トッモ「こんな夢を見た」
ワイ「書いて」
トッモ「寧ろお前が書け」
ワイ「おk」
という会話を経てできあがった作品がこちらです。
「私を見つけてくれ」
その壁の前で、そう囁かれると言う。
窓の向こうでは、落ち葉が散っていた。
(また学校に通うことになるとは思わなかったな)
彼はそう思いながら、静かな廊下を歩いていた。昼休み、恐らく本来賑わうはずの校舎は、奇妙なほど静まり返っている。彼は無理もない、と思いながら、食堂で手早く昼食を食べ終えたその足で目的の場所へと向かっていた。校舎の地図は、本丸で頭に叩き込んできた。――彼は審神者だった。10代後半、着任3年目。歴史修正主義者との戦いがはじまって数十年経つ中で、比較的新人だった。さて、審神者の仕事は本丸での戦線の指揮である。ましてや彼は学生審神者ではない、専任審神者だ。それがなぜこんなところ――学校にいるのか。理由は勿論あった。
創立200年、改築されて30年。まぁまぁ名門と言って良い寮付きのその高校に、怪異が起きた。それも、恐らく刀剣男士絡みというわけだから、政府としては放置できなかった。
(「私を見つけてくれ」。そう囁く声……ね)
彼は訝しげに顔を顰める。
以前から噂はあったという。他愛ない七不思議の類だ。夜、あるいは黄昏時。校舎のある辺りを歩いていると、囁く声があるという。「私を見つけてくれ」。「私」という一人称からして女性を想定するが、実際に聴くとそれは男性の声だという。以前までは、ただそれだけの怪談だった。
異変が生じたのはこの年の春からだ。
人が消えた。
寮生の男子生徒で、行方不明が発覚したのはいなくなった翌朝の出席確認でのことだ。最後の目撃情報が、部活へ向かっていた女子生徒がその男子生徒がくだんの廊下近辺を歩いていたところを見たというもので、これは当初伏せられていた情報だった。
しかし、夏休み前までに合わせて7人の生徒が消えた。警察も介入したが、彼らは3人目と4人目と6人目の失踪のときに途惑った。戸惑いながらも捜査をしたが、梨の礫だった。いなくなった生徒の最後の目撃情報はいずれもくだんの廊下近辺。ここまで来ると、生徒の間にも箝口令が敷かれたはずの目撃者から情報が拡がる。そして符合するのだ。くだんの廊下は、あの怪談が囁かれている場所だ。そして3人目と4人目と6人目の失踪者について、「最後の目撃者」から噂が拡がった。
『“私を見つけてくれ”、そう囁かれたときに一緒にいた友人が目の前から消えた』
捜索が続けられたが失踪者は見つからず、そして夏休みが明けてしばらく経った頃。8人目の失踪者が出た。このとき、事態は時の政府をも巻き込むことになる。
『“私を見つけてくれ”と言う声は、あれは刀剣男士の声だった』
8人目の失踪者と共にいたのは、政府でも高い地位に食い込むベテランの審神者のひとり息子だった。この春に入学したばかりの1年生である。霊力はあるが審神者の適性がなく、刀剣男士のことは知っていたがそれは父の本丸に遊びに行ったことがあったからだった。その息子(仮にAとしよう)が級友とくだんの廊下に赴いたのは偶々だったという。
そもそもその廊下はそこそこに人通りの多い場所だった。袋小路となっているが、進むと右手に階段へ通り抜けられ、左手にはトイレ。両側に窓があり、さらに進むと空き教室があった。Aとその級友がそこを通ったのは、何てことはない、小用を足すためだった。用自体は済んだものの、落ち着いた彼らはそこが失踪者が多数出ている場所だと思い出した。しかし彼らはあまり深刻に考えていなかった。何せまだ6時限目を終えた掃除の時間――黄昏には近いが、明るい時刻だったのもある。闇は人の思考力を過度に加速させるが、光は思考力を鈍らせもする。明るいから大丈夫だろう、そう安易に考えて彼らはそこで噂の真偽などについて語っていた。それがよくなかった。
「私を見つけてくれ」
そう、くっきりと声が聞こえた。それは級友もそうだったようだと、Aは証言している。顔を見合わせて、口の端を引き攣らせ――そして、消えたのは友人の方だった。
