※この作品はR-18です。

刀剣乱舞SS集(BL・NL・友情主従ごった煮)   作:駒由李

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pixivからの転載
つる→みかさに♀前提※鶴丸×オリキャラ♀に見えるかも知れない描写有(書き手は義父娘愛のつもりです)
転生した刀剣も審神者も死にます。みかさに♀(転生)の娘を引き取った鶴丸(転生)の話。娘視点からのひとり語り
▼地味にレキシューとの戦いは終わってます
鶴丸:五条鶴丸
三日月:三条三日月
審神者:はにわ(実名別にあるが未定)
みかさに♀娘:■■

「母のことは嫌いだったのか」
「……嫌えたらよかった。憎めたらよかった。けれど、三日月とは別に、あの人も慕わしかったんだ」


死んだ養父が10年前に死んだ実父が好きだったらしいんだが

 養父がおかしいことに気付いたのは、引き取ってもらってから数年後。引き取られた当時10才だった私は、中学生になっていた。

 中学生ともなると、多少の分別はつく。引き取られた当初から、「驚きを求める」スタイルの父は大概可笑しかったと認識していたが、その方向性の雲行きが怪しくなった。

「―――」

「え?」

 学校に向かうために玄関で靴を履いていたとき。声がかけられた。しかしその声が不明瞭で、聞き返すために振り返った。

 養父は、「しまった」という顔をしていた。常に余裕を保っている養父の、あれがはじめての焦り顔だったかも知れない。

 五条鶴丸の焦り顔は。

 

 鶴丸の家に引き取られたのは、両親を亡くしたからだ。とはいっても一気に亡くした訳ではない。幼稚園の頃に母が突然の病死、父は私が10才のときに事故で帰らぬ人となった。父の遺産は莫大なもので、当初は私の引き取り手は引く手数多だったが、弁護士によって「遺産はすべて娘が成人してから本人に受け取らせる」という父の事前の遺言が発表された途端、引き潮のように引いていった。押し付け合いがはじまる中――

『よっお嬢ちゃん。俺のところに来ないか』

 そう言って私の手を握ったのは、葬儀に1番遅れてきた男、鶴丸だった。

 

 鶴丸は美しい男だ。死んだ父はAPP18はありそうだったが、鶴丸も16から17ぐらいあるだろう。鶴丸は父方の親戚だったから、容貌が優れているのも、そして年を取らないのも家系なのかも知れない。実際父方の家系は、金に纏わるあれこれは置いておいても見目の良いものばかりだった。対して母方の方は、不細工ではないがごく普通というところで、自身はその平凡な母に似ているといわれる。正直なところ、美しい父に似たかった気持ちと、無用なトラブルを避けるためにも似なくてよかったという気持ちが半々だ。閑話休題、そんな美しい男は独身である。ちなみに文筆業だ。あまり身持ちが堅いとはいえない男に引き取られることに結局決定したのは、他に引き取ろうとする者がいなかったからにすぎない。

 消去法で、私は五条鶴丸の養女となった。

 

「■■のお父さんってすごいかっこいいよね」

「まぁ、顔は良いな」

 参観日のあと、決まっていわれた言葉だ。かっこいいか、といわれるとなんとなく首を傾げる。常に格好を気にしていて実際格好いい光忠という養父の友人ならいるが、養父がかっこいいかといわれると首を傾げる。自身にとって、養父は「きれいな人」という印象だった。同級生の気持ちを忖度して「かっこいい」ということにはしていた。同級生の言葉のあとには「似てないね」という言葉が付随しているのにも気付いていたが、実の両親がいた頃からそうだったので気にしなかった。大好きな実母からもらった顔なのだ。嫌う訳がない。

 しかし、そのことに不安を覚えたのは中学の卒業間際。第1志望校の受験日。しっかりと靴を履く自身は、緊張を解すためだろう、話しかけてくる父に相槌を打っていた。

「受験票は持ったか。鉛筆は持ったか、消しゴムは持ったか。あとハンカチとティッシュと」

「ははは、持った持った。養父さんは心配性だな」

 靴紐を結びながら笑う。解けないようにしっかりと結んだ。志望校に受かるだけの学力は積んだつもりだったが、転んで士気が下がることは避けたかった。この年は暖冬で凍った水たまりの心配もなかったが。立ち上がり鞄を背負った。そしてドアノブを握った。

