▼吃驚するほど久々のくりかしゃが破壊ネタですいません……ついったーでだいぶ以前に呟いたくりかしゃネタがふぁぼされたので久々に書くかーとなりまして……
pixivより転載
自分たちの担当の異去の張り番は、他と少し変わっていた。
他の張り番は番小屋の中に籠っていて、受付から渡してくる提灯を受け取らざるを得ない。異去での彼を迎えて彼の顔を見るのは中々至難の業だ。
ところが、ここの張り番は違った。
番小屋の前に椅子を置き、膝を組んでスケッチブックに何かを描いている。それが、ここの張り番の彼だった。
部隊長の大倶利伽羅が声をかけると、「あぁ」と思い出したように提灯を渡してくる。そしてまた、何かを描きはじめるのだ。
それについて、大倶利伽羅は指摘したことはない。そういう個体もいるのだろうという認識だった。
さて、ノルマを経て、張り番もとい火車切が本丸にやって来た。
お定まりと言わんばかりに、火車切は大倶利伽羅と同室になる。それ自体は大倶利伽羅は構わなかった。むしろ大歓迎だった。顔には出さなかったが。
その火車切は、例のスケッチブックを持っていた。唯一の荷物はそれだ。しかし彼は大倶利伽羅に尋ねた。
「本丸って焚火とかできる?」
火車切が本丸に着任してはじめにしたことは、そのスケッチブックを燃すことだった。
秋の日の夕暮れに、それに便乗して焼き芋を焼く短刀たちを眺める火車切。それに、隣に立っていた大倶利伽羅が尋ねる。
「いいのか?」
「何が」
「お前が描いた作品だろう」
「あぁ……いいんだ」
火車切は言った。
「必要なことだから」
そう言って、火車切はめらめらと燃えるスケッチブックを眺めた。
火車切が本丸での初任給で買ったのは、スケッチブックと鉛筆だった。
この火車切は絵が好きらしい。
そして大倶利伽羅とのとあるやり取りを経た彼は、大倶利伽羅に尋ねた。
「描いていい?」
大倶利伽羅は、恐らく左腕の竜のことだろうと思って頷いた。
「いいが、俺は勝手に動くぞ」
「いいよ」
そう言いつつも、火車切がスケッチブックを取り出しているときは、大倶利伽羅は動かなかった。その意図に気付いてか、火車切も黙って鉛筆を走らせた。
秋から冬を経て、それから大倶利伽羅は、相変わらず鉛筆を走らせる火車切に問うた。
「なぜ、最初のスケブは燃したんだ」
最初の頃ならば答えなかっただろう。しかし、本丸にも大倶利伽羅にもなじみつつあった火車切は、鉛筆を止めずに答えた。
「……あれに描いていたのは、異去にいたものだから」
火車切は言う。
「あれを万が一他の人に見せたら、『感染』させてしまうから」
それがどういう意味か、大倶利伽羅にはわかるようでわからなかった。
ただ、あのあの日の熾火が燃える瞳が、異去の何を見透かしていたのだろう、とは思った。
そんな火車切が、折れた。
ほんの些細なことが切欠だった。お守り極を渡されていた火車切が、1度折れたのち完全回復したので、そのまま行軍を進めた結果のことだ。
火車切が折れたことに、誰より嘆いていたのは審神者だった。
初期刀や近侍が慰める。それを見て、大倶利伽羅は何も言えなかった。
代わりに、「火車切の荷物の片付けは俺がやる」と申し出た。
審神者は、頷くしかなかった。彼の兄弟刀を喪わせたのも審神者だった。
障子を開いて、閉じる。夕暮れは、あの日スケッチブックを燃した秋の日とよく似ていた。
大倶利伽羅は、ふとそれを目にする。
火車切のスケッチブックだ。それを見て、大倶利伽羅は手に取る。
さぞかし竜で埋め尽くされているのだろう。そう予想してのことだった。
しかし予想は裏切られる。
──大倶利伽羅の顔だった。
それは横顔だったり真正面だったり寝顔であったりと、とにかくスケッチブックは大倶利伽羅の顔で埋め尽くされていた。
ページを繰っても繰ってもずっとそれ。
大倶利伽羅は、呟いた。
「……竜に憧れていたのは、お前だろう」
彼の声が、ひとりきりになった部屋に響いた。
了