当然騒ぎになった。しかし騒がせたのは、Aの証言――刀剣男士の声だった、というもの。警察は一連の事件が怪異によるものだとほぼ断定していた。23世紀現在の日本で怪異に対する捜査部署は存在するものの、刀剣男士、あるいはそれに類する怪異となれば話は別だ。事態は政府に通達され――Aが父親に直訴したのもある――、調査員を派遣することになった。
そこで、高校に潜入できるぐらいの年齢の審神者という中で、この審神者が選出されたのだった。ただ、他にも同じ年頃の審神者はいくらでもいる。その中で、なぜか彼が選ばれた。
(たぶん何が起きても誰からも文句が来ないからだろうけどな)
と、彼は冷めた考えだ。彼は詳細は省くが家庭環境に恵まれず、施設で育ち、そのうち審神者適性を見出され中卒で審神者になった。学費を稼いでから進学する、という考えは端からなかったから勉強も一切していない。潜入調査ということで編入試験は免除されたものの、彼が転入したクラスで受けた授業は彼には呪文のように思えた。これは早々に解決しなければなるまい、彼は密かに意を決していた。だから連続失踪事件に萎縮し、半端な時期にやって来た余所者の編入生を遠巻きにする同級生たちと無理に親しくして情報を入手するという方策は放棄して、直接現場に赴きに来たのだった。
本丸にいた時点で捜査資料は読み込んでいる。結果として、今のところ昼休みは失踪者は出ていない。なのでゆったりとした昼食の時間を犠牲にして来た。この廊下近辺には本当に人気がない。元々人通りの多かった廊下といえど、遠回りすれば避けられるところだ。この辺りも生徒の掃除区域のはずだが、辿り着いてみると、何となく埃っぽかった。彼は辺りを見渡す。
窓はあっても薄暗い。それを抜きにしても普通の廊下だった。廊下の片端に置かれた、机の上の黒板消しクリーナーの姿が何ともわびしい。まだ付喪神が憑くほどの年季は経ていなさそうだが、審神者の力を以てすれば頑張れば妖怪化するかも知れない。戯れにそれに触れようとして、――聞こえた。
『私を見つけてくれ』
(――……)
確かにそれは、刀剣男士の声だった。聞き覚えがある。しかし、彼はそこで訝しく思った……。
「ふー……」
彼は寮に帰り着いた。その足で寮の食堂で夕食を摂り、部屋に戻る。基本的にこの寮は2人1部屋だが、「編入生」の彼の部屋はちょうど一部屋余っていたのでひとり部屋だ。尤も、たとえ余っていなくても無理にでもひとり部屋にされる手筈だった。理由は簡単だ。 鍵を開けて部屋に入る。電灯を点けた。そして柏手を叩く。
「『ただいま』」
途端、部屋の中にノイズが走った。
そのノイズから、2人の青年が出て来た。
「お帰り主」
「学校生活はどうだった?」
燭台切光忠と大般若長光だ。
怪異に対して審神者ひとりだけを派遣してもほとんど何の利点もない。せいぜい多少オカルトに耐性があるというぐらいで、それなら警察の怪奇対策部署が担当すればいいだけだ。今回のように刀剣男士が絡んでいると思われる事件だからこそ審神者は派遣される。そして、審神者が派遣されることの利点――それは刀剣男士というオカルトへの武力を連れ出せることにあった。さらに今回は特例として、彼には通常予備役に付与される「鍵」を与えられていた。これはどこにいても刀剣男士を本丸から呼び出せる機能だ。ただ、学校という場所に潜入する以上、人前で彼らを呼び出すわけにはいかない。ベースキャンプが必要だった。そういうわけで、寮のひとり部屋がその役目を果たすことになった。
さて、このときの彼は丁度良い、と思った。「鍵」の当番はシフト制で、今回の捜査においては常時最低2振りは直ぐ出て来られるように待機してもらっている。その中で燭台切と大般若が来たのは丁度良い、と思った。「彼」とは縁がある。
(まぁ、大体の刀剣は濃かれ薄かれ縁があるものだが)
「授業は呪文のようだったよ。何を言っているのかさっぱりわからん」
「だろうねぇ」