「それでは、行ってくる。待っていてくれ」

「――あぁ、行ってこい。■■■」

 聞き間違いかと思った。

「え?」

 振り返る。その先で、鶴丸はきょとんとした顔をしていた。こちらも目を瞬いていると――鶴丸は青ざめた。「ああ、いや、間違えた。行ってこい。■■」

「……あぁ」

 訂正された。呼ばれた名前は、自分の名前だった。不安に思いながらも、自身は家を出た。

 志望校には受かったものの、そのときの鶴丸の言葉が忘れられなかった。

『行ってこい。三日月』

 それは父の名だった。

 

 初見の人に、父に似ているといわれたことは1度もない。父に似たのは黒髪ぐらいだ。そう思っていた。

「■■ちゃんって、意外に三日月さんに似てるね」

 テスト期間。部活が休みだったので早々と家路に就いていた道中で出会った光忠は、喫茶店でパフェを奢ってくれた。パフェの甘さに舌鼓を打っていると、頬杖を突いていた彼はそう言った。彼は実の両親とも面識があったと、思い出したのはこのときだ。マドラーを片手に目を瞠る。

「そうか? 私はそうは思わんが」

「その口調とかさ。今時喋り言葉にジェンダーがどうのとかいわないけど、少なくとも君のお母さんはそういう喋り方じゃなかったなぁ。君と話してると三日月さんを思い出すよ。声も似てるし」

「ふむ……」

 いわれてみて、このときまでの短い人生を思い返した。たしかに自分のような口調の女子はいなかったし、男子にもあまりいなかった気がする。咎められることもなかった。

 そしてふと思う。自分のこの口調を、今、1番身近に聴いていたのは誰だろう。

 その日の帰宅後のことだ。

「お帰り」

「今帰ったぞ。今日は光忠さんに会ったぞ」

「おっナンパされたか」

「パフェを奢ってもらっただけだ。やれ、あの人は女に奢るのが好きだな」

「あいつは人好きだからな。男にも子どもにも奢るぞ」

「……いつ会っても暇そうなんだが、あの人は何をしている人なんだ」

「喫茶店のオーナーシェフのはずなんだがな。不思議だよな」

 そんなとりとめのない会話をする。その間に、自身は心に決めた。制服から着替えるために自室に引き取る直前、「なぁ」と尋ねる。

「どうした」

「養父さん。養父さんは私が実の父親の口調に似ているのを、どう思っている」

 鶴丸にとっては唐突な問いかけだっただろう。しかし、それだけでなくとも、鶴丸が動揺したのは手に取るようにわかった。普段は飄々とした鶴丸の、珍しい動揺だった。今にして思えば、鶴丸は実父のことに関してのみ動揺していたように思う。

 鶴丸は、動揺して――そして、微笑んで言った。さみしい微笑だった。

「お前はそのままでいいよ。無理に変わらなくていい」

 その言葉を額面通りに受け止めるには、このときの自身は大きくなりすぎていた。

 

 鶴丸がおかしくなりだしたのは、この頃からだ。

 高校を進級するごとに、私の名を「三日月」と呼ぶ回数が増えた。それはむりからぬ気がした。自身は、少しずつ、少しずつ実父に似てきていた。あの美貌ではない。目鼻立ちの特徴が似てきていたのだ。しかし、それでもベースの顔は飽くまで実母だ。時折会う鶴丸の友人たちにも特に何も言われたことはない。それでも鶴丸は、自分の口から「似ている」といわなくとも、その「三日月」と呼ぶ声が、如実に亡き父を求めていることがわかった。

 そう、鶴丸は実父を――三日月を求めているのだ。

 それに気付いたのは高校3年。県外の大学に進学を考えてそれを相談した折、思いの外反対を受けたときだ。学費の問題はないはずだ。鶴丸は「鶴丸国永」の筆名で遊んで暮らせるほど稼いでいる。私を私大の医学部に通わせても問題ないほどに金はあるはずだった。

 しかし、鶴丸は拒んだ。テーブルを挟んで相談する私の腕を、鶴丸は掴んだ。その声は切羽詰まっていたと、今でも思い出せる。

「君は」

 声が、震えていた。

「君は、どこにも行かないでくれ」

 それで、得心した。だから、それを口にした。

「養父さん。私は、三条三日月ではない。貴男の養女の五条■■だ。貴男は私に何を求めているのだ」

 そのときの、鶴丸の絶望した顔を、私は一生忘れないだろう。

 

 このあとから語られた話を、私は今でも信じているとかといわれれば嘘になる。ただ、鶴丸は真剣だった。

「前世というものを知っているか。俺と三日月、それに君のお母さんも前世で会っていた。それだけではない。君のお母さんは……謂わば前線の指揮官。俺と三日月は同僚だった。他にもたくさん同僚がいたが、俺にとって三日月は特別だった。

