何となくここでは
父:長谷部(社畜公務員)
母:審神者(♀)
兄:CCP
弟:大倶利伽羅 と決めてます。今作は長谷部も審神者も出てません
▼お久しぶりです。ようやくネタが貯まったので投稿しました。ホラーというかホラー? だしS(すこし)F(ふしぎ)って感じです
pixivより転載
金魚鉢
雨が降っていた日、出かけたときのことだという。
いつも通る道。さして広くもない道に車が路駐されている。自分の敷地に駐車スペースを持たない家がやっている。勿論法律に触れることだけど、この住宅街では有名無実だ。
その中でも、必ず空いているところがある。緊急時に消防車や救急車が停められるためのスペース。詳しいことは知らないけれど恐らく国有地なのだろう。そこにはアスファルトも敷かれておらず、やや土が発生しており春から秋にかけて雑草が生える。冬になるとそこは雪捨て場となる。繰り返すけどもここは消防車などの駐車スペースだ。しかし冬は雪捨て場となっている。住宅街ゆえに流雪溝もないから自然とそうなってしまうのだ。引っ越してきて以来そういう事件は起きていないけど、冬に火事が発生したときはさぞ道路は混雑するだろうなと思う。
閑話休題。先述の通りこのスペースには土がある。雨が降ればそれは泥になった。そして水溜りができた。夏から秋にかけてトンボが卵を産み付けていることもよくある。そしてその日、くりちゃんが傘をさして通りかかったときも、当然のように水溜りができていた。
ふと、影が見えた。
くりちゃんは目の錯覚かと思い、思わず歩み寄ったという。そして水溜りの中を見た。
小さな魚――金魚だった。
黒い金魚、というにはあまりに黒過ぎた。それは宵闇の色をしていたという。それが水深がほんの数cmもないはずの水溜りの中で、すいすいと泳いでいた。よく見ると、水草のようなものも見える。それがゆらゆらと、気持ちよさそうに揺れていた。その水はとても澄んでいて――それを半ば夢中で覗き込んでいたくりちゃん。不意に、彼の目の前を何かが上から下へ落ちていった。
ぼちゃん。
それは水溜りの中に落ち――2匹目の金魚が泳ぎはじめた。それを見て、くりちゃんは空を見上げた。雨天。
恐らく、空の金魚鉢から零れ落ちたのだろう。
そんなことを思ってから目線を落とす。水溜りはただの泥水になっており、金魚も水草も姿を消していた。
イチョウの記憶
はらり、黄色い葉が落ちる。枯れ葉だ。
顔を上げると、白い3階建ての建物が見える。それで、はたとくりちゃんは首を傾げたそうだ。
くりちゃんが出て来たのは大学病院。その敷地内を薬局に向かうために歩いていた。そして、枯れ葉が落ちて来たのはまだその広い敷地の中だった。見上げると、つい数か月前に増設された施設の建物。何の目的かはわからないが、とにかくそれは建てられた。駐輪場と、それを見下ろすイチョウの樹があった場所に。
(立派な樹だったんだが)
そのことを思い出しながら、くりちゃんは枯れ葉を拾う。気になることがひとつ。
この辺りには、あの切り倒された樹以外にイチョウの樹はないのだ。この辺りは、桜の景勝地だから。
ならば、この枯れ葉はどこから落ちて来たのだろう。
――建物を見上げた。あの樹の姿はどこにもないけれど。
紅葉したこの葉は、この道の記憶そのものなのだろう。そう、思いながら、枯れ葉を放ると、それは秋風に吹かれて飛んでいったそうだ。
赤い彫刻の旅立つ日
湖を眺めていた。
秋の夕暮れが眩しい。輝くそれを、水面が反射していた。きらきらと美しかった。
その水面を、白鳥が泳ぐ。木彫りの、それも赤く塗られた白鳥だ。ペンキで塗られたようにべったりと赤かった。
木彫りなのだからそれは正確には浮いている、というべきだった。しかし、その赤い白鳥たちは確かに足をばたつかせていたようだった。等身大の木彫りのそれらは、あまりに精緻で、生々しい存在感を放っていた。
ゆったりと、且つ忙しなく揺蕩う木彫りの白鳥たち。それを、白い息を吐きながら眺めていた。
きゅあきゅあ、ぎゃあぎゃあ。下手なバイオリンの音色のような鳴き声。それはいつか自然を映した動画で聞いた白鳥の声に瓜二つだった。白鳥は美しいが鳴き声まではそうはいかないらしい。嘗て抱いた感想と同じ気持ちを抱いた。