「君、戦の采配はできるのにな。それで例の現場の方はどうだった」
「それなんだけど、山鳥毛を呼んでくれるか」
「山鳥毛くんを?」
燭台切が隻眼を瞬かせた。大般若も意外そうだ。彼は肯いた。
「山鳥毛に用があるんだ。どっちでもいいから呼んできてくれないか」
「じゃあ俺が行ってこよう」
そういってノイズが走り、姿が消える。残された燭台切は、自らの主に怪訝そうに問う。
「なんで山鳥毛くんを? 今回の事件に関わりがあるのかい」
「多分な」
「多分って」
ノイズが走る。
「おおい、連れてきたよ」
「早かったな」
「小鳥、私に何か用か……?」
取るモノも取り敢えずという様子の山鳥毛が、大般若に引っ張ってこられた。どれだけ取り敢えずかと言うと、内番着に押っ取り刀という姿からして察して欲しい。戦闘着に着替える時間ぐらいは待てたのだが……と彼は思いながらも、折角来てくれたので、彼は山鳥毛の前に出た。途惑う彼と面突き合わせて、彼は頼んだ。
「山鳥毛。『私を見つけてくれ』と耳元で喋ってみてくれないか」
それに山鳥毛どころか山鳥毛の後ろに控えていた2振りも目を瞠ったが、彼は構わず続ける。
「それも『主を害するぞって脅されて現世に売られた挙げ句怪異に巻き込まれてよく分からん場所に閉じ込められて誰にも知られないまま何十年も経過した心境』で頼む」
「難しい注文をつけるな……」
言いながらも、しばし考え込んだ様子の山鳥毛は、咳払いした。そして、言った。
「――私を、見つけてくれ」
それを聴いて、彼は肯いた。
「うん。これなら確かに、あの校舎の声は山鳥毛の声だ」
それを聴いて燭台切がじゃあ、と言う。
「よくわからないけど、じゃあ別個体の山鳥毛くんが……なんだっけ、売られて怪異に巻き込まれてどこかに閉じこめられて誰にも知られないまま何十年も経過しているってこと?」
「それはモノの例えだったが、多分かなり近い状況に置かれていると思う。問題はどこにいるかなんだが……そういうわけで、山鳥毛。俺についてきてくれないか。現場まで、霊体化して」
「今からか?」
山鳥毛は怪訝そうだ。
今回の潜入調査に当たり、予備役に付与されるもうひとつの機能を与えられている。それは刀剣男士の霊体化だ。本来なら昼間学校にいる間も近侍が霊体化して付き添うべきだったが、霊感の強い生徒には見えてしまうのでこうして寮の一室で姿を現させたのだ。
それが、今からついてこいという。秋だから夕暮れは早い。一連の事件を受けて部活の練習時間も短縮されているという。霊体化して付き添うということは、その人気のない校舎で、見た目はひとりで歩かせることになる。さらには、聴いた話では2人いればひとりが攫われるという。それを心配しての言葉だったが、彼は平然としたものだった。
「現場近くになったら実体化してもらうよ。人目もないだろうしね。それに消えるのはひとりだけなんだ。2人居ても片方だけが連れていかれる。山鳥毛は刀剣だからノーカンだろ」
「その理屈はちょっとおかしくないかい」
「まぁ主くんには考えがあるんだろうけど……それより、主くん。君にはまだ気になるところがあるんじゃないかい」
「……まぁな。ただ……――」
彼が顎を支えたところで、扉が叩かれた。慌てて3振りは霊体化する。明らかに高校生ではない彼らが部屋にいるとなれば騒ぎになるだろう。彼らが完全に霊体化したのを確認した彼は、扉を開いた。
そこには、一見見知らぬ少年が立っていた。15、6才といったところか。恐らく同じ1年生だ。彼が「どなたですか」と途惑っていると、少年は言った。
「あの、Aです。あなたは調査に派遣されてきた審神者さん……なんですよね」
「あぁ、あの息子さんの」
言われて思い出した。顔自体には見覚えはほぼないが、息子のAには調査が入ることは事前に伝えられていたはずだ。それを思い出しながら、さて、このAという少年は何をしに来たのだろうと思う。彼が首を傾げていると、「ついてきてもらえませんか」とAは言う。
「編入したばかりでは校内に不案内だったでしょう。俺が今から現場に案内します」
