならただの月見酒でいいし、兼さんにも話しませんよ」
いっている言葉は淡々としている。堀川はグラスを呷った。それを見て、審神者もグラスを呷る。水割りといえどグラスの中身は半分に減った。審神者の目が月を映す。彼女はいった。
「そうだね。堀川にならいってもいいかな。特に秘密にしてた訳じゃないし」
一拍おいて、呟いた。
「ただ、喋りたくなかっただけだから。今から、お酒で口が滑ったから話すことだよ」
「どうぞ」
「……昔々、といっても5年ぐらい前。健康診断で政府に審神者の適性を見出された女の子がいました。ところが保護者からの反発があり、直ぐに本丸に着任ではなく、ひとまずある本丸に見習いとして通うことになりました」
「……」
「とはいっても、学校帰りにその本丸に寝泊まりして必要なことを習う、といった形だったから、どうしても時間はかかりました。幸い、その本丸の審神者さんや刀剣はいい人ばかりで、心穏やかに過ごせるはずでした」
「……」
不意に、審神者の顔が俯く。
「ふと、その中の刀剣の一振りと、過ちを犯すまでは」
「……それは、誰だったんですか」
「さぁ?」
顔を向ける審神者は、戯けたようで泣きそうに見えた。少なくとも、堀川の目には。
「それは、女の子は黙して語りませんでした。数ヶ月の研修が終わる頃、その刀剣男士が出陣先で破壊され、急報を聞いてショックを受け、流産するまでは」
「――……」
「当然、本丸は大騒ぎになりました。女の子は当時中学生。昔ならともかく、若すぎた。研修を終えて審神者免状は渡されたし、当の相手が生きていれば彼を連れて行くこともあり得たかも知れないけど、それはもうifの話」
「……」
「ただ、女の子は疲れてしまいました。師匠の審神者と、他の刀剣男士の優しさも。……政府もその報告を受けて、その女の子をすぐに本丸に着任させることを躊躇いました。それで、5年。……5年の月日が必要だった」
「……それで、女の子はどうなったんですか」
恐る恐ると聞く。月が虚ろに明るい。光を浴びながら、審神者は残り半分の酒を呷った。
「どうもしないよ。今は元気に本丸で審神者をやっている。忙しいけど、満たされている日々だよ。ただ」
グラスを置いた。審神者の目は、庭の池の方に向いていた。
「もう、恋愛も出産も、それにどうしても纏わる結婚さえしたくない。そう思っているよ」
そう答える審神者の目は遠い。堀川は、それを見て自分もグラスを置いた。まだ半分も空けていない。それでも置かずにはいられなかった。
そして、審神者の手を取った。彼女はこちらを見た。堀川は真摯に彼女を見詰める。
「僕じゃ、駄目ですか」
瞬間、彼女は泣きそうな顔をした。
けれどそれはほんの一瞬。穏やかな微笑みを作って見せると、審神者はそっと堀川の手を外した。
「堀川。今のはね、昔話」
「……」
「5年前に色々あったけど、今は忙しくても満たされている日々。だから」
外した手を、僅かに握った。
「だから、これ以上はもう、いいんだよ」
審神者の顔は、穏やかな笑みを浮かべたままだった。
酒の肴に過ぎない話
「年上の女を口説きたい? 主は私らより遙かに年下だろ」
「実年齢じゃなくて精神年齢の話だよ……」
「まーとりあえず飲みなって! この余った酒、良い梅酒じゃないか!」
了