pixivより転載
そもそも刀剣男士にバース性は要らないと大倶利伽羅は常々考えていた。刀剣男士と言うかりそめの身体で子どもなど作って何になるのだろうと。
異去への出陣には、そんな大倶利伽羅も付き合わされた。彼の極としての練度はそれなりに高かったので。
それが間違いだったろうか――大倶利伽羅は張番だという脇差男士に対面したとき、思った。
アルファとしての本能が、彼を手に入れろと訴えかけて来たからだ。
(参ったな……)
大倶利伽羅のいる本丸もそれなりにゴリラだ。なので、今既に火車切は本丸に来てしまった。オメガへの対処法を考える暇もなかった。大倶利伽羅はひとり、部屋で考え込む。こういうときこの本丸が基本的にひとり部屋なことに感謝の念を抱かざるを得ない。希望者は相部屋になるが。大倶利伽羅は頭を乱暴に掻く。彼にしては珍しい仕草だったが、それを見咎める者はいない。――今は。
(俺は番を持つつもりはなかったし、信じてもいなかったが……これは所謂「運命」というやつだろう)
彼が今悩んでいるのは、大倶利伽羅に対処の暇も与えずやって来た火車切のことだ。第二の性別については本人の口から直接訊いていないが、アルファの大倶利伽羅にはわかってしまう。あれはオメガのフェロモンだ。
人間で言えば、自身の第二の性別を知るのは丁度脇差男士の年頃……10代前半ぐらいだと言う常識は大倶利伽羅にも刀剣男士のプリセットの知識として備わっている。だから短刀男士は自身の第二の性別を知らない者も多いし、脇差男士の中では区々だ。たとえば体の大きいにっかりは自身の性別を把握していることが多いが、それ以外の脇差男士はばらばらの場合が多い。番ができた場合、ヒートが来ることもあると言う。それを考えると大倶利伽羅は頭が痛い。
彼は本当に、番を持つつもりがなかったのだ。多くの刀剣男士に言えることだが、分霊として顕現した彼の第二の性別は分霊ごとにバラバラで、彼は偶々アルファだった。古馴染の伊達の刀剣男士に運命がいないことに安堵して、9年。この9年間、誰も運命ではなかった。だからこれからも運命に出逢わずに済むだろうと根拠もなく考えていた。それがこれである。
(……なんだかキラキラした目で見られていたが……要は番にならなければいいんだ)
「大倶利伽羅、入っていいか」
不意に障子の外から声がかけられる。ここの近侍の長谷部の声だ。応えを返すとすらりと障子が開く。
途端、漂ってくるフェロモン。
大倶利伽羅が目を瞠っていると、長谷部は後方に火車切を連れたまま言った。
「今日から火車切と同室だ。火車切の希望でな」
「……よろしく」
断ることもできず、大倶利伽羅は「……そうか」と小さく呟いた。
その日から、大倶利伽羅の生殺しがはじまった。
「……太鼓鐘」
「なんだぁ?」
ある日の馬当番。偶々一緒になった太鼓鐘に、火車切は切り出す。本丸で接するうちに「信用してもいいだろう」と判断した相手だ。
「俺、大倶利伽羅に嫌われてるのかな」
「えー、それはないんじゃねぇか? 寧ろ可愛がってるだろ、あれは。なんか根拠あるか?」
「根拠と言うか……」
火車切は思い出す。
初陣で大倶利伽羅と共に出陣した。そのときに火車切は大倶利伽羅に憧れている、と言うようなことを――正確には大倶利伽羅の左腕の竜――言った。そのときの大倶利伽羅は、彼にしてみれば優しい反応だったと部隊長の式神を通して様子を見ていた審神者が火車切に教えた。
なので安堵していた。しかしその安心も束の間。
「……なんとなく、距離を取られている気がする」
「うーん、なれつもなれつもって普段言ってるけど、そっと傍にいる程度なら何もしないはずなんだけどなぁ……」
太鼓鐘は竹箒を抱えながら思案する。彼の知る大倶利伽羅は、何だかんだと懐かれたら傍にいてもそっとしておくところがある。ましてや火車切は同じ広光派だ。最初から懐に入っているような相手だ。そんな相手と距離を取る理由とは。太鼓鐘はそこまで考えて、ふと、彼にしてみればただの思い付きで尋ねて来た。
「なぁ、お前の二次性別オメガ?」
「えっ、なんでわかるの。そういうあんた、アルファ?」
「いや、俺はベータ。あのさ、伽羅はアルファなんだよな。まさか運命じゃないだろうけど、フェロモン気になるんじゃないか? なーんて。……あっ悪い、ただの思い付きだからそんな深刻な顔しなくても」
「ねぇ、大倶利伽羅。俺、部屋分けてもらった方がいい?」
その日の夜、布団を敷く大倶利伽羅に火車切はそんなことを言い出した。大倶利伽羅は、なるべく冷静に問い返す。
「何か言われたか」
「うん、と……大倶利伽羅がアルファだって。それで、俺の匂い、気になるんじゃないかって……」
「誰に言われた」
「太鼓鐘」
(貞、明日話がある)
「それで、大倶利伽羅、やっぱ気になる?」
大倶利伽羅はずるい、と思った。その目で見つめられては、大倶利伽羅としては拒めない。
大倶利伽羅は正直に言えば、そもそもこの弟分が可愛くて仕方ないのだ。それは本能以前の問題だった。
だから、大倶利伽羅としてはこう言わざるを得ない。
「……大丈夫だ。不安にさせたなら、悪かった」
こうして大倶利伽羅の生殺し生活は継続することになった。
変化は突然に訪れた。否、大倶利伽羅からしてみれば「少し様子が違うな」と言う程度の変化はあったのだが、明確な変化が起きた。
火車切がぼんやりとしている姿が増えた。元より身内以外にはどちらかと言えばぼんやりしているので、身内以外はその変化に気付かなかった。上杉の刀は「最近ぼーっとしているけど、大丈夫か?」と尋ねた。火車切は「ちょっとぼーっとしてたいだけ」と答えたので、問答はそれで終わった。
大倶利伽羅にとっての大問題がここで発生する。
「おおくりから」
ある日、火車切は起きて来なかった。その日の火車切は非番だったので偶の寝坊ぐらいいいだろう、と大倶利伽羅は特に声をかけていかなかった。しかし昼過ぎに内番から戻って来ても、火車切は布団をかぶっていた。さすがに心配になり声をかけると、先程のぼんやりした声をかけられたのだ。大倶利伽羅の心臓が跳ねる。
布団から、フェロモンが漏れて来ていた。それに喉を鳴らしていると、火車切は布団から顔だけ出した。そして右腕も出してくる。
「うわぎ、かして」
「え?」
「いまきてるやつ……おねがい……」
「あぁ……?」
大倶利伽羅は戸惑いながらも、着ていた内番着の上着を差し出す。火車切はそれを受け取ると、再び布団の中に引き籠ってしまった。それから何も聞こえてこないので、しばらく火車切の今の行動の意味を考えた。
そして、大倶利伽羅はある答えに至る。
(巣作りか……!)
