▼年納めです! 良いお年を!
pixivより転載
この年がら年中豪雪の本丸は、アルコール摂取率が他の本丸に比べて高いという特徴がある。当たり前だが寒いのである。特に刀剣男士の中でも西の方に所縁がある者は、寒さゆえに短刀ですら飲酒している。なお、審神者は慕われているのと、彼女の「雪女の末裔」という特質ゆえに「豪雪以外の景趣にしてくれ」と訴える者はいない。厚着傾向にある刀剣男士の中で、彼女はいつでも涼しげなキャミソールワンピースに裸足だった。
そのような本丸なので、連隊戦の合間をぬった忘年会で羽目を外さないわけがない。
「改めて、安宅切いらっしゃ~い!!」
次郎太刀が音頭をとる。その声に十重二十重に賛同の盃が上がる。「や、どうも」とその中心の安宅切が恐縮した様子で片手を上げた。その手には盃がある。日本号が笑った。
「まぁ吞めや。ウチの本丸だとまず酒を入れるところからはじまるからな」
「思ったんだが、酒が飲めない個体はどうするんだ」
「そういうのにはちゃんとノンアルコールとホッカイロを渡してるさ。な、へし切」
「そうだな」
短く答えてから、安宅切のもう反対にいた長谷部がとっくりから手酌をしていた。安宅切はそれを見咎める。
「御刀様、酌なら私が……」
「ああ、いい。この本丸だとそういうのはいいんだ。好き勝手に飲む。それだけだ。寧ろ今回の主役のお前に酌をする側だからな今の俺は」
「畏れ多い」
「いいから飲め」
「はぁ」
そう勧められ、安宅切はとりあえず日本号に注がれた1杯を呷った。甘露だった。
「……! 随分上質だ」
思わず口元に手を当てる安宅切に、長谷部が自慢げに語る。
「そうだろう。主のご実家がとある銘酒で有名な酒蔵と懇意でな。ウチが大口購入するのもあってサービスしてくれるんだ」
「なぜ御刀様が自慢げで……?」
「気にすんな安宅切。こういう奴だ」
そう説明してから、日本号はさらなる詳細が必要だと気付いて声を潜めた。
「……断っとくが、こいつのは純粋な忠誠心だからな。ウチの主は山伏と懇ろだ」
「……私は何も言っていないが」
「誤解は解いとこうと思ってな。さ、飲め飲め」
そう言ってすかさず安宅切の盃に酒を注ぐ日本号だった。
さて、宴もたけなわ。そろそろ潰れて来る者が出て来る頃である。
上座では審神者が上機嫌に5升目を空けていた。審神者はザルを通り越してワクだった。全体として、この本丸は審神者の影響を受け酒に強い傾向にある。
ただ、例外もある。
この安宅切がそうだったようだ。
「……おーい、安宅切。大丈夫か?」
「んん……」
白皙を赤く染め、盃を持つ手も危うく、うつらうつらとしている安宅切。日本号が彼の前で手を振るが、反応が鈍い。
「こりゃダメだ。部屋に運ばねぇと」
「あぁ、俺が運ぶ」
そう言って、卓に盃を置いた長谷部が安宅切から盃を奪う。それから、安宅切を抱えて立ち上がった。鮮やかな一連の行動に、周囲はツッコミを入れられない。
それでも、そこまではよかったのだ。潰れた者を介抱することはよくある。こういう光景もまま見られることだった。
問題は、抱えられた方にあった。
まだぼんやり意識があったらしい安宅切は、自分が抱えられたことを把握したらしい。
「……御刀様?」
「そうだ、長谷部だ」
答える長谷部の声も若干浮ついている。彼もそれなりに酒が入っていた。
安宅切は、抱えられたまま、にへ、と笑った。
「へしきりさま」
そう言って、彼の頬に口づけを落とした。
……それからかっくりと長谷部の身体に凭れる。長谷部は、顔の見えないまま、「それじゃ」と大広間を出て行った。
「……ウチのが済まない」
日本号が呟いた。黒田組は同じような顔をしていた。どういう表情かは察して欲しい。
「まったく、飲みすぎだ」
自分のことは棚に放り投げながら、長谷部は呟く。そこは安宅切に宛がわれた部屋。一旦彼を壁に凭れさせると、慣れた様子で押入から布団を出す。それを手早く敷くと、再び安宅切を抱えた。布団に横たえる。
それから、離れようとした。……離れようと、したのだ。
長谷部の袖を、安宅切が掴んでいた。
安宅切は、茫洋とした藤色の双眸で長谷部を見つめていた。
「……おかたなさま、どこにいかれるのです? ……」
それから、手が離れた。
……眠りに落ちる際に見た夢だろうか。長谷部はそう思いながら、そっと安宅切の頬に手を添えた。
それから、唇──に向かいかけた口づけを、額に落とした。頭を撫でる。
「おやすみ。良い夢を」
「なんだ、戻って来たんだ長谷部」
「あのまましっぽりいくかと思った」
「加州、大和守……酔っ払い相手にそういうことをするわけにかないだろう」
「え、酔ってなかったらしたの?」
「えー手が早ーい。安宅切ウチに来てまだ1週間経ってるかどうかじゃん」
「………………」
了