▼おかしい、最初は「鬼さに♀がいちゃついてるところが書きたいな~♪」と思ってネタ出しをしたんだ でも鬼丸の顔を思い浮かべている間にこうなった……鬼丸……あまりに「死」が似合いすぎる刀……
一応今作はifストーリーの予定。この審神者にはもう少し長生きしてもらいます
それは「仕事」帰りのことだ。自身は、何気なく、主の背中に声をかけた。正確には、頭髪のないそのつるりとした頭に。
「あんた、髪は伸ばさないのか」
「……伸ばして欲しいのか」
振り返る彼女――そう、彼「女」だ――の声は平板だ。まるで自身の言葉を意に介してない様子で。その左耳に赤いピアスが光っている。片耳だけのそれは、彼女によく似合っていた。それは頭髪がないからこそ際立っていたと言えるかも知れない。しかし、と自身は思うのだ。
「あんたは、はじめて逢ったときからずっとその坊主頭だからな」
「スキンヘッドと言ってくれ」
「同じだろう。……髪型を変える気はないのか」
「ないな」
言いきる声が強い。体ごと振り返った彼女は、腕組みをする。
「生まれたときからロングヘアを強いられてきたからな。スキンヘッドに慣れた今はもう髪があった頃には戻れん」
「しかし……神職の女は髪が長い方がいいんだろう。霊力を貯めるためにも」
「まぁ、僧籍を取っているとはいえ、今は私は審神者だからそうするべきなんだろうが……特に霊力に不自由はしてないしな」
そう言って、自身の向こう――たった今辞してきた「現場」を見遣る。まだゲートを潜り抜けていないので、ここはまだ「現場」の本丸だった。
そこには、死因不明の審神者の死体が転がっている。不明だった。彼女が来るまでは。
「お陰で、余計なものまで聞こえる」
そういって、彼女はゲートへと歩き出した。
「聴耳」。彼女の耳が聴くのは生者の声だけではない、死者の声もだ。特に彼女は23世紀のイタコとも呼ばれるほどの才幹を持つ。こうして、ブラック本丸などで死因・身元不明の死体が出ると彼女が呼ばれることが専らだった。その性質ゆえに物騒な事件に関わることも多い。以前は霊的違法薬物の事件に関わったこともあった――閑話休題。
ゲートを潜り、直接本丸に帰ってきた。いつもはすぐに来る出迎えが、今は忙しいのか誰も来ない。鳥が囀る。その中で、彼女は言った。
「それに、この頭の方が耳を削いでもらいやすい」
その言葉の意味を、正確に理解したのは今。
「鬼丸! 主は――」
「死んだ」
轟音が聞こえる。騒ぐ声が聞こえる。駆けつけてきた国広が叫ぶ。聴きたくもないものが聞こえる。聴きたいものは、聞こえなかった。主の声は、もう、聞こえない。彼女の首は掻き切られていた。敵短刀の残骸が、執務室の隅に転がっている。
本丸が襲撃に遭った――それに気付いたのは、本丸の結界が大きく揺らいだからだ。それは本丸の主たる審神者に何かが起きたことに他ならなかった。国広が自身に「主の様子を見てきてくれ」と頼んだとき、彼はゲートの方へと走り出していた。自身は走った。嫌な予感が首を擡げてきて、それを振り払いながら執務室に駆けつけた。
――執務室の障子は開けっ放しだった。そして駆け込んだとき、彼女は畳の上に倒れていた。敵短刀が襲ってきて、それを斬り捨てた。そして倒れている彼女を見て、首から血を流しているのを見て――自身は、あることを思い出した。
「……鬼丸? 何をしているんだ」
「生前、主に言われていたことだ」
そう言って、刀を取り出す。主の懐から懐紙を頂戴し、刀身を握った。そして、彼女の耳を削ぐ。
「――何を」
「主に言われていたことだ」
止めようとしてきた国広に、自身は重ねて言った。その声が自分でも虚ろだと認識していた。
「『聴耳は死んだときに耳を削ぐ。次は聴耳に生まれないように』と」
『次の人生っていうのがあるとしたら、できればもう死人の声は聴きたくないな』
そう言って、彼女は振り返って笑んだ。寂しそうな笑みだったと、今でも思う。
『生きている人の声だけ聞こえる人生っていうものを、歩んでみたい。あんたの声も、きっと今も純粋には聞こえてないと思うから。……あんたの声が聴きたいな』
耳を削ぎきる。まだ、血が流れていた。左側の、ピアスが嵌った耳が重い。それは彼女の魂の重みを示しているようだった。手の中の耳から流れる血は、まだ温かい。掌から滴り落ちる血を眺めていた。国広が肩に手を置いてくる。
「鬼丸。俺たちにはまだやることがある。侵入してきた敵を殲滅することだ」
「……もう、意味はないんじゃないか」
力なく答える自身に、国広は言う。
「俺たちが落ちれば、政府はこの空間を丸ごと取り潰さないといけない。そうなれば、主の遺体を誰が弔ってくれる? その耳を、別に埋めてくれる?」
「――」
「……刀を取れ、鬼丸国綱」
国広は刀を振った。
「弔い合戦だ」
「……あぁ」
耳をそっと畳に置き、懐紙で手の血を拭い、本体を携える。
恐らく、これが最後の戦だ。たとえ敵を殲滅できても、政府に保護されても、自身はこの主以外に仕えまい。そう決めて、国広と共に駆けだした。
了