ばっと火車切を見る。正確には彼が籠っている布団を。
よく見るとそれは大倶利伽羅の掛布団だった。恐らく大倶利伽羅が押し入れにしまったのを引っ張り出したのだろう。しかしそれでは満足できずに、今大倶利伽羅の上着を奪っていったのだろう、大倶利伽羅はそこまで推察した。
大倶利伽羅は無意識に口元を押さえる。「かわいいな」と呟きそうになったのを抑えたのだ。そして同時に絶望に近い気持ちも現れる。
巣作りをはじめた。と言うことは、ヒートも間近だ。
大倶利伽羅はアルファ用のヒート誘発制御剤の処方を審神者に求めようと決めた。
しかし、事態は大倶利伽羅の思うように動かない。
突然、審神者が現世出張に赴いてしまったのだ。詳しくはわからないが急務だそうで、3日は本丸を空けるしなんならもっと期間が延びる可能性もあるという。近侍はいつも通り長谷部がつき、第1部隊長の加州が留守を預かることになった。
本丸には極カンスト刀剣男士もそこそこいる。本丸が襲撃されても容易く返り討ちにできるだろう。大倶利伽羅はそこの心配はしていなかった。
問題は薬をもらえないことだ。
この本丸には他に番が何組かいるが、基本的にヒートのときは特別休暇をもらって引き籠っているからヒート誘発制御剤は処方されていない。つまり、誰かから薬を分けてもらうことはできない。
大倶利伽羅は絶望の気持ちで、審神者が帰ってくるまでできるだけ心を強く持とうと頑張った。
頑張ったのだ。
――そして、それはやって来た。
審神者がいないから出陣は休みで、火車切はあれからほとんど布団の中に引き籠っている。布団は返してもらえなかったので火車切のものを使っているが、問題はそこではなかった。日毎にフェロモンが強くなっているのだ。
大倶利伽羅は頑張った。本当に頑張ったのだ。
けれどその夜。大倶利伽羅が大浴場で冷水を浴びて自我を保ち戻って来た先で、障子を開いた先から強烈なフェロモンが襲って来た。
火車切はぼんやりと布団の上に座っていた。潤んだ目で、大倶利伽羅を見つめてくる。寝間着は胸元が開けていて――
「おおくりから」
彼を、呼ぶ。
「からだ、あつい」
大倶利伽羅を見つめてくる。手を、差し伸ばしてきて。
「たすけて」
――この辺りで、大倶利伽羅の理性の糸は音を立てて切れた。
「あ、おおくりから、おおくりから……!」
火車切が切なそうに彼の名を呼ぶ。
大倶利伽羅は火車切の細い腰を強く掴み、彼自身を突き入れる。火車切は敷布を握りしめ、ピストンを受け入れる。既にお互いに何度も精を吐き出していた。火車切の後孔からは白濁が溢れていた。大倶利伽羅の理性は火車切のフェロモンで焼ききれていたので、それを掻き出してやる余裕などない。ただ精を注ぎ込むだけの獣になっていた。いい加減涸れそうになる度に火車切が大倶利伽羅の名を呼ぶので、その度に彼自身がそそり立ってしまう。
――不意に大倶利伽羅にわずかながら理性が戻ったのは、火車切が枕を抱き締めながら彼を見ていることに気付いたときだ。
「火車切?」
「かんで」
相変わらず舌足らずな声音だったが、大倶利伽羅はその言葉の意味するところを察する。
「うなじ、かんで。おおくりからなら」
常ならば、ここでちゃんと理性を以て考えたことだろう。
しかし、可愛がっている弟分。加え、火車切のフェロモンで大方の理性が吹っ飛んでいた大倶利伽羅は。
間髪入れず火車切の項を噛んだ。血が滲むほどのそれは、けれど火車切の性感を促し、そして確実に彼の身体を作り替えるものだった。
……やがて1度落ち着いたのは一夜明けてのことで。
喘ぎすぎて声の嗄れた、全身噛み跡だらけの火車切に、大倶利伽羅は「責任は取る」と重い決意をした顔で告げた。火車切はまだ意識が呆けていたが、幸福そうに微笑んだ。
「俺は大倶利伽羅がいいんだよ」
審神者が帰って来たのち、「大倶利伽羅が弟分に手を出した」と言う騒ぎが起き、上杉の刀剣男士たちに「ちょっと話がある」と言われるのはまた別の話だ。
了