 指揮官といっても、普段は暢気なものでな。色恋沙汰も発展した。君のお母さん以外は男所帯だったから、まぁ、所謂衆道も流行った訳だ」

 言葉を切った。肘を突いて組んだ手に顔を埋める。白い頭の天辺が見えた。それを無心に眺めていると、鶴丸は言った。

「俺も、三日月が好きだった。けど三日月は、主が好きだった。主も、三日月が好きだった。まぁ、横恋慕だったな。そして俺は、そんな2人の仲を裂くことはできなかった。そんな折りだった。敵の襲撃を受けて、主も三日月も死んでしまった。俺は言葉もなかった。……その後、新しい主が来て、その戦いは終結した。俺たちは生まれ変わることになった。できれば三日月の傍に生まれたいと願った。願いは叶った。だが、出逢ったときには、三日月はもう、同じように生まれ変わった主と付き合っていた。……前世からの因縁っていうのは恐ろしいな。俺は結局、また何も言えないまま、三日月と嘗ての主が結婚するのを見届けた。これも運命なんだろう……そう思って諦めていた。

 君のお母さんが死んだときは、正直チャンスだと思った。折に触れるごとに俺は君のお父さんに接触した。君は知らないことだろうがな。けれど、君のお父さんにどうにもできないまま、唐突に彼は死んでしまった」

 鶴丸は顔を上げた。金色の双眸が、虚ろに細められる。

「残された君を見て、手に入れなければと思った」

「――」

「性的な意味も恋愛的な意味でもない。ただ、君を手元に置かなければと思った。あれ程恋い慕った、けれど叶うことのなかった三日月への想いを、君を手元に置くことで昇華できると思った」

「……」

「でも、想いは加速するばかりだった」

 手が伸ばされる。私は無抵抗だった。私の手を、鶴丸は握った。見た目は変わらないが、その手は10才のあの日、幼い私の手を握ったものより細く感じた。握り返すと、その手は冷たかった。

 鶴丸は片手で自らの目を覆った。

「君が成長するごとに、三日月の面影を見てしまう。君は女で、まして主に似ている。それはわかっているのに、この目が勝手に三日月の面影を求めてしまう。そうしてほっとすると同時に、三日月はこの世のどこにもいない事実に打ちのめされる。それを、この8年、繰り返してきた……苦しいことの連続だったはずなのに、それでも君を手放したくないんだ」

 鶴丸が、深く、息を吐いた。

「傍にいてくれないか」

 それは、ともすれば熱烈な愛の言葉だったかも知れない。けれど、私にはわかってしまった。

 これは、助けを求める声だ。

 それをわかっていて、私は、断罪の言葉を告げた。

「すまない。私は外に出たいんだ」

 鶴丸が息を飲む音がする。彼は、私の手を握った。それに縋るように、額をこすりつける。その姿はか細く、この人はこうしてひとりで啜り泣いていたのかと思った。だが、外に出たいという欲求は自分の中で強く、恩知らずと知りながらもこの人を突き放す言葉しか出せなかったのだ。

 

 その鶴丸が死んだのは、私が大学を出て、亡き実父の事業を継いでしばらく経った頃のことだ。寒い冬の日。心臓発作だった。

 あの日のことがなかったように、次の日からは私が県外の大学に進むことを賛成してくれた鶴丸。名前を呼び間違えることのなくなった鶴丸。しかしその頃からその背中が日増しに痩せていって見えた。それでも鶴丸は笑ってくれたから、私は見ないふりをして、家を出た。大学に進み、夏と冬には帰省した。鶴丸は笑っていた。

 鶴丸の葬儀には参列者が多く、養父の死を嘆くよりも喪主としての仕事の方が忙しかったぐらいだった。

 遺影の養父は、やはり笑っていた。遺影を選ぶとき、笑った写真しかなかったのだ。

 あの人が泣いたのを見たのは、18才のあの日だけだった。

 遺骨は養父の髪のように白く、骨壺は重かった。

 

 鶴丸が死んで、今日で6年になる。継いだ実父の事業も安定し、穏やかな日々が続いている。そんな中でも、養父のあの日の告白を思い出す。

 ひょっとしたら、前世というのは養父の妄想で、単に実父との関係に理由をつけたったのかも知れない。それでも、養父のあの涙は本物だった。

 養父は、あの世で実父に会えただろうか。それとも、また転生とやらを繰り返しているだろうか。いまだこの世に縛られている身としては、それは想像するしかできなかった。

 

 

了

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