※この作品はR-18です。

刀剣乱舞SS集(BL・NL・友情主従ごった煮)   作:駒由李

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審神者の前のお仕事の話
pixivからの転載


【山姥切+男審神者】※誤記ではありません

 ただの疑問だった。

「主。あんたはいつもは素顔なのに、会議や政府への出向のときは面布をしているな」

 それは審神者会議から帰ってきたあとのことだ。執務室。つけていた面布を外した審神者に、山姥切は何気なく尋ねた。ただの純粋な疑問だったのだ。

「なんで外で顔を隠すんだ。よく、俺たちの前でも顔を隠すという審神者の話は聞くが」

「別に俺みたいなのは珍しくないと思うけど」

 そう言ってから、審神者は面布を片付ける。

「まぁ俺の場合は女優やってたから、面が割れてるんだよね。審神者やってるってあまり知られたくないんだよ」

「へぇ、そうなのか」

「それじゃ俺、トイレに行ってくる。まんばも御苦労様」

 そう言って、審神者は執務室を出て行った。山姥切も、今日の務めは終わったものとして自室に引き取ろうと思った。そして、それから、審神者の言葉を反芻し――気付く。

「……『女』優?」

 審神者の性別は男だったはずだ。

 

 

(どういうことだ……?)

 山姥切は縁側を歩きながら首を傾げる。先程の審神者の言葉についてだ。

『女優やってたから』

 大浴場で一緒に風呂に入ったこともある。審神者の性別は男だ。だから彼は混乱する。布をかぶった頭を抱えながら歩いていた。庭では短刀男士たちがはしゃいでいる。

 男性・女性の役者の双方を「俳優」と呼ぶことはある。しかし、女優と限定されればそれは女性の俳優のことだ。尚のこと山姥切は困惑する。まさか魚のように性別が変化した訳ではあるまい。一応は人間のはずだ。

(まさか手術で男に……? 今はほぼ完全に自由に性転換手術が受けられると聞くが)

 審神者は若い。確か20才そこそこのはずだ。山姥切の知識だと、そういった手術は男性から女性に施行する場合は早ければ早いほど良いと聞く。しかし審神者の場合は逆だ。その場合はどうなるのだろう。山姥切の思考は混迷の一途を辿っていた。

『犯人は山口さん。あなたです』

 不意に、脳に声が届く。

 山姥切は、そちらを向いた。見れば、縁側に面したとある一室。籠手切、堀川、物吉など――脇差男士らがTVに向かって座っていた。彼らの周りにはディスクのケースが散らばっている。山姥切は首を傾げながらその部屋に入った。1番手前にいた堀川に話しかける。

「何を観ているんだ」

「あ、兄弟。今良いところだからちょっと……」

「『女子高生探偵巽屋れいなの事件簿』ですよ」

 画面を見ていた堀川の、代わりに答えたのは籠手切だ。「僕は何度も観ているので」と彼は言う。彼の手には空のDVDケースが握られていた。それには先程彼が口頭で答えたものと同じタイトルが付されている。TV画面では、見るとセーラー服を着た少女と思しき人物が、人々に囲まれながら中年男性と対峙している。男性は見るからに狼狽えていた。達者な演技の役者らしい。山姥切はそれを見ながらも思ったままに口にする。

「随分色物のタイトルのドラマだな」

「それがですね、意外に本格派なんですよ。一見ラノベか漫画が原作っぽいタイトルですけど、名作刑事ドラマ『片棒』の映画版から派生したドラマですし。脚本が良いんです。俳優陣も豪華ですし、起用されてるジョニーズのアイドルも光る演技を見せてくれるんです」

 それを聴いて山姥切はなるほど、と納得する。籠手切は歌って踊れる付喪神を目指しているという。ジョニーズといえば200年の伝統を持つアイドル事務所だ。そこのアイドルが出演しているドラマとなれば、恐らくこのDVDの所有者は彼だろう。俳優として活動するアイドルの動きも見たいに違いない。鯰尾がポテトチップスを頬張りながら「犯人こいつだったんだなー」「予想外だ」と骨喰と会話を交わしている。にっかりも彼らに肯いていた。籠手切は視線はTV画面を見つめたまま、残念そうに肩を竦める。

「ただ、残念なのは主演女優が入れ替わっちゃったことですね。今の2代目もなかなか好演はしてくれてるんですけど。今は女子大生探偵で」

「舞台を降りたのか」

「ええ。引退しちゃったんですよ、初代は」

 山姥切は籠手切に釣られるようにTVを観る。

 そして気付いた。言葉が出なかった。籠手切はそれに気付かない。

「そんな年じゃなかったのに。20歳で女優をやめちゃったんです。理由は一切不明で、引退後の動向も全然知れてないんですよ。他のドラマでも良い演技してた女優だったんですけどね」

