お題は晩霞(http://www11.plala.or.jp/harutake/banka/banka_top.html)より。
pixivより転載
俗に刀剣風邪と呼ばれる流行病がある。それとは別に刀剣インフルエンザというものもあるが、どちらも人間が罹る風邪やインフルエンザと症状はほぼ変わらない。原因が菌やウイルスではなく歴史修正主義者の呪いであることが最大の違いだ。主に戦場で呪いをかけられた者が発症し、演練場で伝染する。練度が高い者ほど罹りにくいが、新入りは罹りやすい。
そういうわけで、比較的新参の清麿も罹患したのである。
(あ~~~熱が中々下がりきらないな……)
私室で咳をしながら、清麿はぼんやりと天井を見上げていた。体力は落ちているが、既に眠気は消え失せている。拗らせたのか、もう1週間ほど床が上がらなかった。そもそも、流行の時機を逸して罹ったのがいけなかったのかも知れないと清麿は思う。少し前に流行ったときは、本丸中の刀剣が倒れ――水心子も倒れた――、数少ない無事な刀剣と共に看護に駆け回ったものだった。自分は大丈夫なのだと思っていたが、それは何の根拠もない自信だった。一時は39度まで熱が上がったものだ。それがようやく下がってきて、今朝測ったときは37度5分。それでもまだ起き上がるには辛いので、こうして横たわっている。
辛い。体の節々が痛いのも辛い。しかし、1番辛いことがある。
(もう1週間も水心子とヤってない………………)
さて、この本丸の清麿と水心子は恋仲である。この本丸に着任する前からの付き合いだ。清麿は外見に見合わずそれはそれは精力的で、週5で水心子と事に及んでいた。本当は毎日したい。その本音は偏に水心子に嫌われたくないので言っていなかった。閑話休題、なので、清麿は困っていた。週に5回事に及ぶ間柄の相手と、1週間もしてないのだ。熱が高かった頃はそちらが辛かったので性欲を忘れていたが、熱が下がってくると段々溜まってきた。何がとは言わない。いや言ってしまおう。性欲が溜まっている。頭の熱にも草臥れていたが、下半身の火照りにも困っていた。
あぁムラムラする。清麿がどちらの熱にも困っていた矢先だった。
「清麿、入るぞ」
愛しい恋人がやって来た。
障子を開いてきた水心子は内番着で、膳を持っていた。時刻の感覚を忘れていたが、恐らく今は昼時なのだろう。清麿がそう思いながら起き上がろうとすると、「ゆっくりでいい」と水心子は膳を蒲団の傍らに置いた。盆の上には土鍋が載っている。水心子が土鍋の蓋を開くと、それはうどんだった。ネギが刻まれ、蒲鉾が乗り、卵がぽつんとひとつ、落とされている。審神者が病弱のため病人食はそれなりにバラエティーに富む本丸だが、今回のものはシンプルだ。少々不思議に思って目を瞬いていると、水心子が恥ずかしそうに言う。
「そろそろ本格的な病人食じゃなくてもいいかと思って、私が作ってきた。……どうだろう、食べきれなくても構わな」
「完食する」
「く、喰い気味に言わなくても」
水心子が動揺する前で、清麿は箸を手に取る。いただきます、と言って鍋に手を添える。うどんを啜った。そして笑う。
「美味しいよ、水心子」
「そうか。それならよかった」
ほっと胸をなで下ろす水心子。襟から見える微笑みが清麿も嬉しかった。
しかし、それはそれとして。清麿の頭をある思考が占めていた。
清麿はあっという間にうどんを食べ終えた。腹が膨れる。それを見て満足そうにした水心子は、土鍋の蓋を閉めて膳を持ち上げようとした。
その手首を掴んだのは清麿だ。
「どうした、清麿」
水心子は驚いてそちらを見遣る。何かあったのだろうか。風邪が悪化したのだろうか。そう思って見遣ると――清麿の目に、熱を見た。それは病の熱ではない。もっと根源的な熱だ。しかし瞳の色ははっきりしているのに、清麿は口籠もった。
「……その、水心子。悪いんだけど」
「何だ」
「…………その。シたい……な」
「………………シたい?」
「シたい。」
清麿の言葉の意図を正確に察した水心子はカッと頬を熱くさせたが、それでも呆れが来る。
「お前……まだ熱があるだろう」
