pixivより転載
基本的に、大倶利伽羅は他の大多数の刀剣男士のように、本丸では内番着で過ごすことが多い。要はジャージなので動きやすいし過ごしやすいのだ。そのまま寝間着にしようとする者までいる始末だ。大倶利伽羅はそこまではいかなかったが、戦闘から帰ってきてすぐに内番着を着る速さには定評があった。
なので、折角審神者に買ってもらった軽装。これに袖を通したのは、気紛れだった。内番着をすべて洗濯に出してしまったという事情もある。内番着以外にも私服は持っているが、そう言えば軽装は着たことがほとんどなかったな……と言うことで、大倶利伽羅の軽装はめでたく日の目を見たのだった。
「あれ伽羅ちゃん、珍しいね。主くんが着てくれって訴えてた軽装、やっと着る気になったのかい」
「他に着る服もなかったしな。暇だ、何かやることはあるか」
「おっ、タスキをかけてまでやる気満々だね。折角だからこの里芋の山の皮を剥いてくれるかな」
そう言って燭台切は、容赦なく大籠に大盛になった里芋と包丁を出すのだった。
大倶利伽羅は嘆息し、泥は落とされていた里芋の皮むきにかかった。
丁度その時、厨に人が入って来る。
「ねぇ、燭台切。ウチの火車用の餌の生肉――」
火車切だった。厨の出入り口で、暖簾を押し上げて顔を出してきた。
その火車切の目は、丁度大籠を持とうとしていた大倶利伽羅の姿を見る。まじまじと眺めていたかと思うと、顔を手でおさえた。
やや震えている声で火車切は大倶利伽羅に尋ねてくる。
「えっ……その格好どうしたの……?」
「軽装だ。……お前のはまだなかったな」
「そう……それが大倶利伽羅の軽装……」
蕩けたような声音で火車切は言った。
「似合ってる」
「……有難う」
「あ、火車切くん、それで火車くん用の生肉だっけ? それならここにあるよ」
「有難う……」
燭台切が冷蔵庫から取り出した皿を見て、火車切の肩の上の火車が飛び跳ねる。その皿を受け取った火車切は、ギリギリまで大倶利伽羅の姿を視界に収めつつ厨を去った。
残された2振り。
「伽羅ちゃん、偶に着たら? それ」
「そうする」
大倶利伽羅は珍しく素直に答えた。
さて、そんなことがあったのが少し前。
季節は過ぎて夏。祭りの時期だ。各サーバーの万屋街でもそれは行われる。
現在、大倶利伽羅と火車切はその祭りに来ていた。2人きりである。
なぜこんなことになったか。偏に、どちらも非番だったことを知った大倶利伽羅が火車切を誘ったからだ。
火車切は軽装を持っていなかったので内番着で彼についていった。どぎまぎしていたのは、大倶利伽羅が軽装だからだ。火車切は内心で、自分も軽装があればよかったのにと思う。釣り合う気がしない。
「お前の軽装はそのうち実装されるだろう」
とは、そう言う心理を見抜いたらしい大倶利伽羅の言だ。
お囃子の音が鳴る。人々と行き交う。火車切は先程買ってもらったチョコバナナを頬張りながらやや俯く。隣の兄貴分が直視できないのだ。そもそもチョコバナナを買ってもらったときも「俺が払う」と火車切は言ったのに、「いい顔をさせろ」と大倶利伽羅はさっさと払ってしまった。口惜しさと羞恥と、それらを上回るときめきで心がぐちゃぐちゃだった。
ドン、ドンと太鼓が鳴り響く。スピーカーからは流行の音楽が鳴る。不意に気付く。――静けさを、孤高を好むこの刀が、こんな賑やかな場所に来た理由がわからなかった。けれどチョコバナナに刺さっていた割り箸を持っていた手は片方空いていて、その空いた手に触れるものがあった。びくりと体を跳ねさせ、隣を見上げる。
火車切の小さな手を、大倶利伽羅が握っていた。顔を見ると、僅かに、ほんの僅かに大倶利伽羅は微笑んでいた。
火車切は戸惑いがちに握り返し――不意に人が押し寄せて来た。
「わっ」
火車切は思わず割り箸を取り落とす。拾おうにも人が押し寄せてきてままならない。仕方ないので顔を上げた。
大倶利伽羅の胸板に、火車切はしがみつく形になっていた。
「……!」
「……大胆だな」
ふ、と大倶利伽羅は今度こそ確実に微笑んだ。やや獣性が滲み出ていたのは、火車切の気のせいではない。割り箸のことをすっかり忘れて離れようとするが、人混みと――腕を掴んでくる大倶利伽羅の手で阻止されている。
大倶利伽羅は、一瞬だけ火車切の耳元に口を寄せた。
「……スるか」
「ん、……っ!」
――万屋街にも人目につかない茂みはある。
そこの木に火車切は腰を突き出し手を突いていた。大倶利伽羅はその彼の身体に覆い被さっている。
彼らは陰茎を擦り合わせていた。兜合わせである。大倶利伽羅は火車切と自身を重ねながら扱いた。
「お、くりからっ」
「静かに」
喘ぐ火車切に大倶利伽羅は低く囁く。そう言っておきながら、火車切自身の亀頭に指を埋めた。びくんびくんと跳ねる身体。きゅぅ、と唸る声。それらを大倶利伽羅は抑え込む。
「静かに、静かに……」
「む、り、いわないで、んっ」
火車切の滑らかな太腿に、大倶利伽羅自身が滑る。大倶利伽羅自身からの先走りが太腿を伝い、足元の火車切のスカンツと下着に付着する。遠くからのざわめき、足元からの淫らな水音。……大倶利伽羅の体温と匂い。火車切は堪らなくなる。
けれども。
「あ、も、いくっ……」
「いいぞ、出せ」
火車切が唸り、大倶利伽羅は自身と火車切自身を重ねて強く握った。扱かれた瞬間、ほぼ同時に彼らは果てた。
……息を切らせながら、大倶利伽羅は体を離す。懐から懐紙を取り出して手を拭い、ついでに火車切の足も拭ってやる。この紙はどこに捨てるか……と大倶利伽羅が考えていたところで、火車切が下着とスカンツを履いた。
そして、ぴとりとすり寄って来た。
「どうした」
大倶利伽羅がとりあえず袂にゴミを入れていると、火車切は熱に浮された目で見つめて来た。
「……やっぱり、この格好が見えている方がいい。かっこいい」
暗に正常位がいい、と言われ。
「……帰ったらな」
大倶利伽羅は火車切の額に唇を落とした。
そして大倶利伽羅は同時に思う。
(セックスしたいときに軽装は合図にするか)
その後、「大倶利伽羅が軽装を着たあとは火車切が寝込むから使い物にならない」と言う言説がこの本丸で定着することになる。
了