▼金髪碧眼なのは妻が刀鍛冶(鍛冶師はイッポンダタラ≒鬼と同一視されることもある→鬼は髪や肌が派手)の娘だからという理屈
pixivより転載
新しい刀剣男士が来るとは聞いていた。
それがこのところは珍しい粟田口らしいと聞いて、審神者は意外に思ったものだ。
(今新しく粟田口が来るとすれば一竿子忠綱とかかな)
審神者は歴史を思い起こしながら考える。自身の死後、江戸時代は太平の世と言われながらも結構血腥い。田沼意知暗殺事件などもそのひとつだろう。その暗殺に使われたのが一竿子忠綱、粟田口の後継を名乗る刀工による大脇差だ。
ただ、次にどうやら短刀男士らしいと聞いて、ますます特定が困難になった。粟田口の短刀などどれだけいることか。自身の生前も、妻に贈った懐刀が粟田口の短刀だった。しかし自身はあまり有名な大名ではない。あの短刀に纏わる逸話など、地元民が歴史書で知るぐらいだろう。
だから、よもやその「妻に贈った短刀」が来ると思っていなかったのだ。
それも――だいぶ衝撃的な姿で。
「オレは小鞠藤四郎。え? 知らないって? うるせーなマイナーなんだよ!」
――アッシュブロンドの短髪。切れ長の青い目。きつめの美貌。
審神者は「彼」を見て硬直してしまった。
「主? いかがなさいました」
近侍の一期一振が、新たな「弟」を歓迎していた中、審神者の様子に気付いた。審神者は口元に手を添えつつ、「なんでもない」と誤魔化した。
一方、新たな短刀男士――小鞠は、審神者を見つめていた。青い目で、じっと。
その目が、辛かった。
似ていた。あまりに似ていた。「彼女」に。それはそうだろう、と審神者は思う。
「そうあれ」と望んだのは自分だ。
「審神者をやっていたなんてな。――●●●様?」
その日の晩。審神者の私室に小鞠はやって来た。審神者の真名を呼んで。
正確にはそれは生前の通り名。例えるなら伊達藤次郎政宗の「藤次郎」がそれに当たる。それを知っている者はやはり地元民とごく1部の歴史マニアだろう。そして、それが小鞠がまさしく「あの短刀」であることを示していた。布団を敷いていた審神者は、嘆息する。
「……とりあえず入ったら」
「邪魔する」
小鞠は後ろ手に障子を閉める。布団の上に座る審神者に対し、彼は畳の上に直に胡坐をかいた。
まだ茶道が普及しておらず正座の習慣が薄かった頃の刀だ。胡坐をかくのも当然だろう。そう思いながら審神者は言う。
「……なんでお前が刀剣男士になったんだ」
「平たく言うとオレを受け継いだ子孫が金に困ったんだ。政府に鑑定してもらって、顕現できるってなったから実装されることになった」
「……俺の子孫は皆金に困っているな」
「何? 他の刀も売られたのか?」
「『あるじ切り』とその写しが政府に売られた。『あるじ切り』は刀剣女士として審神者をやっているらしいが」
「マジウケる」
「ウケるな。……はあまったく。本当に、なぜお前は……」
審神者は自分の前髪を掴む。誰に八つ当たりしたものかもわからない。強いて言えば小鞠を実装した政府だろうか。
違う。責めるべきは己なのだ。審神者は終いには顔を手で覆う。
そんな彼を、哀れんだのだろう。小鞠は彼の肩に手を置いた。
「大丈夫だ、●●●様。――主。オレはあんたの妻じゃない。そうだろう?」
小鞠は囁いた。
「たとえあんたが、妻亡きあと悲しみのあまりにオレに妻の名を与えたとしても」
粟田口の無銘の短刀。とある大名は、嫁入りしてきた正室にその短刀を懐刀として与えた。
曰く、「俺が道を誤ったらその短刀で殺してくれ」。
妻は頷いた。
しかし、妻は2番目の子どもを産むと産後の肥立ちが悪く亡くなってしまう。
残されたのは一振りの短刀。
夫は、その短刀に妻の名を銘として与えて刻ませた。
――産み落とされた娘は、伊達政宗の側室として嫁ぐ際にこの短刀を贈られている。
そしてその子孫に受け継がれていった。
「俺はお前に残酷なことをしてしまった」
審神者は顔を手で覆って頭を伏せる。
「付喪神が『そうあれ』と望まれたらそうなることを、あの頃の俺は知らなかったんだ……」
審神者は小さく嗚咽を漏らす。
「妻に――小鞠に生き写しじゃないか……」
「だって、オレは、『小鞠藤四郎』だからな」
小鞠は言った。慈悲深い笑みすら浮かべて。――今の審神者にそれを見る余裕などないことなどわかっていながら。
「『忘れ形見』なんだろ?」
その後、小鞠は順調に練度を上げていく。
しかし、審神者はろくに彼の顔を見ることなく過ごしていくことになる。
了