「1週間もシてないんだよ。溜まるよ。すごく溜まってるよ。ねぇ水心子、だめかな、すごくシたい。だめかな……」
半ば懇願する。清麿はしっかりと水心子の手首を握っていた。これは肯定か否定かをはっきりしないと放してくれないだろう、水心子はそう判断した。
判断して、その手を外した。
「とにかく膳を片付けてくるから、そういう話はあとにしてくれ」
「水心子…………」
清麿は子犬の目をしていた。子犬にしては、獰猛さが隠し切れてない目の色をしていたが。水心子は溜息を吐いた。膳を持ち上げ、障子の前に置いて、障子を開く。そして膳を縁側に置き、立ち上がって――振り返った。
「またあとでな」
障子が閉まった。
置いて行かれた清麿は、半ば呆然としながらも蒲団に戻る。
(またあとでな、ってことはどっちだろう……夜はいつも通り同じ部屋で寝てるからただまた戻ってくるという意味なのか、そっちを期待して良いのか……)
熱にやられていた思考は、最早ピンクで染まっている。
時計の針の音が無限に感じられた。熱は微かなまま下がらない。
このまままた眠ってしまおうか……数十分と経った先、不意に障子が開いた。顔を上げる。
水心子が、そこにいた。
水心子の向こうはまだ明るい。寝るにしても事に及ぶにしても時間はまだ早いのではないか。そう思っていると、障子を閉じた水心子は、つかつかと歩み寄ってきた。蒲団の傍らに座る。
そして、清麿に覆い被さり、彼の顔を手で挟み――口付けてきた。
「!?」
「……ふっ……」
緩んでいた清麿の口に、水心子の舌が容易く侵入してくる。それに無意識に呼応して舌を絡めた。水心子の息が漏れる。唾液の混ざり合う音が耳朶に響く。やがて水心子は口を離した。間近で見るとわかる。その頬が赤らんでいるのを。垂れた唾液を男らしく拭った水心子は言った。
「欲求不満だったのがお前だけだと思うな」
「――水心子、それは、あっ」
水心子は体を離したかと思うと、右手を蒲団の中に滑らせた。そして素早く清麿の寝間着の下の前を寛げ、下穿きに触れる。ボクサーパンツ越しに触れる手が、自身の熱よりも高く感じた。
その手が、下穿きの中に滑り込む。
「水心子、っ」
「……溜まっているというなら、1回抜いた方がいいだろう。ほら、任せろ」
「……っ」
水心子のそれなりに堅い掌が、清麿自身を包む。緩く緩く上下する。1週間触れられていなかった部分が体温で包まれ、擦られ、清麿は思わず自分の口を押さえる。普段はしてくれないことをしてくれていることが嬉しい。その事実もそうだったし、現在の行為により声が漏れそうになるのを抑えるためもあった。繰り返すが、まだ明るいのである。遠くから短刀男士たちの笑い声が響いてきた。そんな中で自分たちは淫らな行為に及んでいる。堪らなかった。
「……っ……」
「あ……先走りが出て来た……いつもより早いな……?」
蒲団の中から微かな水音がする。水心子の手が上下する。時に緩やかに、ときに速く。緩急をつけた動きは、精確に清麿の性感を刺激した。水心子に、水心子が、こんなことを覚えるなんて。自分の性感のツボを憶えるなんて。と、清麿は内心で辛抱できなくなる。散々関係を持っていておいて、今更ながら自分が己のヒーローを汚した気がした。しかしそれにも興奮してしまう自分がいて、清麿は自己嫌悪と興奮の狭間にいた。
「……そろそろ出そうか?」
そうこうしている間に、自身の限界を察したらしい。水心子が囁きかけてくる。口を塞いだまま肯いた。すると水心子は手の動きが速くなった。清麿は感じた。先走りで濡れそぼった水心子の手を。それをまざまざと想像して、清麿は唸った。
「っ、出る」
「わかった、手に出して」
「……っ! あ」
びくびくと腰を震わせ、清麿は1度果てた。彼自身からびゅるびゅると精液が飛び出る。
水心子はそれを手で受け止めると、下穿きと蒲団の中からずるりと手を引っ張り出した。白濁に塗れた彼の右手。清麿はまだ熱に浮かされた頭でそれがひどく冒涜的な様に見えた。
水心子がその手を舐めたことにはもっと驚いた。
「す、水心子」
「……苦い」
「それはそうだと思うよ、ほら、ティッシュで拭いて……――水心子!?」