――不意に。
その中の1羽の白鳥が顔を上げた。そして、ぎこちない動きで羽を広げる。ぱらぱらと木片が水面に散らばった。それでも構わず――木彫りの赤い白鳥は、羽搏いた。空に向かって。あの夕暮れに向かって。
それにつられるように他の白鳥たちも羽搏き――羽根の代わりに、木片がいくつも水面に残った。水面に近づいて、その木片を拾う。柔らかい木材のようだったが、木材に詳しくなかったから何の樹なのかはわからなかった。
そして、思う。
(ここは白鳥の飛来地なのに、あの木彫りの白鳥たちは旅立ったんだな)
――気付くと、既に日が暮れていた。
はたと辺りを見渡すと、そこは湖でもなんでもない貯水池だった。暗がりでよくわからなかったが、木片などひとかけらも見当たらず。
ただ、遅く帰ってきたくりちゃんが土産話と共に渡してきた木片が、その白鳥の証だった。
それはペンキの匂いがした。
たぶん1D3/1D10ぐらい
くりちゃんはあまり「犬運」が良くない。
小学生の時には放し飼いにされていたゴールデンレトリバーに追いかけられたし、中学では友達の家のラブラトールに圧し掛かられた。
それでもくりちゃんがとても犬嫌い、とまでいかなかったのは親戚の家で飼っている犬のおかげだろう。昔は雑種の大型犬を飼っていて、この間まではトイプードルを飼っていた。猫派の次男一家とは違い父の実家は犬派らしい。
だがそれでも、さすがに明らかに狂犬病に罹っていそうな野良犬と出くわしたときは、平和主義は返上したくなったという。じりじりと後退りながら、さてどうしたものか、と路地の前を後退りで通り過ぎた。
しびれを切らしたのは犬の方だった。
脚力で飛び上がり、くりちゃんに噛みつこうとしてきた。それをくりちゃんは持っていた鞄で横っ面を叩こうとした、らしい。
らしいというのは、その後の展開があまりに冒涜的だったからだ。
飛びかかろうとした犬が、路地からにゅるりと出て来た触手に絡め取られた。
目を瞠るくりちゃん。声も出ない犬。吸盤の生えたその触手は、粘液を撒き散らしながら、ぬるりと路地に引っ込んでいったそうだ。
あまりの事態に、武器にする予定だった鞄を持ったままのくりちゃん。彼は鞄を背負い直すと、恐る恐ると路地を覗き込んだ。
そこは、いつも通りの薄暗い路地だった。何にも変化のない、青いポリバケツすらいつも通りの光景だった。
「助けてくれたのか、餌を捕食したかったのかはわからないが。とにかく助かったし、まぁいつものことだな」
「くりちゃん、くりちゃん、そのSAN値チェックものの事態を受け入れるのはどうかと思うよ? その路地裏があるところどこ? 2度と通らないから」
「あれはたぶん、路地……蛸壺のようなものがあればどこからでも出てくるんじゃないか」
「イヤッ!!」
冒涜的な光景の情景描写を読んでしまったあなたは1D3/1D10のSAN値チェックです。
足音
病気が流行り出して以降、くりちゃんがスーパーへ買い出しに行くのは遅い時間になるようになった。偏に人混みを避けるためだけど、色んなものを惹きつけるくりちゃんにはあまりよくないことのようだった。
卵の特売日で最寄りのスーパーに行って帰ってきたくりちゃんは、いつも通りの顔色で――実のところ顔色はわかりにくいのだけども――、首を傾げながら言った。
「帰って来た時。道の向こうから足音がしたんだ」
「それで?」
「足音は近付いてきたんだが、誰もいなかった」
「怖……」
「ただ、ここで奇妙だったのが……」
くりちゃんは言った。いつも通りのごく真顔で。
「見えないその誰かは、エコバックを肩らしきところにかけてた。それで俺の横を通り過ぎて歩いて行った」
「……」
「これは幽霊なのか? 透明人間なのか? それとも俺の頭がまずいのか?」
「最後のはそういう漫画あったね……とりあえず他の人が見えてるんだから幽霊じゃない? 透明人間は現実的じゃないよ」
僕は言ってから、「幽霊も現実的じゃないよね」と自省した。けどくりちゃんは気にしてない様子で「やはり幽霊か……」と独り言ちていた。
こういうことが日常になってしまっているくりちゃんだった。
了