さて、このときの彼の顔は、山鳥毛からは見えなかった。しかし念話はできるはずだった。
『小鳥よ、なにか怪しくないか? このままAについてくのは』
『とりあえず山鳥毛がついてきてくれればそれでいいから。あ、刀は忘れるなよ』
彼は取り合わない。ただ、警戒だけはしろという風に帯刀を促してくる。元より刀を手放すつもりはなかった。振り返ると室内で燭台切と大般若が不安そうにしている。その視線を背中に受けながら、彼は笑った。
「えぇ、お願いします。まだクラスの人に馴染めなくて、ましてやあの事件現場のことは教えてもらえなくて」
「でしょうね。校門が閉まる前までに見に行っちゃいましょう」
そういって、Aは先に歩き出す。彼はデバイスをポケットに突っ込むと、ただそれだけでAに付き従った。山鳥毛は室内の2振りに軽く手を上げながら、自らの主へとついていった。
秋の日はつるべ落とし。時刻はまださして遅くはなっていないが、校舎は充分暗かった。こういうときこそ校内を明るくしてどこもかしこも人目につきやすいようにするのが得策だと思うが、この学校はそういう発想には至らなかったらしい。彼はどうにもその反応の鈍さが気に掛かったが、それより今はあの事件現場と、このAという少年についてだった。彼は校内を歩きながら、先導して歩くAに世間話のように話しかける。
「この学校も伝統ある感じですね」
「最後に改築したのは30年前らしいですからね。理事長が改築案に対して首を縦に振らないらしいですが」
「へぇ、予算が足らないんですかね」
「そういうこともないはずなんですがね……」
沈黙が降りる。暗い廊下、人気のない校舎。校舎が古い分不気味だった。もし彼が審神者でなければもう少し怯えていたかも知れない。ましてや実際に失踪事件が起きているのだ。そして、自分たちは今将にその現場へと赴いている。
やがて、角を曲がる。現場に着いた。「ここです」とAが小さく言う。確かに、そこは彼が昼休みにやって来た場所だった。窓はあるが、既に暗い時間のため明かり取りとしては意味を成さない。薄暗い中彼がきょろきょろと見渡していると、背中を向けたままのAがぽつりと呟いた。
「何としても、友人を連れ戻したい……」
それは本音だろう、と彼は思った。霊体化して一緒にいた山鳥毛も同じように思った。しかし、彼の口から出た言葉は、山鳥毛の予想を裏切っていた。
「ひとつお訊きしたい」
「なんです」
「なぜ、刀剣男士だと思ったんです?」
しん、と静まり返る。山鳥毛が凝視する中、彼は続けて言う。
「いくら本丸に行ったことがあるといっても、声を憶えておくのには限界があるでしょう。人は、声から忘れる生きものですから。なぜ、刀剣男士だと? 審神者でもないあなたが?」
「それは」
「あるいは」
Aの答えを遮り、彼は言った。
「『そう言うように』『誰かに』言われたとか?」
さて、彼の考えはこうだった。Aはこの学校で起きている怪異に操作されているのでは? 怪異となった刀剣男士たちに、政府に通報するよう暗示をかけたのでは? そう考えていた。
しかし――
「信じますか? あなたは」
宗教勧誘のような出だしで、Aは言った。Aは振り返らない。
「審神者だった前世の自分を殺した審神者が、自分の父親だという話を」
「――」
「死んでしまい、生まれ変わって、審神者適性を持たない今の自分は、前世の刀剣たちを取り戻せないもどかしさを」
「――」
「刀剣たちが主を求める声が聞こえますか」
「――」
「身代わりを求める声を」
「――」
「『私を見つけてくれ』と嘆く声を」
Aは振り返った。その顔はよく見えなかった。
――そのAを覆うように、周辺から瘴気が溢れて来た。彼は叫んだ。
「山鳥毛!」
それに呼応して山鳥毛が姿を現す。薄暗い闇よりも濃い瘴気がAを覆おうとしていたのを斬り伏せる。しかし瘴気は構わず増大し、天井にまで満ちる。そしてそれらが主を襲おうとして――彼は、はっと気付いたように怒鳴った。
「山鳥毛!
