▼ピアス空けるネタは前にも書きましたがまぁなんぼあってもいいですからね
pixivより転載
さらりとした黒髪が括られる。
「これでいいですか?」
「うん。邪魔にならなければいい。眼鏡も外して、ぶつかる」
「はい」
そうして怜悧な印象を強くさせるメタルフレームの眼鏡が外される。切れ長の黒い目がややピントの合わない様子で火車切を見ていた。その火車切の手にはピアッサーが握られている。
『ピアスを空けてみたい』
雑誌を読んでいた審神者が不意に言い出したことだ。そのときの近侍は偶々火車切で、彼は「やってみる?」とごく気軽に答えたのだった。そして現在、買って来たピアッサーを前にして審神者はわくわくが止まらないと言う様子で笑っている。そうすると黙っている時の冷徹そうな雰囲気が一気に溶け消えるので不思議だ、と火車切は思う。何も知らない者からは「あそこの審神者は血も涙もない」などと言われているらしい。実際はそこまでひどくないのだが。火車切はピアッサーを片手に、審神者の耳に触れる。ぬるい温度をしていた。
自分でいいのだろうか、と火車切はふと思う。
彼女には婚約者がいると聞いている。実際テレビ通話しているところを何度か目撃した。印象としては「ナルシストの山姥切国広」で、実際に金髪碧眼でこれは混血ゆえだという。本職はアナウンサーとも聞いていた。そう言えば夕方のニュースで彼の姿を見た気もする。ナルシストと言っても審神者への気遣いは見え、そうしているとただ言動が愉快な男性だった。実際そうなのだろう。彼女が選んだ相手なのだ――火車切はそこまで考え、ピアッサーを下ろす。
「……やっぱりやめよう」
「えっ、なんでですか」
「俺に、主の身体に穴を空ける資格はないよ」
「資格……? 何の話です?」
眼鏡を外している審神者は本当に火車切のことが見えていないようだ。目を眇めている。そんな彼女を見つめ返す。
異去から連れて来られたとき。なんて冷徹そうな女審神者だろうと火車切は思った。けれど融和の笑顔に惚れてしまった。火車切は我ながらなんと単純だろうと思った。けれど、彼女には婚約者がいると聞いて失恋を悟ったのだ。
そして今も、未練がましく彼女を想っている。
火車切は言う。
「……こういうのは婚約者さんにしてもらいなよ」
「は? 婚約者? そんなのいませんよ?」
「――は?」
今、なんと言った。火車切が思わずピアッサーを握り壊しそうになるいきおいで見ると、眼鏡をかけた彼女が目を瞬いている。
「だから、婚約者も彼氏もいませんって。小さい頃から病院に入退院を繰り返してたし、高校から審神者やってるからそういうのとは無縁で」
「じゃ、あの、金髪の男は」
「彼は親友ですよ! 高校からの! あっみんな彼のこと彼氏とか婚約者って誤解するんですよね、もしかしてウチの刀剣の誰かから聞きました? まだ誤解が解けてないのかも」
どうしよう、とブツブツ呟く審神者。火車切はそれを見て――畳の上に大の字になった。
「火車切さん!?」
「……はは、そうか、婚約者でも彼氏でもなかったかぁ……今までの俺の苦悩は一体……――」
彼こそブツブツ呟いていた、その途中で体を起こす。
1部ではまだ誤解が続いている。そして恐らく、それもあって審神者に迫る者がいなかったのだろう。
チャンスだ。
ピアッサーを机の上に置くと、きょとんとしている審神者の目前にまで一気に詰め寄った。
「だったら、俺のことを見てくれる可能性もあるってことだよね」
「えっ」
審神者の手をそっと取る。頬に朱が走ったのを見て、火車切は「いけるなこれは」と確信した。
その後、「私はあなたの外見年齢より10歳は上ですよ」と宣いながら火車切を拒絶し続ける審神者と、「実年齢は俺の方があんたの一生を超える」と迫り続ける火車切の姿が見られたと言う。
了