 どうして皆、気付かないのか。きっと化粧をしているせいだろう。しかし、初期刀として、3年間連れ添ってきた山姥切には、わかる。

 審神者だ。審神者が、女優としてTV画面で動いていた。

 

「あぁ、懐かしいな。籠手切、DVD持ってたんだ」

 その日の夜。山姥切は執務室を訪ねてその日の昼に観たことをつらつらと報告した。すると審神者は、さも当然のように答える。手にはペンが握られている。彼は書類仕事を片付けていた。その傍らで彼は山姥切の疑問に答える。

「元はといえば、勿論男優希望だったんだよ。というか男が男優をやるのは当たり前というか常識だろ。でも事務所が『ちょっと女優やってみない?』って……そしたら世間に受けちゃって。そのままずるずる高校卒業しても『女優』続ける羽目になって」

 審神者は溜息を吐く。

「でも成人過ぎたらいくらなんでも女優を演じ続けるのはきつい。そう思ってた矢先に、政府から声がかかってね。『審神者の適性がある』って。だから切りの良いハタチで引退して審神者になったって訳。事務所にも愛想が尽きてたしね」

「……でも、ドラマのあんた、活き活きしてたぞ」

 山姥切は呟く。あのあと、DVDを一気に視聴していた脇差男士の仲間に入ってドラマを観た。籠手切の言う通り、脚本は面白かったし、山姥切は詳しくはないが俳優陣は演技が達者だった。ジョニーズのアイドルだという青年も良い演技をしていたと思う。何より、主演女優が好演していた――画面越しの笑顔は本物に見えた。少なくとも、3年間寄り添い続けた審神者の笑顔と変わらないように思えた。

 それに、審神者は苦笑する。

「そうだね。いくら事務所がアレでも、お芝居は好きだったから。ただ、『私』はハタチ以上は生きられなかった。それだけだよ」

 寂しそうな笑顔だ。山姥切はそう思った。そこで気付く。

 ドラマの中で、「彼女」は良い笑顔を見せていた。そして山姥切は、3年間連れ添ってきて、「彼」の笑顔を見てきた。それは、ほぼ同一のもので。

 山姥切は尋ねた。

「主。女優をやってた頃、楽しかったんだな」

「うん、そうだね。性別がばれないように大変だったけど、それでもやり甲斐はあったよ」

「じゃあ、今も楽しいんだな」

「え?」

「笑顔が同じだ」

 目を瞬く審神者に、山姥切は言った。

「せめて、今あんたが生きるのがつらくないんなら、俺はそれでよかったと思う」

 すると、審神者は微笑んだ。今度は先程より。寂しさは薄らいでいた。

「……そうだね。戦いだからそりゃ大変なこともあるけど、でもみんなと過ごすのは、楽しいよ」

「なら、よかった。俺はそれが確認したかった」

 山姥切は微笑んだ。審神者は目を疑った。たしかに山姥切は、薄らとだがたしかに微笑んだのだった。

 

 

「お芝居をやりたい?」

 乱の言葉を反芻する。それはある日のこと。執務室にて書類に向かっていた審神者に、やって来た乱がそんなことを言い出した。手には既に脚本と思しき冊子が握られている。乱はにこにこと笑って言った。

「この前ね、籠手切さんたちが観てたドラマを見せてもらってね。推理ものかっこいいねー犯人を突き止めるのかっこいいね僕たちもやりたい! ってことで推理もののお芝居をやりたいなってことになったんだ」

「お芝居自体は好きにやってもいいよ」

「つきましては、あるじさんに演技指導してもらいたいなって」

「えっ」

 ぎくりとペンを握る。そんな審神者の反応に気付いてか気付かないでか、乱は笑って言った。

「あるじさん、その道のプロだってね! 山姥切さんが言ってたよ」

「あの野郎」

「ねぇ、あるじさん。内輪だけでやるからさ、手伝ってよ」

「……しょうがないなぁ」

 身を乗り出してきた乱が、審神者の腕を掴む。それに、ペンを置いた審神者は頭を掻きながら息を吐いた。その顔には微苦笑が滲んでいる。

「どうせ俺が指導するなら、審神者会議で発表できるぐらいのものにしてやるよ。ただし覚悟しろよ」

「わぁい、あるじさん有難う!」

 乱が喜ぶ。立ち上がる彼に引っ張られ、審神者も立ち上がった。

 

 

 

了

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