▼夢で見たネタを元に話にしてみました なんで野球拳だったんだろう……謎……
pixivより転載
なぜこの状況に至ったか。それは自身にもわからない。ただ、本丸の廊下を蜻蛉切と一緒に歩いていただけだ。自身は畑から収穫してきた野菜の入った籠を持って、蜻蛉切は厨の手伝いに。だから、入ったのは厨のはずだった。そう、厨に入った、という認識をした。
なのに、入った先は真っ白な空間だった。思わず呆ける自身より、素早く背後を見た蜻蛉切はさすが極といったところだろう。しかし、扉はそんな蜻蛉切より早く閉まった。驚いたことに、扉は木造のはずだったが、入った空間から見ると鋼鉄製のものに変わっていた。野菜籠を持ったままの自身は、扉に飛びかかった蜻蛉切の後ろ姿を眺めつつ、扉の上にかかったテロップを見た。そして、そのまま音読する。
「『野球拳(服を脱ぐ方)をしないと出られない部屋』」
「は?」
「……と、あります」
「………………噂には聞いていたが……これは出られない部屋の類か……まさかこの本丸にもそんなバグが出るとは」
振り返った蜻蛉切は、自身と同様に電光掲示板を見上げながら、深い深い溜息を吐いた。自身はと言えば、訳がわかっていなかった。「出られない部屋」とはなんだろう。野菜籠を持ったままの自身に、蜻蛉切は嘆息しながら、説明してくれた。
曰く。時折、本丸や演練場、政府施設などに現れる部屋である。
曰く。バグであるらしい。
曰く。呈示された条件をクリアすれば出られる。
曰く。呈示される条件はそのときどきで違うらしい。
「最悪の条件で『どちらかを殺さないと出られない』というものもあったらしいが……今回は、まぁ、安全な方だな」
「でも、その……服を脱ぐ方の野球拳、とか言ってますけど」
野球拳というのは、座敷芸のひとつとして知っている。正確には本来の形から歪められて、ジャンケンで負けるごとに服を1枚脱いでいくというものだ。時折開催される飲み会が宴もたけなわになると行われることも多い。大抵皆が泥酔していて服を脱ぎ終えるまでに酔い潰れてしまうパターンが多いのだが――閑話休題、野球拳である。野菜籠を置いた自身は、「それで」と息を飲んだ。
「つまり、僕と蜻蛉切様が野球拳をして、どちらかが勝たないと出られないってことですか」
「まだ易しい条件でよかった。それでは、早速はじめようか」
そう蜻蛉切が言った瞬間、どこからともなく音楽が流れてくる。これは「野球拳」の音頭だ。野菜籠を足元に置いた自身は、作法は知らないながらも、やることはようはジャンケンであるということだけは理解していた。理解していたので、「よよいのよい」で拳を出した。
蜻蛉切はチョキだった。
自身は青ざめた。
「あ、あの、申し訳ありません蜻蛉切様っ……」
「何。これは勝負事だ。それに恐らく終わらせないと出られない部屋だろうし、どちらかが褌一丁になるまで出られないだろう。生命維持に関わるその前に決着をつけたい。それでは次だ」
言うや否や、蜻蛉切は足袋を脱ぐ。それを眺めながら、自身は嫌な予感に包まれていた。
「……蜻蛉切様」
「なんだ」
「ひょっとして、ジャンケンに弱いんですか」
「そのようだな。この5年で薄々察していたことだが」
そして今。自身は長靴とジャケットと帽子をロスト。蜻蛉切は既に襦袢と褌一丁になっていた。自身としては罪悪感がひどい。ジャンケンは時の運とあと動体視力が勝負だが、生憎と自身はそこまで動体視力に自信がない。よって、これは完全なる運である。ここまで運が悪いといっそ清々しい。だがこれも最後だろう――次も恐らく蜻蛉切が負けることを推察しながら、自身は音頭に合わせてジャンケンを繰り出した。
自身はパー、蜻蛉切はグー。
蜻蛉切は、黙って襦袢を脱いだ。褌一丁だ。恐らくこれで終わりだろう――2振りともそう思いながら、蜻蛉切は襦袢を落とした。
何の反応もない。
え、と顔を上げる2振りの前。電光掲示板には注意書きが足されていた。それを自身は思わず読み上げる。
「『裸になるまで終わりません』……だと……?」
「……仕方ない、桑名。続けるぞ。どうせここにいるのは俺たちだけだ、ジャンケンを続けよう」
その言葉に、自身はサッと青ざめる。そして、次の自分の取った行動に自分でも驚いた。
蜻蛉切の腕に縋り付いたのだ。
「駄目です、駄目ですよ蜻蛉切様」
「桑名?」
「裸であることが認識される、ということは、俺たちの今の様子をどこかで誰かがモニターしているかも知れないってことでしょう」
自身は蜻蛉切を見つめた。前髪に切れ目が生じる。それに蜻蛉切が息を飲んだのがわかった。
「恋刃の痴態を他の誰にも見せたくありません」
その瞬間、扉が開いた。
「へっ」
ぷしゅー、と間の抜けた音がする。空気が抜けた音らしい。鋼鉄製の扉は大儀そうに観音開きになっていく。それをぽかんと見つめていた自分たち。口火を切ったのは蜻蛉切の方だった。彼は服を掻き集めながら言う。
「……あー、先程の桑名の言葉が、『裸のままの言葉』としてカウントされたのではない、か」
「え、えぇー……は、恥ずかしいなぁ……」
「お? なにこの部屋。こんなのあったっけ」
「主、見るな」
幼い声が響く。まだ小学生ほどの年頃の審神者に、今の蜻蛉切の姿は少々刺激が強い気がしたので、桑名は咄嗟に彼を背中に庇ったのだった。背丈は足りなかったが。尤も、幼いために審神者は他の刀剣男士たちと一緒に大浴場に入るのが常なのでそれは杞憂だったが。
こうして「脱衣野球拳脱出の部屋」は無事にクリアできたのだった。
なお、先程の桑名の発言ののち、蜻蛉切が夜に彼を招いたのは余談である。
了