「あまり大きな声を立てるな。気付かれる」
枕元に置いていたティッシュ箱を引き寄せようとした清麿だったが、その次の水心子の行動に仰天した。彼は掛け布団を剥ぐと、清麿の脚の間に蹲り、下穿きから精液塗れの手で清麿自身を取り出したのだ。清麿が見つめると、水心子の顔は先程見たときより赤らんでいるようだった。そして清麿自身に頬ずりする。滑らかな肌の感触が、萎えたばかりの清麿自身を力ませる。
「……次はこちらだ」
そういって、水心子は清麿自身を口に含んだ。清麿の体がびくりと跳ねた。それは温かに濡れた感触に感じたからであり、そして何より水心子の常にない行動のためだった。慌てて水心子の頭を押さえる。
「す、水心子、駄目だよ」
「じゃまをするな」
「あっ歯を立てないで、あっ」
水心子は清麿自身の亀頭を唇で触れると、喉にまで一気に飲み込む。えずくような声が聞こえて慌てて下を見たが、水心子は構わず同じ動作を繰り返した。かと思えば竿を舐め、精嚢を柔らかく口に含み唇で揉む。水心子の舌の動きに翻弄され、清麿自身はむくむくと持ち上がり、先走りが垂れた。それも舐め取られて、清麿は水心子の頭を押す手に力をこめてしまう。
「水心子っ……」
「……そろそろイくか?」
水心子が口を離すと、こぼれた清麿自身が腹にくっつきそうな程立ち上がる。普段のセックスではさほど気にならないのに、今はとても恥ずかしい。そう思っていると、水心子の体が離れた。見れば、水心子は内番着のズボンを脱いでいた。それと、パンツ。
水心子自身も持ち上がっていた。内番着の上着の縁に引っ掛かっている。そして彼は清麿の脚の間で膝と片手を突き、清麿の精液に塗れたままの手を、指を、彼自身の後孔に突き入れた。
「んっ……はぁ」
「水心子、水心子、何をしてるんだい」
「待っていろ……さっき、いつも通り主の部屋の風呂で後ろを『準備』してきたから……あとは滑らせるだけ……」
さり気なく爆弾のような事実を投下され――確かにこの本丸には大浴場しかなくて個室の風呂は審神者の部屋にしかないがそんなことは知らなかった。ちょっと待てたしかこの本丸には自分たち以外にも刀剣男士同士のカップルがいなかったか――動揺する清麿に構わず、水心子は跨ってきた。意図に気付いて、清麿は止める。
「水心子、待って」
「……私の中に入れるぞ」
制止に構わず、水心子は清麿自身の亀頭を後孔に宛がい、滑りのままに――中に押し込んだ。
「あっ」
「んぅっ」
一気に水心子の中に清麿自身が収まる。1週間ぶりのそこは常よりきつく感じられた。舐められて昂ぶっていたそれが、すぐにも暴発しそうになる。しかし、水心子は笑った。
「まだイくなよ」
「あっ、水心子っ」
根本まで水心子の中に収まっていた清麿自身が、亀頭まで引き抜かれる。そして再び収まった。その上下運動を水心子は繰り返す。清麿は耐えかねていた。精を放ちたい。水心子から漏れる吐息と「んぅ」や「あっ」などといった喘ぎ声もそれに加速をかけていた。
「んっあ、あっ」
「水心子っ……! もう、出るっ……」
「……僕も」
漏れた一人称が、水心子の理性の瓦解を示していた。
水心子の腰の動きが加速する。清麿も腰を振った。何度かの蠕動。そして。
「あっあっ、あーっ……」
「水心子っ!」
水心子の中に清麿の精が放たれ、ほぼ同時に水心子の精が清麿の寝間着に散らばった。
清麿自身を後孔から引き抜いた水心子。清麿は起き上がりながら寝間着を脱いだ。適度な運動をして熱が下がった気がする。それに寝間着も洗わなければ。今は昼間だから風呂も人気がないだろうか――そう思いながら、水心子を見る。
水心子はそのまま、蒲団からはみ出し畳の上に倒れた。清麿は再び仰天した。
「水心子!?」
「……大丈夫だ……少しふらついただけ……」
「ちょっと額触らせて――熱があるじゃないか! 休んで、って先にこっちを片付けないと」
「……大丈夫……大丈夫……」
水心子は夢心地のように呟いていた。清麿は水心子の体をティッシュで拭ってやりながら、このあとどうしようと少し途方に暮れるのだった。
なお、その後測ったら清麿と同じだった37度5分だった。
了