pixivより転載
火車切は政府での講習で話には聞いていた。本丸が襲撃を受ける場合がある、と。
しかしそれは結界のアップデートのかみ合わせが悪いときなどに襲撃されて起こることで、本来は飛行機事故ほどの確率なのだとも聞いていた。
でも、確率など起こってしまえば関係がないのだ。火車切は思った。
こうして今、実際に襲撃を受けている身としては。
「くっ……!」
火車切はまだ初だ。他の極の脇差男士のように攻撃をうまく弾くことができない。侵入してきた敵と必死で切り結ぶ。早く、早くゲートを閉じないと。主も守らなければ。主はどこにいる。恐らく長谷部と加州が守っているだろうが。火車切は内番着のまま駆け抜ける。
――頭に残っていたのは、つい先ほど帰投した大倶利伽羅のことだ。
大倶利伽羅は珍しく負傷していた。重傷寄りの中傷だったのに「俺はいい。もっと重傷の奴から手入れさせろ」と言って自分は手入れ部屋の前で座っていた。それに茶を持って行ったのが数分前。手入れ部屋の前に駆け付けたときには既に大倶利伽羅はいなかった。――殲滅に行ったのだろう。
火車切は胸騒ぎを起こしていた。嫌な予感がする。懸命に敵を打ち払いながら、火車切はがむしゃらに本丸中を駆け回った。
胸騒ぎは、最悪の形で実現することとなる。
庭の池の前、大倶利伽羅が単騎で戦っているのを見つけた。そこで気付く。――異去の敵も混ざっている。敵はどこで手を組んだのだろう。あれは異去における丙の大太刀だ。大倶利伽羅は苦戦していた。それはそうだろう、ただでさえ負傷しているのだ。
しかし、二刀開眼ならば。
「大倶利伽羅!」
声を投げかけると、彼は振り返らず「行くぞ!」と声を張り上げる。
「二刀開眼!!」
敵大太刀は、それでほぼ倒せた。池に落ちる敵大太刀の前で、火車切は大倶利伽羅に駆け寄る。血を流す左腕を手に取った。
「大倶利伽羅、怪我……!」
「問題ない。それより火車切、お前の方がまだ弱い――」
大倶利伽羅が火車切の方を向いた瞬間のことだ。
大倶利伽羅の身体を、背後から斬り貫く刀。
火車切は見た。大倶利伽羅の左腕が切り落とされ、彼の手に残ったのを。
倒れ伏す大倶利伽羅の背後には、瀕死の敵大太刀が刀を持っていた。
「――」
何事かを呟いて、大倶利伽羅の身体は刀ごと塵に消えた。
そして、火車切の手に残された、竜の刻まれた左腕も――
火車切は咄嗟に、瀕死の敵大太刀の止めを刺す。今度こそそちらも塵と消えたのち。
「あ」
――折れた刀身だけを残した大倶利伽羅のために、慟哭した。
「――!!」
……本丸の襲撃は、犠牲者は大倶利伽羅一振りだった。
それ以来、火車切の声を聴いた者はいない。
了