山鳥毛は言われて、ようやく気付いた。
ここは袋小路の廊下だ。階段があり、トイレがあり、空き教室があり。そして、今気付いた。突き当たりの壁があるはずなのに、なぜかそれを認識できていなかった。
山鳥毛はAの横を刀で瘴気を切り開きながら突き進む。そして、渾身の力で壁を蹴り壊した。
途端、瘴気が消えた。Aがその場に頽れる。自分にまとわりついていた瘴気を振り払っていた彼は、倒れたAの元に駆け寄った。息があることを確認した彼は、壊した壁、その向こうを見つめたままの山鳥毛を見遣った。
「山鳥毛、何を見つけた?」
「小鳥、人を呼んでくれ。――まだ生きている人間がいる」
山鳥毛の目には、崩れた瓦礫。窓のない空間。複数の白骨化した遺体と、腐りかけた遺体、そしてまだ辛うじて生きている少年。彼らが囲う形で、複数の刀が置かれていた。その1番上に、「山鳥毛」があった。
結果として、露見したのは理事長の過去の連続殺人と死体遺棄、刀の不法買取。それに政府高官の審神者の過去の殺人事件及び刀の不法売買だった――後者はAの父親である。「殺した動機と刀を買い取った動機はまだ取調中だけど、とにかく死体と刀の隠し場所に困った当時一介の教師だったのちの理事長が、改築中だった校舎に隠した。死体はともかく折角買い取った刀を隠した理由はわからないが……結果として、ただでさえ殺された人間の被害者たちの怨念が渦巻いていたのに、そこに付喪神の宿った刀剣が閉じこめられて、怪異になった。……というわけかい」
「そういうことみたいだな」
学校生活は1週間と続かなかった。戻ってきた本丸にて、彼は大般若と話していた。彼の手元には調査任務の報酬についての書類がある。それを見て、彼は溜息を吐いた。
「俺のことは本当に捨て駒のつもりだったみたいだな。予め言われてた額より報酬が高い。詫びだなこりゃ」
「まぁ想定はできてたな。しかし、なんだってこの春から急に人を攫いはじめたんだ。あの怪異は」
「たぶん、Aが入学してきたからだろってのが捜査関係者の見解らしい。調査の結果、Aの前世が審神者だったってのは本当で、Aの魂と縁のあった刀剣が刺激されて活性化した……30年閉じこめられた結果、怪異は校舎全体に『根』を張っていたらしいからな。Aが前世の記憶を取り戻したのも入学してかららしいし」
彼は言う。嘆息しながら。
「けど誰が嘗ての主だったかはわからなかったみたいだな。たとえて言うなら目隠しされた状態だったというべきか……少しでも審神者適性のある奴がひとりいたら取り込んで、2人いたら、審神者適性の高い方を取り込んで連れて行った。それで俺は霊体化していたとはいえ刀剣男士を連れていたから確実に審神者だろうということで連れて行こうとした……それでも、目の前に生まれ変わった主がいたことに気付かなかったのは、かなしいとしか言いようがないな」
「それにしても偶然なのか。自分が殺して刀剣を奪った審神者が生まれ変わって自分の息子になって、その息子が刀剣を売り払った相手の学校に入学したとは」
「運命の皮肉っていうやつだろうよ。……ただ、気付いてたんじゃないかな。父親は」
大般若の言葉に、彼は言う。ホログラムのモニターには、今回関わった事件について、過去の審神者の画像――Aの前世の写真があった。
「殺せるほどに油断させた。それ程近付いた人間と、息子のAはそっくりだ。取調でも静かなものらしいよ、父親の方は」
「罪の意識ってやつかね。ところで、回収された刀剣はどうなったんだい」
「怪異になってしまったからね。政府刀剣になるか、浄化して本霊に還されるか……Aには罪状はないし、生まれ変わった彼の刀剣男士になってもらうのが1番よかったんだろうけど、Aには審神者の適性はないから」
「……怪異に巻き込まれてしまって、主を求めた。それなのに報われなかった。1番声の強かっただけに、気の毒だな。その山鳥毛は」
「呼んだか」
縁側から、山鳥毛が顔を覗かせる。山鳥毛の手には盆があり、それには湯飲みと茶菓子が載っていた。山鳥毛は彼の机にそれらを置きながら、「調査の話か」と尋ねてくる。彼は肯いた。
「もう俺らは関わりのないことだけどな。お前は本当にご苦労だったよ。Aの友人が辛うじて助かったのはお前の功績だ」
「私は小鳥の命令に応じただけだ」
そう言って、盆を片手に山鳥毛は微笑んだ。
「何かあったら、私を見つけてくれ。そうすれば応えられる」
山鳥毛の後ろで大般若が微笑んでいる。それを尻目に、彼は微笑んで「あぁ」と応えた。
了